第3話 不思議なお花とティータイムを






『この子たちにアナタの悪い子を暴いてもらうでちよ!』


 シュルシュルシュル!


「えっ、ちょ、まっ!」


 驚いている内に、あっという間だった。

 不思議な花々から伸びたツルは、椅子に座る私の自由を奪う。


「もうっ……なんなのよこれは~!」


 虹色の蝶羽をはためかせ、ポポがテーブルの上を舞う。抗議の目を向けるも、ポポはさらに胸を張った。


『この子達は、心の中の嘘を見抜くことが出来るんでっち!』


 まさかのウソ発見器だった。


「えっ! いやその――私、嘘ついてないってば!」


 森の中を荒らしただとか、誤解もいいところだ。というか、私はこの異世界に来たばっかりの右も左も分からない、ただの人なんだってば!


『悪者はみんな一度はそう言うんでちよ! 違うと言い張るのなら、判定を受けてみると良いんでち! 嘘だったら、こわ~いお仕置きが待ってるんでちよぉ~?』


レッドゾン『イイからヤれやぁ!』


 花に怒られた。


 と、とりあえずやるしかないわね! すべてに「イエス」と答えるという簡単な説明を受け、判定は開始された。


ミドリン『じゃあはじめま~す。えーっと、お姉さんは森を荒らしちゃったの~?』


「はい」


 ファアアアア!


 レッドゾンさん達が虹色に光る。

 お仕置きらしき事はされていないし、これは、嘘を言っていないっていう判定でオッケーね!


 その他、悪事系質問を色々とされたけど、どれもしていない私は普通にクリアする。

 質問を重ねるごとにポポは何だか不満そう。というか落ち着かないみたいだ。


ミドリン『は~い。してないしてない。もういいじゃん帰ろ帰ろ~』


『だ、駄目でち! 納得いかないでちよ。一回くらい、みんなもブブーが聞きたいでちょう?』


 なんか趣旨、変わってない?


レモネードゥ『んまぁ! いいわね楽しそうじゃない。じゃあわたくしが質問をしてみましょう! そうね~、貴方は殿方かしら?』


 うぐっ!


 み、みんなの視線が痛い。

 答えないとこれ終わらないってこと?


 私は仕方なしに、嫌だけど意を決してその言葉を口にする事にした。


「……はい」


 ブブー! 

 

 どこからか鳴る低音と共に、レッドゾン達が真っ黒く染まる。三者三葉のブーイングが巻き起こった。


 そして、どうしてこんな目に遭わないといけないのか判らないお仕置きの時間が――。


「ちょっ、んはっ、きゃーはははっ! んぎゃはっやめてーーっ!」


 伸びたツルによる、くすぐり刑に私は処されたのだった。





レッドゾン『お役目も終わったし、撤収!』


ミドリン『ほんじゃあね~』


レモネードゥ『また会いましょ、ンフッ!』


 そして。

 ひとしきりくすぐりまくった後、不思議なお花はポポが止めるのも構わず、消えてしまった。



 

――ここはやっぱり、異世界なんだわ!(ぜーはー)


 こんな現象、今まで自分がいた世界じゃ考えられない。

 リアルに喋って動く人面花にくすぐられるだなんて、そうそう体験出来ないわよね。


『ムキー! 勝手に帰るなんてヒドイでち! クチョクチョ!』


「ふふ」


 何より、手のひらサイズのこんなに愛らしい妖精さんが目の前にいるんだもの。


 私はテーブルの上に立っていたポポにそっと顔を寄せた。


「レッドゾンさん達はポポのお友達なんだよね?」


『……そ、そうでちよ? 昔から一緒にいたです。というか何を気安く話し掛けてくるでち?』


「だったら、信じてあげてもいいんじゃない? 大切なお友達のこと」


『ウッ……ぅるさいでちよ。プイプイッ!』


 この世界の事を教えてもらいたかったけど、すぐに仲良くなれるものでもないか。

 考え込みそうになったその時、ふいにエリアスがこちらに駆けて来た。


「どうしたの?」


 私の膝に顔を埋めていたと思ったら、エリアスはパっと顔を上げる。

 彼の翡翠の瞳は私の胸元に注がれていた。


「これ? えへへ、可愛いでしょ~。私のお守りサシェよ。おばあちゃんの形見なんだ。あいにく、もう香りは抜けちゃってるんだけどね」


 見る間にエリアスの頬は紅潮した。大きな瞳は零れそうで、まるで宝石みたいに輝いている。


「こっちに来て」


 無口なエリアスが喋った!


 そして驚く私をよそに、また手を引かれたのだ。


 部屋の奥にはもう一つ扉があった。エリアスはどうやらそこへ私を案内したいようだった。

 

 エリアスの小さな手に、確かな意思を感じる。

 急かされてはいないのに、何故か心がはやる。


 その先が何処に繋がっているのか、何が広がっているのか、私には想像もつかない。


 でも、こんなにもワクワクと胸が高鳴るのは、生きてきて初めての経験だったかもしれない。

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