二章 真実の香り/少女失踪事件
第22話 開幕/サンシャインポートへようこそ!
海から運ばれる潮風が、施設の真ん中に鎮座した観覧車を揺らしている。その観覧車からは、楽し気に笑う大勢の人々が見えるはずだ。その多くは幼い子供を連れた家族連れか、カップル、友人連れだろう。
ここは、大型複合施設『サンシャインポート』。地元の人間にはサンポと呼ばれて親しまれていた。三階建ての大きなショッピングモールのほか、水族館、公園、遊園地、スポーツ系の屋外アクティビティ施設が併設されている。数年前に、たいした特色もない僕らの街に出現した巨大なエンタメスポットだ。土地が安かったのだろう。
県外からも人が来るこの場所は、休日は当然ながら混雑している。
僕はその隙間を縫い、ショッピングモール一階にあるステージへと向かった。
定期的にイベントが開催されるこの場所には、広々とした中央ステージ、簡易な椅子が置かれた客席があるが、今は無人だ。今日のステージは十時からで、垂れ幕には『サンコウくんふれあい会』と書かれている。開始までにはまだ時間がある。
とはいえ僕の目当てはこのステージではない。ただ、今日ここに僕の幼馴染が立つ。というわけで、朝から彼女の様子を見に来たのだ。
その幼馴染にスマホでメッセージを送る。今どこにいるのか聞くと、控室で着替えたところだという。挨拶に行っていいかと聞くと「好きにしたら?」と返事が来た。仕事の邪魔だろうが、まだステージが始まる前だし少しくらいいいだろう。それに、着替えた彼女の姿を見たかった。
ステージから少し離れた場所、モールの奥にある通路へ向かう。このあたりは店舗がなく、さっきまでの喧騒が嘘のように小さくなっていく。
『関係者以外立ち入り禁止』の立札が置かれた狭い通路に差し掛かる。と、そこからぬっと巨体が飛び出してきた。
茶色の丸っこい体に、巨大な魚の頭部。目玉は深海の圧力に耐えかねたのか大きく飛び出し、頭の先には弧を描くアンテナ。その先には、デフォルメされた太陽がぶら下がっている。この太陽のモチーフが重すぎて、絶えず頭を押さえていなければならないともっぱらの噂だ。
彼の名はこの施設のマスコット『サンコウくん』。施設の名前であるサンシャインと、地元の名産であるアンコウが合体して生まれた怪人だ。
『……暑い』
やや舌足らずなその声は、目の前の着ぐるみからした。よく見れば、着ぐるみの頭がふらふら揺れて外れそうになっている。その頭を慌てて支えつつ声をかける。
「大丈夫……? 里奈ちゃ――」
『なにか言った?』
おお……。着ぐるみですごまれるとまた違った恐怖がある……。まさにチョウチンアンコウに襲われるのではないかという恐怖だ。
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