第11話
<放課後/一年一組>
「そうなんですね! 情報提供、ありがとうございます」
アイドルコースの教室に女子生徒が二人。男性アイドルの育成に特化したこの学校で女子生徒となると、プロデューサーコースもしくは作曲コースの生徒に限られる。
「ついに見つけた……! アイドルの原石!」
「まだクラスと名前が分かっただけでしょぉ……」
<翌日放課後/レッスン室>
永翔、七緒、ゆらの三人は体操着で準備運動を行っているところだった。
昨日、ユニット名“〒Trenddress”を結成し、晴れてユニット活動が開始された。まだプロデューサーや作曲担当はいないが、校内ネットの掲示板に募集を出しておいて彼らは練習に励む。
「へぇ、七緒はダンスを習ってたんだ」
「うん。だからダンスにはちょっと自信があるんだ」
「おれは歌もダンスも初心者だからいろいろ教えてくれると助かる」
「もちろん! オレに任せて!」
レッスンとはいえ、どこか浮足立つ気持ちでそわそわとする。
「それで今日は何をするんですか?」
「とりあえずは練習曲をやっていくつもりだよ」
「練習曲?」
「授業でも使われる曲で、振りが基本的なもので構成されてるから初心者の永翔くんでも踊れると思うよ」
「へぇ……」
「振りは僕が教えるから少しずつ覚えて、まずは一曲踊り切れるようになろうね」
「はい!」
「ゆらせんせ~、お願いします♪」
「先生は恥ずかしいからやめてよ……!」
「あはは。七緒、今日はテンション高いね」
「だって、ゆら兄と永翔と一緒にアイドルできるなんて嬉しすぎて!」
「そっか。本当に楽しみだったんだよね。……よし、張り切って練習するぞ!」
「おー!」
<同刻/生徒会室>
「……そうか、分かった。こちらで手配する。……ああ、それじゃあ」
通話を終えると同時に深い溜息を吐く。
「……氷見、どうかしたのか」
パソコンと向き合い業務をこなしていた女子生徒は、その手を止め顔を上げる。
「それが、例のファッションブランドが主催するステージに出演する予定だったユニットが出られないと連絡してきてな。どうもメンバーの一人が怪我をしたらしい」
「ふむ、そいつは大丈夫なのか?」
「ああ、安静にしていれば問題ないそうだ。だが、ライブまでには完治しないそうでな。代わりに出演してくれるユニットを探さなければならなくなった」
「なるほどな。…………なら、良さそうなユニットがいるんだが」
そう言って彼女は端末にユニット情報を表示させルナに見せる。
「ああ……、あいつらか。初仕事にしては荷が重いな……。…………ではこうしようか」
<数十分後>
コンコンコンコンッ!
生徒会室の戸が強く叩かれ、勢いよく開閉される。
「ルナち! これはどういうこと!」
部屋に入るや否や真っ直ぐルナの下へ突き進むとスマホの画面を見せつける。
「……メールに書いてあることそのままだ。再来週に行われるステージに“〒Trenddress”と出演してもらいたい」
「そうじゃなくて、なんでボクにまで依頼が来てるんだ。それにこのステージって要はライブ、なんでしょ……?」
「まあそうだが、内容はお前たちが自由に決めていいことになってる。お前にも悪い話じゃないはずだ」
「ボクはステージに立つつもりはない、って知ってるでしょ? それに“〒Trenddress”が出るならボクはいらないでしょ」
「無茶を言うな。あいつらだけじゃ荷が重すぎる。この手の仕事はお前の得意分野だったはずだ」
「……」
依頼元のファッションブランドは知名度も高い。ステージの規模も小さくなくて、報道陣も多く集まるようだった。
「よう、古雪。もう諦めろ。氷見のやつ、さっきから貴様らでこれからの段取りとか諸々の手配とか考えてるぞ」
「キセっち……」
きせ、と呼ばれた女子生徒は千歳の背後から声を掛ける。
「そんなこと言われてもステージにはもう……」
「ステージには立てるだろ。だって、お前んとこのコスメのモデルとかやってるだろ。人前にも出てる。ステージに立つのが怖い、ってことはないだろう?」
「……でも、前みたいに踊れない。だからステージには立てない」
彼女は小首を傾げる。
「そうか? お前がステージに立てないのは踊れないからじゃないだろ。仲間が怖いからじゃないのか?」
「えっ…………」
千歳は虚を突かれたような顔で体が固まる。
「なんだ、解ってなかったのか。昔、舞台裏でお前らを見かけたことがあるが、いつも雰囲気は悪いしお前はメンバーからよく叱責されてただろ」
「…………」
「綾乃、その辺で止めてやれ」
黙り込んだ千歳を見兼ねてルナが制止に入る。
「優しくて思いやりがあるのはお前の良いところだが、甘いのはどうかと思うぞ」
「……その観察眼にはいつも助けられているが、そうやって一方的に追い詰めるのはどうかと思うがな」
「だが、こうして言ってやらなかったら根本的な原因にも気づいていなかっただろ。早く対処しないと一年なんてあっという間だぞ。特に私たち三年にとっては」
「だからっていきなりそんなこと言っても——」
「いいよ、ルナち。ありがとう。キセっちの言う通りだよ。ずっと、……怖かった。…………少し一人で考えさせて」
そう言って千歳はフラフラと生徒会室を後にする。
「…………大丈夫だろうか、あいつ」
「駄目ならそれまでということだ。言うことは言った。あとはやれるだけのことをやるだけだ」
<放課後/レッスン室>
「それじゃあ、一回休憩にしよっか」
「はい」「はーい!」
“〒Trenddress”の三人は練習曲を使って踊りの練習をしていた。飲み物を手に取り床に座り込む。
「ぷはぁっ! 生き返る~」
「すっごい汗かいてる……」
「汗はちゃんと拭いとかないと体が冷えるよ」
ゆらは椅子に掛けてあったタオルを取ると永翔に手渡す。
「ありがとうございます」
永翔は顔の汗を拭うと首回りや背中にも手を伸ばす。
「永翔は呑み込み早いから教え甲斐があるよ」
「そう?」
「うん! 初心者とは思えないよ」
ここに入学する以前、蝶野永翔は何をしていたんだろうか。インドアな前の自分より体力などはあるように感じる。
「この調子だと明日には一通りの振りを教えられるかもね」
「おぉ~!」
ピロン♪
通知音らしき音が鳴ってゆらがスマホを確認する。
「あっ……!」
「ゆら兄、どうしたの?」
「プロデューサーと作曲担当に応募が来たよ!」
「ほんと!」
「えっ!?」
二人は立ち上がりゆらの下に駆け寄る。
「どっちも一年生みたい。名前から察するに双子なのかな?」
「うーん、名前見ても分からないよ~」
「おれも知らないなあ」
クラスの人の顔と名前もまだ覚えきっていないのだから当然といえば当然だが。
「まあ、とりあえず会って話してみよう。日程は……、明日の放課後でいいかな。…………ん、もう一件来てる。……………………え」
「なになに?」
「僕たちに仕事の依頼が来てる……! しかも内容はライブステージで、……千歳くんと一緒に、だって」
「それ、本当ですか!?」
永翔は横から画面を覗き込み、メール本文に目を通す。
「……これ、古雪先輩、引き受けたんですかね?」
「どうかな……。明日の放課後、詳しい説明があるみたいだからその時に聞いてみよう。……あ、そうなると応募してくれた子と会うのは——」
ピロン♪
「『今学校にいるのですが、良ければすぐにでもお会いできませんか?』……って言ってるけど二人はどう?」
「大丈夫です」「全然オッケー!」
「ありがとう。じゃあここに来てもらうね」
ゆらが返信して数分後、扉をノックする音が聞こえる。
「応募してくれた子だね? どうぞ」
「し、失礼します」「お邪魔しまぁす♪」
一人は緊張気味に、もう一人は楽しげにレッスン室へと足を踏み入れる。
「はじめまして……! プロデューサーコース一年、媛咲香子です!」
「作曲コース一年、媛咲莉子です」
香子は目を輝かせ興奮気味な様子だった。
「あのっ、この間ショッピングモールでコスメイベントに出てましたよね!?」
「へっ!? あっ、はい」
「わたし、それを見て運命を感じたんです! 磨くべきアイドルの原石を見つけた、と……!」
「は、はぁ……」
あまりの熱弁ぶりに永翔たちは気圧される。
「ちょっと。皆引いてるから」
「ふぇ? ……ひゃぁぁぁ! すみません…………!」
香子は我に返ったのか赤面する。
「すみません。この人アイドルオタクで……」
「なるほど……」
今まで人からこんなに好意的な態度を向けられたことがないため、どう反応したらいいのか戸惑ってしまう。
ただ熱意は感じられるし、そう言われて悪い気はしない。
「お二人のことも存じております。元熱風でファンに対して丁寧な対応が人気の星名ゆらさん、そして全国レベルのダンスの実力を持つ桜七緒さん」
え!? 七緒ってそんなに凄い実力あったの!?
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど恥ずかしいな……」
「へぇ、よく知ってるね! 昔の話なのに」
「ふふん、情報収集はお手の物です! という訳で、わたしに皆さんをプロデュースさせてください!」
どういう訳だよ。
というツッコミはさておき、プロデューサーの良し悪しなんて分からないし……。
「僕はいいと思うよ。二人は?」
「おれは構いません」
「オレもいいよ! とりあえずやってみないと分からないだろうし、やる気はめっちゃ伝わった!」
「わぁ……! ありがとうございます!」
「意外とあっさり……。良かったね、香子。これからよろしくお願いします」
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