第11話 「久野巧について知っていますか?」②
一ノ瀬先輩はこくこく頷いて話し始める。しかしこれも、他の先輩方と同じくすでに知っている情報の繰り返しだった。僕とふたりでカウンター当番をすませ、最後に図書室の中をすべて見て回ったこと。その際、部屋の中に異常は見られず、展示コーナーも問題がなかったこと。鍵を持っていた僕が先に廊下に出て、その後見回りを終えた一ノ瀬先輩が追いつき、ふたりで鍵を閉めたこと。
泉さんは知っている情報のはずだが、遮ることなく聞いていた。話を聞きたいというより、それを話す時の相手の様子を知りたいのだろうか。けれど僕の目から見て、一ノ瀬先輩の様子に特に変わったところはない。ただ見たままのことを話している印象だった。
「……って感じかなあ。どうかな? 何か参考になった?」
泉さんは、肯定も否定もせずただ短くお礼を言った。中庭に一瞬沈黙が落ちる。一ノ瀬先輩は聞きたいことがほかにあるかと待っているようだ。僕が泉さんに視線で伺おうとした時、泉さんは問いかけた。
「
その問いに、一ノ瀬先輩はわかりやすいほど顔色を変えた。目を見開き、一瞬体が硬直する。さっきまで明るく話していたのが嘘のようだ。
あまりにわかりやすい反応だったので、僕のほうが驚いたくらいだ。久野巧。その名前は、二年A組の督促状にあった名前だ。けれど僕は、それが事件と関係しているのかまだ疑っていた。督促状の人物と展示コーナーの件は現状繋がりがない。
けれど一ノ瀬先輩の顔を見ているとそれも揺らいでくる。事件との繋がりはわからない。けれど、その名前は先輩にとって何か意味のある名前なのは確かのようだ。
「………えっと、なんで?」
「調べる中で、そういう名前が出て。何か関係があるかなと思ったんです」
一ノ瀬先輩は黙り込む。どう答えるべきか、考え込んでいるようだった。
やがてゆっくりと、先輩は口を開いた。
「久野君のことは、知ってるよ。でも事件と関係があるとは思えないけど……」
「とりあえず、どんな人なのか聞かせてくれませんか? 関係があるかは、それから判断します」
一ノ瀬先輩は、ゆっくり頷く。そして話し出した。
久野巧は、一年生の時は図書委員の生徒だった。一年生から図書委員をしている一ノ瀬先輩、間宮先輩、君島先輩とは当然知り合いで、むしろ一年生の時はとても仲が良かったそうだ。
「久野先輩は、図書委員を続けなかったんですか?」
気になって尋ねる。図書委員をやるような本好きはたいてい毎年図書委員をやる。それに、四人で仲が良かったならなおのこと続けそうなものだ。
その問いに、一ノ瀬先輩はこくりと頷く。
「久野巧さんとは、今も交流はありますか?」
今度は、一ノ瀬先輩は首を横に振ってから小さな声で答えた。
――だって、久野君はずっと学校に来てないから。
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