第10話
<放課後/一年三組>
「ねぇ、香子! 例の子、アイドルコースなんだってぇ! しかも一年生!」
「莉子、それ本当!? 確かなんでしょうね!」
髪型は違えどよく似た顔立ちの二人の女子生徒。
一人はツインテールを耳より上から垂らし、もう一人はボブカットで、二人ともくせっ毛なのか先の方は緩くうねっている。
香子と呼ばれたボブカットの生徒は、莉子の話に血相を変えて食いつく。
「もちろん! あれを見てた子が学校で見かけたって言ってたしぃ」
「何年! 名前は!」
「い、一年生、名前は分からない!」
香子は莉子の腕を掴む。
「行くよ!」
「はいはーい♪」
<同時刻/フラワーカフェ>
千歳が永翔たちの相談役を引き受けたその日のうちに四人は再び集まっていた。
「で、何をボクちんに相談したいの~?」
屋内の座席で数少ないソファー席で、千歳はクリームたっぷりのフルーツパフェを頬張りまったり寛いでいる。
「えぇっと、ユニットを結成するにあたって必要なものとか、どんなことをしたらいいかとか……、ですかね?」
「僕たち、一からユニットを結成するのは初めてだから、千歳くんの経験を参考にさせてもらいたいんだ」
「もぐもぐ……。ふむ、じゃあまずはユニットの結成届の書類は持ってる?」
「うん」
ゆらはスマホを取り出すとテーブルの中央に置く。画面には『ユニット結成届』と表示され入力フォームが下に続く。永翔と七緒は初めて見るそれを興味津々に覗き込む。
「そうそう、ここに必須項目を入力して提出するんだけど、キミたちがまず考えないといけないのはユニット名のところ。後からの変更が~……、できなくはないけど面倒だからここでちゃんと話し合って決めること」
そこで永翔が手を挙げる。
「あの……、古雪先輩が前にいたユニットの名前はどうやって決めたんですか?」
「苗字から取っただけだよ~」
「えっ」
ちゃんと考えるよう言ったからにはそれなりの理由が込められているものだ、と思っていたが意外にも単純そうで呆気にとられる。
「コンセプトに合ってたから結果的にそうなっただけだよ。ボクちんたちは先にユニットのイメージから決めたんだ。“中華風と和風を組み合わせた高雅なユニット“って。そこから連想した感じだったから、ユニット名に関しては特段、深い意味があるわけじゃないんだ」
「へぇ、そういう決め方もあるんですね……」
「ユラちは“熱風”の由来って聞いてないの~?」
「えっと、コンセプトは“熱風を巻き起こす”って聞いたよ。由来は“旋風を巻き起こす”って言葉から来てて、“みんなで熱く盛り上がって楽しむ”ことをモットーにしてるって」
「ふぅ~ん、チガっちらしいね~」
ユニット名の決め方は一つではないのだろうけど、やはりコンセプト——どんなユニットか——は大事な要素だし、起点になっているらしい。
「じゃあおれたちはどんなコンセプトにすればいいんだろう……?」
「それなら、ファッションに関係する何かにするのはどう?」
「何かって……?」
「そ、それはまだ考え中だけど……。オレたちってみんな趣味がそっち方向だなぁって思って……」
確かにそう言われると永翔はネイル、七緒はオシャレをすることが好きだ。
あれ?
「……星名先輩は何が好きなんですか?」
ゆらに関してはまだ知り合って日も浅く、ファッションに関する趣味が何なのか知らなかった。
「僕はアクセサリーが好きなんだ」
「こないだのコスメイベでつけたイヤリングとヘアピン、ユラちが作ってくれたんだよ~」
「えっ、そうなんですか!?」
コスメイベントに出演した際、衣装とは別に千歳が桜モチーフのアクセサリーを用意していたが、それらがゆらの手作りだったことを永翔は知らなかった。
「イヤリングとかピアスとか、ブレスレットみたいな小物が好きで、自作してたらいつの間にか頼まれるようになったんだよね」
「いいなぁ! オレもゆら兄に何か作って欲しい!」
「いいよ。今度、作って持っていくね」
七緒は無邪気におねだりする。その様子は本当の兄弟のようで微笑ましい。
「じゃあ、どんなデザインがいい?」
「ゆら兄が作ってくれるものなら何でもいい!」
「そう? それなら——」
「ちょいちょい。キミたち、その話は後にしてくれたまえ~」
「あぁ、ごめんね。話を戻そっか。……ファッションに関するコンセプトとユニット名ってことでいいんだよね?」
「うん」「はい」
全会一致で大まかな方向が決定する。
「ふんふん、じゃ、どんどんアイデア出してこ~。はい、エイちゃん」
千歳はマイクを持つように拳を握ってその手を永翔の前に差し出す。
「えっ、おれですか!? えぇっと、うーん…………あ。おれ、ネイルしたいです」
「……?」
「あぁ、えっと、前のおれなら人前で自分の好きなネイルってできなかったんですけど、今ならできるかも、やってみたいなって思って……。もちろん、二人には強制しません。ただ、おれがそういう風にしたいってだけで」
「いいんじゃな~い? それってエイちゃんの個性で魅力なんだと思うよ」
「ありがとうございます……♪」
率直な意見を述べただけ、と分かってはいても肯定的に認めてもらえるというのは非常に心地よかった。
「オレはまだそういう風になれないな……」
七緒は言いながら撫でるように髪を梳く。
「七緒くんは七緒くんのペースでいいんじゃないかな? 無理に人に見せようとしなくてもいいと思う」
永翔もうんうんと頷く。
「ありがと。でもさ、そんなの気にしなくてもよくなればいいのにね」
「それは分かるなぁ。流行ったりしないかなって何度思ったことか」
ゆらはポカンと間の抜けた表情で二人を見る。
「……ゆら兄?」
「それだ……! 流行らせる、いいんじゃない?」
「アリだね~。流行の最先端を行くユニット、とかさ~」
「「おぉ~」」
永翔と七緒は思いもよらずいいアイデアが飛び出し、議論は一気に加速する。
七緒は鞄からノートを取り出しペンを手に取る。
「じゃ、…………“
「……戦隊もの?」
「あはは。確かにそんな感じがするね」
七緒はビシッと指まで差して自信ありげな様子だったが、永翔とゆらの反応はいまひとつだった。
「え~。これだって思ったのに」
「でもトレンドってワードはいいと思う」
「最先端って英語でforefrontとかcutting-edgeって言うみたいだよ」
「う~ん、何か微妙……」
今度は七緒が納得のいかない様子だ。
「最先端にこだわらなくても、他の言葉に言い換えたり新しいイメージを考えたりしていいんだよ~。ボクちんが言ったのはあくまでも例だから」
「ん~、イメージ的にはおれたちが流行の中心、みたいな感じかな?」
「中心だとcenterだね」
「…………やっぱり“Trend(cent)ers”?」
「いや、それから離れよ?!」
「「あはははっ」」
七緒のボケ(半分本気)に永翔が鋭くツッコむ。
「あるいは流行はおれたちのいるところ、……みたいな?」
「オレたちのいるところ……は、何て言うの?」
「うーん…………。んん……? ……うぅ、分かんない」
「いるところ、ねぇ~……。ココ、場所、……違うかな~」
「…………住所、っていうのはどう?」
「ユラち、センスいい~。エイちゃんのイメージとは合ってそ~?」
「“おれたちが流行の住所”……。いいですね!」
七緒はハッとしてノートに向かってペンを走らせる。
「住所はaddressだから……、“
「……書くなら“〒
永翔は七緒が書いた下に記す。
「なんで〒マーク……?」
「住所から連想して何となく入れてみた……?」
「記号を使うのはいいかもね~」
「あんまり見ないし他と差別化できそうだね」
千歳とゆらの感触は良かった。
「七緒はどう……?」
「面白い……! ナイスアイデアだよ、永翔!」
「ほんと? 良かった」
「それじゃあ、ユニット名は“〒Trenddress”で決定ってことでいいかな」
「はい!」「うん!」
ゆらは入力フォームにユニット名とメンバーである三人の名前を入力する。
「千歳くん、他に決めておくこととかってある?」
「それならプロデューサーと作曲担当かな~。特にプロデューサーは専属でついてもらうことをお勧めするよ~」
入力フォームではプロデューサーと作曲担当は任意となっているが、多くのユニットが専属のプロデューサーと二人三脚のような形で活動をしている。
ゆらのいた“熱風”もそうだった。
「そうだよね……。でも僕の周りだとフリーな人がいないし、見つけるのに苦労しそうだな……」
「オレ、プロデューサーコースと作曲コースの人とは全然話したことないよ……」
「うん、おれも」
「そういうときは、校内ネットを活用するんだよ~」
「校内ネット、って何ですか?」
「一言でいえば、校内限定の情報ツールだよ~。掲示板とかがあって仕事を探したり、メンバー募集したりするのに使われるんだ~。今回の場合、プロデューサ―や作曲担当を募集することになるね~」
「へぇ! それならおれたちでも見つけられるかも……!」
「で、それにはユニットの登録情報を使うから、一旦プロデューサーと作曲担当の欄は空けたまま登録しちゃおっか~」
ゆらは“登録”ボタンを押すと、画面に“登録完了”の文字が表示される。
「ユニット結成、おめでと~。じゃあ、早速掲示板に募集を出して連絡を待ってみよ~」
ゆらが掲示板に書き込みする。
——ファッショナブルなユニット『〒Trenddress』のプロデューサー・作曲担当を募集!
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