19 捕らわれて
それにしても、ここはどこだ。
ふたりの男――最初に
まあひとまず現在のところ、そのあたりは後回しにしておいてよさそうだ。
「よう、おふたりさん」
ミツハルは、古い木の椅子に座ったまま、手にしたスマホを軽く振った。
「兄ちゃんのコイツは、預かっておいたぜ。GPSとはなかなか用心深いな。切らせてもらったけど」
――やはりか。覚悟はしていたが、失望は否めない。立場が逆なら自分もそうしたに違いなかった。こちらを縛るときに取り上げたのか、それとも意識を奪われてすぐか。そういえばイヤホンの感触もない。抜き取られたか、あるいは車の中に落として誰も気づいていないというパターンもありうる。
「そんでさあ、綾子チャン。ネックレスはどうしたのよ、ネックレス」
「……えっ…………」
無頓着なミツハルの問いに、かすれ声が背後からこぼれる。事態についていけていないのだ。一馬の方だって、何が何やら、である。
「ネックレスだよ。丸っこい。つい最近、買ったのかもらったのか知らんけど。彼氏とのお出かけに、つけて来てないわけ?」
ミツハルの声が、いら立たしそうな色彩を帯びた。
「ネックレス……?」
「体に聞こうか?」
「やめろ」
立ち上がったミツハルを、一馬は全身全霊でにらみつけた。なるほど、そのために綾子の首まわりを確かめたというわけか。あの汚らわしい手で。
「俺が持ってる」
「どこだ」
ミツハルばかりか、マツシマまで腰を浮かせた。
「チェーンが切れたんで、修理してもらおうって、俺が預かったんだ。このブルゾンの内ポケットに入ってる」
「本当だろうな」
「さっきのどさくさで落としてなけりゃな。落としてたら、俺も知らん」
正直に一馬は吐いた。事情はよくわからないものの、彼らにとってあのネックレスが重要なものであることは理解した。渡す渡さないで時間稼ぎに使えなくもないだろうが、彼らがさらに乱暴に綾子の体へ手を伸ばす結果を招きかねない。素直にネックレスを差し出した方が何百万倍もマシだ。嘘が下手だという自覚もある。
自分の左胸を、服地越しとはいえ男の手が這い回る不快感に、一馬は耐えた。
「――あった! コレか! ……なるほどなあ」
つかみ出したネックレスを、ミツハルはしげしげとながめた。やはり、一馬が綾子に贈ったこれを、彼らは捜していたのか。直径3センチばかりの球状、半透明で、オーロラのような鈍いきらめきをたゆたわせる飾りが、金具とチェーンでぶら下がっている。ミツハルは椅子に戻って行き、受け取ったマツシマも「へえー」と感嘆している。
「そのネックレスは何なんだ? それくらいは、聞く権利あるよな?」
一馬は真っ向からたずねた。ネックレスを手に入れたミツハルとマツシマは、ようやく余裕ができたのか、一度顔を見合わせて、にっと笑った。
「こいつはな、金もうけのタネなんだ。まだ試作品だけどな」
……それだけで、わかるわけがない。反応の鈍い高校生たちに、ミツハルは座り直して、説明を続けた。
「こいつはレンズなんだ。新しく開発されたレンズの試作品だ。こいつを量産すれば、オレたちは大儲けできるってワケだよ」
ミツハルが語ったのは、おじさんふたりが麗人たちに明かした事情とほぼ同じだった。サクマ光学製作所が、ある企業から依頼されて開発したこと。ミツハルたちが、そのレンズを自分たちに
自分のことが興信所に調べられていたくだりに、綾子が震える気配が伝わってくる。
「それで――」
一馬は小細工なしに、ストレートに切り込んだ。
「――そのレンズは、何ができるんだ。大儲けになるポイントは、どこにあるんだ」
けけ、とマツシマが喉の奥で笑った。
「こいつぁなあ、レーザーポインターの光をさらに集束させて、威力を増幅する効果があるんだ。わかるか? こいつがあれば、レーザーポインターで人が殺せるんだよ」
一馬と綾子の神経に、インクの汚れた染みのようなものが、重く侵入してきた。
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