第13話
<ライブ前日/レッスン室>
「「「「——♪——~♪…………」」」」
永翔たちは翌日に控えたとあるファッションブランド主催のステージに向け、最終チェックを行っていた。
「ふぅ……。いいんじゃない」
「今までで一番良かったよね」
「本当ですか……!」
「永翔、ダンスめちゃくちゃ上手になってるよ!」
「七緒がいろいろ教えてくれたおかげだよ」
実際、約一週間の練習の中で日ごとに動きが変わっていくのは自覚していた。もちろん、三人には及ばないけど自分なりに頑張って見れる程度にはなったと思う。
それに今回のライブはまるでファッションショーのようで、ダンスパートは少なめになっているのは助かった。メインステージがあり、そこから花道が伸びている。ダンスパートがあるのはメインステージのみだ。花道では決まった振りはなく、衣装を魅力的に見せながら歌えばいい。
これらの構成を考えたのは主に古雪先輩だ。素人同然のおれに配慮してなのか、それとも……。
「明日は本番だし、今日は早いけどこの辺で切り上げない?」
「そうだね。ボクちんはもう少し残るから鍵は置いといて」
「えっ、さすがにやめておいた方がいいんじゃ……」
「ゆら兄の言う通りだよ。千歳せんぱい、ちゃんと体を休めて……! 毎日遅くまで練習してたんでしょ?」
「え、そうなの……」
いつもへとへとになって練習が終わると真っ直ぐ寮に帰っていた永翔は、千歳がさらに練習を重ねていたことを知らなかった。
「心配してくれてありがと~。でも大丈夫。今日は早く帰るから」
「だーめ!」
「ちょ、離してよナオち!?」
七緒は千歳の腕をグイっと引っ張ってドアの方へと連れて行く。
永翔は千歳の分の荷物も持ち、ゆらはドアを開け放つ。そのまま四人は部屋を出て施錠される。
千歳は永翔から荷物を受け取り帰路につく。
「こんなことだろうと思ったよ」
「……ユラち?」
「最近の千歳くん、半年前の千歳くんと似てるんだもん」
「似てる……?」
「うん。なんか思い詰めてて焦ってるような感じ。……あの頃もこんな風に練習してたの?」
千歳は少し間をおいてから答える。
「……多分。あの頃は、とにかく必死で。練習していないと不安だったから……」
「練習してないと不安、か……。今日はおれもそんな気分です。いつもと違って体力が余ってるからですかね……?」
「そう言う割に不安そうに見えないんだけど?」
「それは皆がいるからです」
「え……?」
「コスメイベントの時、緊張してるおれにたくさん声を掛けてくれたでしょう。それに今回、初めてのライブで覚えることも多くて本当に大変でしたけど、星名先輩や七緒が大丈夫、ちゃんと上達してるって励ましてくれました。だから、きっと大丈夫だって思うんです」
「でも、万が一失敗したら?」
「う……、まあ、その時はその時です。なるべく堂々と、できる限りを尽くすだけです」
「…………そっか」
千歳はそれから黙り込んで考えごとをするような素振りを見せる。
「千歳くん。僕たちも一緒にいるんだから頼ってよ」
「そうそう! まあ、オレは一年だし頼りないと思うけど」
「ユラち、ナオち……」
それでも千歳の表情は晴れない。
「古雪先輩は今までもこうして努力してきたんでしょう? だったらそれを誇ってもいいと思います。……だって今のおれは、どうやったってあなたには敵わないんですから」
「エイちゃん…………」
無意識にカバンの持ち手を強く握っていた手の力が弱まる。
「ふ……っ。確かに、エイちゃんよりはできるね~」
「あははっ。頼りにしてます、先輩♪」
糸が切れたように張り詰めた雰囲気が一気に和らいで、いつもの千歳が戻っていた。
「それじゃあ、明日はいいライブにしようね~」
「はい!」「「うん!」」
<翌朝/ライブ会場入口>
永翔は集合時間より三十分ほど早く着いてしまった。
なぜなら、朝起きるのが早く暇を持て余したからだ。とはいえ、まだ他に誰も来ていないようだ。
会場内へは打ち合わせで既に出入りしている香子たちが案内してくれることになっている。
「おはようございます!」
「わぁっ!? お、おはようございます、媛咲さん」
挨拶されるまで気配に気付かず永翔は素っ頓狂な声を上げる。
「もぅ。急に大きな声で話しかけるから……。すみません、うちの姉が」
「え? そ、そんなに大きな声出したつもりはなかったんだけど……。ごめんなさい!」
「いえいえ。おれがボーっとしてただけなんで、気にしないでください」
実際、まだ誰も来ないだろうと気を緩めていたのは確かだが、あまり話したことがなかったというのもあってぎこちない態度になってしまった。
「楽しみなのは分かるけどさぁ、仕事なんだから気ぃ引き締めなよねぇ」
「分かってるってば……!」
「それにしても、集合時間はまだなのに早いですね」
「それを言うならあんたもでしょ。っていうかうちら同い年なんだし敬語じゃなくてもいいのに」
「あ、確かに」
「それに媛咲さんじゃどっちか分かんないから、うちのことは莉子でいいよ」
「あっ、わたしのことも香子でいい、よ……?」
「なんで疑問形なの……」
「だって、どう話せばいいか分からなくって……!」
「さっき莉子と話してたみたいに話せばいいんじゃない?」
「へっ!? さっきみたいに……。さっき、みたいに…………」
「テンパりすぎ。なんでうちよりコミュ障なのぉ……?」
香子は段々耳が赤くなっていくのに対して、莉子は冷めきった態度で嘆息する。
それからも他愛無い雑談を続けていると他の面々も集まり、いよいよ会場へと赴く。
<数分後/ライブ会場>
「わぁぁ……!」
「本物のステージだぁ……!」
リハのために控室で着替え再度集まると、ライブを行うステージに立つ。
永翔と七緒は間近に見るステージに興奮を隠しきれずにいた。
「ほんとにランウェイって感じのステージだね」
「そうなんです。プログラムにあるファッションショ―はここで行われるんです。ライブの後に見に行けると思いますよ!」
香子がゆらに対して説明していると、それを聞きつけた七緒が目を輝かす。
「ねぇ、それほんと!? 事前にもらったパンフレットで見て気になってたんだよね! あとで皆で見に行かない!?」
「うん、いいよ。僕たちの出番は最初だし、それが終わったら他にやることもないから。永翔くんと千歳くんはどうかな?」
「おれも興味あったんで是非」
「…………っ」
舞台裏から顔を覗かせている千歳の表情は青ざめていた。
「千歳くん、大丈夫……!?」
「う、うん……、なんとか」
よく見れば手が震えており、呼吸も浅くなっていた。
「無理しないで。戻って休んどいた方がいいんじゃない?」
「……ううん、いい。なるべく慣れておきたいし……」
そうは言いつつもステージから客席を見る千歳の目は緊張と恐怖の色に染まっている。
「大丈夫です。おれたちもついてます」
「…………っ」
永翔は千歳の両手を握って優しく語り掛ける。
千歳の手は冷たくぶるぶると震えている。
「僕もいるよ、千歳くん」
ゆらが千歳を後ろから抱き締める。
「失敗しても誰も責めないよ」
千歳は一瞬体を強張らせる。
「僕たちだって失敗するかもしれない。でもそれでステージ全体が失敗になるわけじゃないから。僕たちみんなでカバーし合えばいいんだから、ね?」
千歳の呼吸がさっきよりも落ち着いていく。
「完璧じゃなくてもいいんじゃないかな。まずオレたちが楽しんで、それでお客さんも楽しんでもらえたらそれで良くない?」
七緒は俯いている千歳の顔を覗き込んで言う。
「みんなで楽しんでやったことを誰も失敗だなんて思わない」
千歳の体の震えは収まりつつあるが、さらに少しだけ顔を下に向ける。
「……古雪先輩?」
「なん、で…………。なんで、ボクは、こんなにも弱いんだろ……」
辛うじて聞こえるほどの小さな声で呟く。
「弱くない!」
ゆらが抱き締める力を強めて続ける。
「千歳くんはこれまでずっと努力してきたんでしょう!? 毎日、夜遅くまで練習して頑張ってたんじゃないの! 千歳くんはただ自分に厳しいんだよ……。僕たちにはこんなに優しいんだから、自分にも優しくしてあげて……! 頑張ってきたことを認めてあげて……!」
「……ぐすっ」
ポタッ、と一雫床に零れ落ちる。
「うああああああぁぁぁぁん!」
一度零れると次から次へと溢れだす。
押さえ込んでいた何かが爆発するみたいに。
それは誰にも止められなかった。
「音響は問題なさそうだけど、……なにご——」
「しぃーっ」
「…………?」
香子は莉子の手を引いてその場を離れた。
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