第21話 エピローグ/僕の罪
校舎を出て、さっさと歩く泉さんの背中を追いかける。彼女の短い歩幅に合わせて、鞄につけたぬいぐるみ達が跳ねていた。
「おなかすいた」
駅へと続く道を歩いているとき、彼女が言った。こうなると止まらないのを僕は経験上知っている。
「ファミレスでいい?」
「クレープがいい」
駅前に、よくクレープのキッチンカーが止まっているはずだ。この時間ならのんびり歩いても間に合うだろう。そこを提案すると、彼女は「ん」とだけ言った。了承したということだ。
速足で歩く彼女の背中は、図書室にいた時とは違って小柄な女子高生にしか見えない。先輩たちの前で堂々としゃべっていた時は、もっと大きく、強く見えた。
でも、僕には彼女の背中はいつも震えているようにも見える。
僕は勝手に彼女をヤマアラシだと思っている。体は小さい。でも、伸びた針はとても長くて大きい。けれど針を逆立てるのは、彼女が戦っているからだ。
何と? きっと、暗闇だ。彼女は曖昧さを許容しない。真実には価値があり、意味があると信じている。だからそれを拒む曖昧さといつも戦っている。でも本当の彼女はとても小さい。
それを最初に感じたのはいつだったか。多分、初めて彼女と一緒に調査をしたときだ。
『手伝って』そう言って手を差し出した彼女をすぐに思い出せる。すべては真実から始まる、その口癖が始まったのも、あの頃だった。
だが、僕はいつも疑問に思う。真実にどれほどの意味があるのか。正しさになんの価値があるのか。彼女の暴く真実は、人を救うのだろうか。
今回はどうだっただろう。間宮先輩たちは、この事件の真実から救いを得るだろうか。
そして、泉さん。彼女は真実から救いを得たのだろうか。あの日、初めてふたりで調査をした日。彼女の父親の浮気を暴き、母親に突きつけ、真実を伝えた日。
その真実にどれほどの意味があったのか。幼い僕が、彼女に言われるまま、浮気を暴くのに協力したことは正しかったのか。どれほど正しくても、彼女の家庭を壊す権利が僕にあったのだろうか。
幼い僕はとても考えなしだった。彼女の――里奈ちゃんの気を引きたいがために、彼女の申し出を引き受けた。
すべては、真実から始まる。僕の愚かな恋心が招いた真実には何の価値があったのか。
今でも僕はそれがわからないでいる。
「どうしたの? 早く行こ」
いつの間にか先へと進んでいた泉さんが、こっちを振り返って呼びかける。僕は頷き、駆け足で彼女を追いかける。
夕日が彼女を照らしている。その下に伸びた長い影。その影の隣に、今は立つ。
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