エピローグ 出所しても、自由じゃない
退院したら、すべてが元通りになると思っていた。
でも実際には、待っていたのは
発熱した子ども、雪のなかの自転車、そして家事と職場への謝罪だった。
「回復」と「自由」は、必ずしもセットじゃない。
退院はあくまで「病院からの解放」であって、
人生からの解放ではない。
むしろ、家という戦場に戻った私は、
前よりも忙しく、慌ただしく、疲れている。
でも、ほんの少しだけ、
「健康でいることのありがたみ」が
骨の髄までしみこんだのも確かだ。
ところで、退院して2か月後、
私のかかりつけだった耳鼻科が閉院した。
あの骨を見つけられなかったことを
気にしていたらどうしようかと思ったが、
理由は高齢と、ビルの解体、そして後継者がいないことだった。
なんだか、ほっとした。
けれど同時に、かかりつけ医がなくなってしまうのは
ぽっかり穴があくように寂しい。
最後の診察が、忘れもしない骨事件だったことだけが、
ちょっとした思い出として、
私の中に、やさしく残っている。
だから私は今日も、
気をつけて鱈を食べる。
骨なんかに、もう人生を邪魔させない。
サカナノホネ 濁少納言 @iketenai
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