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このデートを、美咲ちゃんとの遊びと何回比べたのか分からない。昨日、遅めのお昼をマックで済ませ、モールを見て回ることに疲れたからドーナツを食べ、帰り道の途中で入ったコンビニで肉まんを買った時はさすがにお腹が苦しかった。二人で「私達食べ過ぎなんじゃない?」と笑いながらも、罪悪感を感じることは一切なかった。
一方、お昼に少しボリュームのあるメニューを頼んだだけで、女子としての普通を確認してくる理由は何なのだろう。映画にしても事前に何が見たいか私に聞いてくれればいいのに、私の友達を使ってリサーチをすることがどうしても引っかかる。そして、不満ばかり出てくる自分が何より嫌になる。
彼に気づかれないように、少しだけため息をつき椅子の下で足を軽く組む。足をきちんと揃える姿勢が窮屈だったのか、少しだけ苛立ちが収まる単純な自分に笑ってしまいそうだ。
「菜々子ってたまに魂をどこかに飛ばしてるよね。」
「あ、うん。ごめん。お腹いっぱいで眠くなってた。」
「いや、いいんだよ。きもいかもだけど、そうやってどこでも自分の世界に入ってる菜々子のこと見るの委員会の頃から嫌いじゃなかったんだ。」
「そうだったんだ。実は、あの時全然周り見えてなかったから。幸人くんのことも正直、あんまり覚えてなかったんだよね。」
「うわっ、急になんだよ。ひどいなぁ。俺なんてモブ中のモブだって知ってたけどさ……。」
それでも、大声でおしゃべりするだけでろくに作業に集中できない人達よりは幾分かましだよ。私のことよく見てくれてるのも、正直嬉しかった。本音を話したら、彼の教科書通りの言葉が少しだけ崩れてくれて安心する。
「絵の具、ありがとう。改めてお礼言いたくて、お返しとしては見合わないかもだけど。」
そう言って紙袋を差し出す。昨日、マフラーをプレゼントしようと思い探したのだ。一緒にいた美咲ちゃんには、お父さんへのプレゼントなんてくだらない嘘をついたけど。
「え、ありがとう!すっごい嬉しいよ。でも、せっかくならお礼じゃなくてクリスマスプレゼントとして渡してくれたら嬉しい。」
「あげる物は変わらないのに?」
「全然違うよ。彼女からもらうクリスマスプレゼントっていうのが大事なんだ。」
そういうものなのか。やはり私は彼氏彼女として付き合うことの自覚が足りないのかもしれない。そして、改めてクリスマスプレゼントとして渡した包みを宝物のように受け取る彼の瞳が、美咲ちゃんの昨日のそれと似ていて少しおかしかった。
その後は終始穏やかなデートだったと思う。駅ビルの中を見て回りながら、私が欲しいものを探そうということになった。最初に入った店の店員さんに「かわいらしい彼女さんですね」と言われて彼は得意気だった。途中、カフェで休憩もしつつ色々と見て回ったがいいものが見つからず、あっという間に18時前になる。
駅前のツリーの前で写真を撮りたいという彼について外に出ると辺りはすっかり暗く、赤、青、白とたくさんの電灯が人々を引き寄せていた。私も彼も自撮りにあまり慣れていないが、私のほうがいく分かマシだろうということでスマホを取り出すと彼は画面の右下を注視している。
「どうしたの?ちゃんとレンズをみないと撮れないよ。」
「あ、いやごめん。何でもない。」
そう言うと少しだけこちらに近づき顔を寄せる。もう少し近づけばいいのに、とも思うが自分から提案するのは違う気がしてそのままシャッターを押す。何枚か撮り終え、そろそろ帰ろうかということになった。
電車に乗る人はまばらだった。上りの方は人がひしめき合っていて本格的に込み合う前に帰ることができてよかったと思う。
「結局、俺だけプレゼントもらっちゃってなんだか申し訳ないな。」
「欲しいものが見つかったらお願いするね。」
「うん。また冬休み中、一回くらい会えたらいいけど。」
「年明けになるかな、LINEするね。さっきの写真も。」
そう言ったところで幸人くんの乗り換えの駅に停まった。座席から立った彼は少し緊張した面持ちで「ずっと言おうと思ってたけど、その服似合ってるよ。かわいい。」とつぶやき、返事も待たずに降りてしまった。きっと照れくさかったのだろう。真っ赤な耳が少しかわいかった。
早速、スマホを開きLINEで今日のお礼を送る。写真も送ろうとした時、昨日の2ショットも目に入った。
美咲ちゃんと撮った自撮りは、彼とのよりも距離が近くいかにも親しげで表情も柔らかだ。昨日のツリーは今日のに比べてあまり立派ではなかったけど、とにかくその日一日がずっと楽しくて、すぐには帰りたくなくて何枚も何枚もふざけて撮った。さっき画面の端を注視していたのはこのせいだったに違いない。
同性の後輩と彼氏は関係性も異なり比べることもないのに、二人ともを欺いている気がして仕方がなかった。
まだ浮気じゃない ちりる海 @helloumi
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