第四章
第39話 息抜きと漂う不穏
第三プログラムも終わり、この謎の施設内は慌ただしさを増していた。
それは先日の第三プログラムの指令かくれんぼの影響だと予測できた。
施設1から5階を使った規模の大きいプログラムだったということもあってか、黒スーツの人達が施設内をあちこち歩き回っている。
しかし、この慌ただしさは生徒たちにとっては休息を与えていることも事実だった。その証拠にこの食堂もプログラム前の殺伐とした雰囲気はなく、空気は和らいでいた。どこか周りのみんなの表情も柔らかい。
組織の人間と政府の人間か。
俺は食堂で朝食をとりながら喫茶店で話した守田との話を思い出していた。
この周りを慌ただしそうに早歩きをしている黒スーツの人間の中にもおそらく、俺たちの保護を目的とする組織の人間と俺たちの排除を目的とする政府の人間がいるのだろう。(27話参照)
それにしても俺はこの真実を知ってる同志を見つけることは出来なかったな。
守田の話だとこの情報は各学年一人ずつにしか話してないらしく、勝手な俺の想像だが第三プログラムで他学年と戦わせたのはその生徒同士の交流も兼ねていたと考えていた。
まぁ候補はいないわけじゃないが。
そういって思い浮かべたのはやはりあの男、城崎才央。
第三プログラムで戦ったチーム1,2の代表者を務めていた男だ。
可能性としてはかなり高いし、仮に知らなかったとしてもこの施設の真実を話すに値する人物だと思っている。
なら話してしまえばいい。そう思いたい気持ちはあった。
しかし、そういう単純な話ではないことも確かだ。
確かに城崎さんは真実を知る仲間にすればとても心強い人物であるには間違いない。
しかし、リスクも存在している。それは城崎さんが敵である場合だ。
なぜ敵と言うのか。それは俺が生徒の中にも政府に内通する人間がいるのではないかとそう考えているからだ。
これは単なる推測に過ぎないし、可能性も低い。
しかし、俺が握っているこの情報はその低い可能性にも配慮しなければならないほどの重要なものだ。
城崎さんとはプログラムの間、会話をしただけ。
城崎さんの実力には信頼を置いている。が、城崎という人間・人柄を信頼しているという訳ではなかった。
考え事をしていると、食堂は人影が少なくなっていた。
俺もそろそろ部屋に帰るか。そう思い、席を立つ。
すると、声をかけられた。
「大黒、ちょっといい?」
「島河」
「あのさ、良かったら、この後カラオケ行かない?」
「二人でか?」
「いや、他のメンバーもいるけど」
「それは俺の知ってるやつなのか?」
「うん」
うーん。俺は考える。
「じゃあ、お邪魔させてもらおうかな」
「えっ!マジ?」
「あぁ、ちょうど暇だったからな」
俺たちは二人で娯楽エリアへと向かった。
カラオケ店に着くと、島河はお手洗いに行ってから部屋に行くと言って離れた。
誘っているメンバーはもう部屋に入っていると言われたので、指定された部屋に一足先に向かう。
「5号室ここか」
開けると、そこにいたのは
「あれ?だいこくくんじゃーないですかー!やっと来たんですか?」
「南浜かよ」
「不服ですか?」
「いや、島河が俺を誘った理由がなんとなく分かっただけよ」
おそらく、一人じゃコイツを相手できないからだろうな。
「あ、でも私だけじゃないですよ」
南浜の後ろからひょこっと顔を出す人物が見えた。
「七草、お前もか」
島河、お前が俺を誘った理由はこの二人を相手できないから、そうだよな?
「あ、大黒くん今、失礼なこと考えてたのー」
「い、いや、そんなことはない」
普段鈍臭いのに何でこういう時だけ鋭いの?
早く来てくれ島河!
すると俺の願いが届いたのか島河の声がする。
「早く入ってよね。そこ邪魔だから」
振り向くと、明らかに悪そうな顔をしていた。
「俺は騙されたってことでいいよな?」
「は?知らないですー」
絶対嘘だ。
結局俺たちはカラオケを楽しんだ。
南浜はめちゃめちゃ音痴でとても聞いてられないし、七草は俺にジュースぶち撒けるし、南浜がマイクを譲らず七草と喧嘩するし、マイクを譲ってもらえなかった七草は泣くし、帰り際にもう一回俺の服にジュースぶち撒けるし。まぁ地獄だ。
まぁ感想としては『とりあえず風呂に入らせてくれ』だな。
帰り道、俺の頭の中は南浜の歌声がリピート再生されていた。
南浜と七草は結局仲直りをして笑顔で俺の前を歩いている。
「今日はありがとね」
そう言う島河はカラオケ中、終始楽しそうだった。
「俺を誘った目的、見事に達成したな」
俺は嫌味を言った。つもりだった。
「は?え?何?」
しかし、島河は何を勘違いしたのか勝手に慌てていた。
「いや、南浜と七草の被害を結局俺が全部引き受けただろ?」
「あ、あーそう言うことね。びっくりした」
「何をびっくりしたんだよ?」
「こっちの話だから!」
「ご、ごめん」
俺、嫌われたのか?
俺はべしょべしょの服で自分の部屋に帰る。服はすぐに手洗いした後、洗濯した。そして風呂に入った。今日は疲れたな。まぁ楽しかったけど。
風呂を上がると、ピンポーンとインターホンが鳴った。
誰だ?俺は着替えて、ドアを開ける。
「すいません。夜なんかに」
「峰松?」
「はい。あの、お邪魔しても良いですか?」
「良いけど、何の用だよ?」
「それは石黒 紬さんについてです。話しておきたいことがありまして」
「石黒か、確か第三プログラムで峰松たちが戦ってた相手だよな。俺も少しは面識あるけど」
「それは好都合です」
そう言って峰松は俺の部屋に入ってきた。とても深刻な顔つきで。
無法地帯の脳力戦 シマナカ @pickles11
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