調香師の魔法のポプリ ~その香り、恋も悩みも解決しちゃいます!
まきむら 唯人
第1話 異世界に来ちゃいました!
私の名前は
趣味のポプリ作りは、クラフトイベントで毎回完売するくらいの腕前なんだよ?
「ということで、今日も今日とて材料採集! レッツだゴー!」
休日の今日は行きつけの山へハイキング兼材料探しにやって来た。
採集に夢中になっていると、ついつい時間も忘れてしまう。
もうすぐお昼かなと、休憩キャビンへ戻ろうとしたら、とっても不思議な花を見つけたの。
そこはメインのハイキングコースからは外れた場所だった。
「崖っぽいところだよ? でも~、あとちょっとだからって思うじゃない?」
心の中のもう一人の自分とキャッチボールすること数十秒。意を決して私は一歩を踏み出した。
「ん~!」と手を伸ばして、ついに私は虹色に輝く花を掴んだ。
と思ったら足元が不安定になって――、記憶はそこまで。
気が付いたら私は地面に倒れ込んでいた。
「イッタタタタ~……ぎゃっ! 服が破けちゃってるうぅぅ~……」
ゆっくりと身を起こすと、全身が痛んだ。慌てて全身を確認するも、目立った怪我はしていないようだった。
そのまま辺りを見渡すと、辺りは森。でも何となく、さっきまでいた場所とは違う気がした。
「確か崖から滑り落ちちゃったような気がするんだけど。夢?」
さらに不可解な事に、付近は平面で、小高い地形はどこにも見当たらない。
よくよく考えてみれば、崖から落ちてこの程度で済む筈がない。だとしたら、一体自分に何が起きたのだろう。
「んー……ハッ! そうだ! それよりもあの綺麗なお花! どこ! どこ!」
うんうん。こんな風にすぐ頭を切り替えられるのは、きっと長所よね。「判らないし、まぁいっか!」となっただけ、いうのは内緒。
何よりも探求心が勝ったの。
だって、この世にあんなに美しい花が存在するなんて、奇跡と言っても過言じゃない!
木漏れ日の光を受けてキラキラと光りを放っていた虹色の花。
光が当たる角度で見えた色なのか、そうじゃないとしたら、新種の花なんていう可能性だってある。
花弁はどんな質感なんだろう。
ポプリクラフターとしては、匂いへの興味がハンパない。
「あった!」
尻もちをついた自分のお尻で踏んじゃってたソレを発見し、私はワシッとそれを掴んだ。
『イッタァイ! もっと優ちくちなさいったら!』
「へっ? キャア!」
驚いた私は条件反射的にそれを放り出すも、慌てて受け止める。
「ふー」
そして恐る恐る、やんわりと虹色の何かを摘まみ上げた。
『フー。じゃないわよ! アナタ、あたちの自慢の髪をなんだと思ってるのん?』
花弁だと思ったのは、なんと小さな生物の髪の毛だった。タンポポの綿毛みたいにフワッフワだ。
私の手から飛んで逃れた小人は、トンと近くの木の枝にとまった。
肩をいからせプクーっと頬を膨らませて私を睨んできたのだけれど――。
「ようせ、い?」
口からポロリとその単語が零れたと同時に、私の胸はドキドキと高鳴り始めた。
だって私の目と鼻の先にいるのは紛れもない、本や映画の中でしか見た事の無いファンタジーな生き物だったんだもの。
小人には髪と同色の羽が生えている。それはそれは美しい七色の蝶の羽。
『そうなのよ! なぁに? あたち達をちっているクセに、扱い方は判っていないのねん。さっきもそう! せっかく気持ちよくお外の空気を吸っていたのに、よくも邪魔ちてくれたわね』
「え! ええっと、ごめん! ごめんね? 綺麗なお花に見えたの。それでつい収穫したくなっちゃって」
「ちゅうかく、でちって?」
くりくりとした空色の瞳が細められる。
怒っている未知なる生物。こんなに小さいのに、その威圧感ったらない。
私は慌てて理由を話したんだけど、なんだか余計に怒らせてしまったみたいだ。
「ちゅうかくって、あたち知ってるのよん! アナタ、泥棒でちね! 最近この森を荒らちている犯人でちか? ドロボウ! 妖精さらい! アナタ、悪い人!」
「ひえええぇっ、違う! 違うよ私は――キャアアァァ!!」
突然吹いた強風に、私は思わず目をつぶった。顔面にパチパチパチと何かが次々と当たる。
指の隙間から見えたのは、自分に向かって飛んでくる無数の花弁だった。
「わぁ、花吹雪? すご――ォエッ! げほ! ちょ まっ!」
妖精さんが放つ花吹雪に交じって、周囲の葉っぱや小枝まで飛んでくる。
呆けていた口に何かがインしたらしい。と思ったら目にもゴミがぁぁ!
「許さないでちよ! くらぇ! わたちの必殺技なのよん!」
「ふえええ、わ、私じゃないってば! ふえっクションっ! ぶえっ!」
とんでもない攻撃だわ。目から鼻から汁が出る、強烈な急性花粉症の症状。
どうしたら妖精さんのお怒りを、いや誤解を解くことが出来るのだろう。
息も絶え絶え、私は四つん這いになるしかなかった。
ティッシュ、箱で下さい。
切なる願いで地に伏した、その時――。
「ポポ……」
誰かの声がして、ふいに花吹雪が止んだ。
見ると妖精さんは、背後を振り返っている。
「助かった!」と思ったも束の間。
ガサリと茂みを揺らす何かに、ドキンと私の胸は跳ね上がったの。
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