第5話思い返す。これしかない。

 淡い照明の光で目が覚めた。体に残る疲労感とべたつきに不快感を感じながら私は体を起こした。隣には月村先輩が眠っている。散々ヤった後にそのまま二人とも寝てしまっていたのだ。

 汗やら精液やらでべたついた鼠径部を軽くティッシュでふき取る。……やっぱりこの感触はいつになっても気持ち悪い。いつしか慣れるものだろうと思っていたけど、やっぱりダメだ。

 こんなもの、と嫌悪感を抱いてしまうのはまだ私の中に千都あいつへの罪悪感が残っているからだろうか。あんな別れ方じゃなくて、もっとちゃんとした別れ方をしていたら少しは良く思えただろうか?今となってはもうそれは知ることができない。だって、これが私が選んだ選択だから。どのみちこうなる運命だったのだ。


「……はぁ」


 自分への落胆か、はたまた彼氏の隣で元カレの事を考えてしまっていることへの罪悪感か、どっちつかずなため息が口を抜けて出た。

 できることなら、ちゃんと全部隅から隅まで説明してから別れを切り出したかった。こうなってしまった以上、完全に言い訳となってしまうのだが。

 あまり傷つけたくなかった、というのは事実だが、他の男とこんな関係を持ってしまっている時点でただの戯言になってしまう。自分の罪深さを自覚させられる。


「んぁ……おはよう。昨日はちょっと激しくしすぎたね」

「おはよう。……出しすぎ」

「あはは、ごめんごめん。やっぱり椿と僕、体の相性抜群だよね」


 学園にいるときと同じ爽やかな声で月村先輩が笑う。でもその笑顔には隠しきれない下劣さがにじみ出ていた。ベッドから出ようとする私の腰に手を回して自分の方に抱き寄せてくる。


「ちょっと」

「もうちょっと寝ようよ。時間あるし……昨日は随分と興奮してたね。もしかして、に会ったから?」

「……どうだろうね」

「ふふ、いいじゃん。なんであんな奴と付き合ってたの?さっさと別れればよかったのに」


 そう問い詰められて、私は言葉が出てこなかった。少し前だったらあいつの好きなところの一つや二つ言えたはずだ。だが、今となってはどう頭をひねっても出てくる気がしない。私の中で風来千都という存在が完全に消え去ってしまっている証拠だった。それはちょっとだけ、悲しい事だった。

 

「ちゃんと別れようって言わなかったの?」

「……先輩がデートの時とかに限って呼び出してくるからでしょ」

「あはは、僕のせい?でも椿とヤるの、すっごく気持ちいいからさぁ」


 ニタニタとした笑顔を浮かべて私の首元を舐めてくる月村先輩の顔を手でグイッと押し退けた。

 正直、この関係は体のためだけに存在している。この行為を終えれば、私達はただの男女に戻る。こんな脆い関係のために、私は千都あいつとの関係を捨ててしまったのか。捨てようと思ってしまったのか。欲に負けてしまった自分の行動に反吐が出る。

 私は、できることなら千都を傷つけたくなかった。あいつは私の事を真剣に想ってくれていたし、私だってそうだった。ときたま喧嘩もするけれど、なんだかんだうまくいっているような気がした。

 ある時に、私があいつと喧嘩して月村先輩に相談したことがあった。それがこの関係の始まり。会うたびに言い寄られて、結果的にはなし崩しに体を重ねた。

 私はこれが罪だと分かって何度も体を重ねた。罪を重ねるほどに増していく快楽に私は溺れていった。私があいつとの関係を崩してしまったのだ。

 罪悪感がないわけじゃなかった。デートをキャンセルしたり、『また今度遊ぼう』なんて優しい言葉をかけられるたびに心が痛んだ。その罪悪感を快楽で薄められて、一体何をしてるんだろうと自分に何度問いかけたのか分からない。

 もっと円満に、うまくやる方法はあったのだと思う。相手が月村先輩じゃなくても、もっとちゃんと別れを切り出されば。……いや、きっとできなかった。こうなる運命だったのだ。

 どのみち、こうなる運命だったのだろうけれど、できることなら、もっとあいつと……


「けほっ、けほっ……」

「風邪気味?移さないでよ」

「べたべたしてきたの先輩じゃないですか……私、シャワー浴びてくるので」

「え~?もうせっかくだし、もう一回しようよ」

「なっ、ちょっと、もう……」


 いつの日かと同じように、なし崩しの形で私は体を重ねた。

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