第23話 サンシャインポートへようこそ!②
「ごめん。泉さん」
僕は謝りつつも、人違いでなかったことにほっとする。
この着ぐるみの中の人は、泉里奈。僕の幼馴染の女子高生だ。
今は見えないが、身長は百四十センチ台。栗色のボブカットの髪に、飾り気のないヘアピンをつけている。体は小さいが、よく食べる方だ。変化に乏しいが、猫のように大きな目をしている少女だ。
「あの、こんなところに出てて大丈夫なの?」
ステージの時間までは、控室で待機しておくものなんじゃないだろうか。
『練習中。今のうちに動きに慣れておけって』
なるほど。それで通路を歩いてきたのか。関係者以外立ち入り禁止の立札の奥には、控室らしき扉が見える。
「熱い。もう無理」
そう言って、サンコウくんの頭を外す。中からは見慣れた幼馴染の顔が現れた。汗ばんで、前髪が額に張り付いている。幸い、ここは人気のない通路。お客さんがサンコウくんの素顔を見ることはなさそうだった。
この着ぐるみに入るのが今日の彼女の仕事だ。何時間かおきにさっきのステージの上で観客に愛嬌を振りまく。このマスコットのどこにそんな需要があるのかはわからないが、それなりに家族連れが集まるらしい。
泉さんはよくいろんなバイトをしている。それは経済状況と、食欲が反比例しているからだ。彼女はその見た目に反してよく食べる。特に甘いものが好きで、普段からクレープやパフェを摂取しないと途端にエネルギーが枯渇して動けなくなる体質だ。そんな彼女の食欲を支えるため、普段からバイトに精を出しているのだ。
ちなみに、今日僕がここに来たのも、彼女のバイトがきっかけだ。泉さんがここでバイトをするようになって、サンシャインポート内の施設で使える割引チケットをもらった。そして、泉さんはそのチケットを僕に渡してくれたのだ。
「泉さん、バイト終わるの十五時だったよね」
「……そうだけど、なに?」
「いや、楽しみだなあって」
そう。このチケットは二人分。当然、僕ひとりで使うわけじゃない。つまり、泉さんとふたりで見て回るために渡されたのだ……!
「まさか、泉さんから誘われるとはね。驚いたけど、嬉しいよ。バイトで時間がないのは残念だけど、でも夕方からだって十分回れると思うし、僕もそれまで楽しそうなスポットを探しておくつもりだし。だから泉さんは気兼ねなくバイトに集中してもらって。あとは一緒に――」
「なに言ってるの?」
「え?」
「っていうか、なんで雛子君が来てるの?」
「……え」
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