第32話 王都攻防戦
街中には、異形の怪物どもが溢れていて、建物を壊したり、住民を襲ったりしていた。
えらい事になったな。早く対処しないと、このままだと王都が滅びるぞ。
俺とシェリルは、怪物どもを倒しながら通りを駆け抜けていった。目指すは、冒険者ギルドだ。
幸いというか、ギルド本部の建物付近には例の怪物はおらず、ギルドは無事だった。
建物に駆け込み、受付のお姉さんに声を掛ける。ミリアンだったっけ? 俺が初めて(正確に言うと数年ぶりだが)ここに来た時に応対してくれた子だ。
「緊急事態だ! ギルマスに連絡は取れるか!?」
「お、落ち着いてください! 街中に出現した魔物についてでしたら、既にいくつもの報告を受けています」
ミリアンはオロオロしながら、落ち着くように訴えてきた。
どうやら既に、ギルドは状況を把握しているようだ。さすがだな。
食堂を兼ねた待機所には、大勢の冒険者達が詰めかけていた。
ギルドマスターを務めている妙齢の美女、アリスが姿を現して、冒険者達に向けて声を張り上げた。
「皆も大体の状況は知っていると思うが、現在、王都全域に魔族と思われる異形の怪物が多数出現している! 王都警備隊や騎士団が退治すべく動いているが、とてもではないが手が足りていない! そこで、皆の力を貸してもらいたい!」
冒険者達はどよめき、ざわめいていた。
「無論、ただとは言わない! 緊急クエストとして、ランクの制限なしで全ての冒険者に依頼する! 倒した怪物の数によって、報酬が支払われる! 報酬については冒険者ギルド及び王国政府が保証するので、安心して暴れてこい! 頼んだぞ、みんな!」
アリスの言葉に、冒険者達が腕を振り上げて雄叫びを上げる。
ここにいるのはみんなプロの冒険者で、厄介事や荒事を解決するのに慣れている連中ばかりだ。
ヤバそうな魔物が相手だっていうのに、怯えた様子の人間は一人もいない。なんだか頼もしいぜ。
皆が怪物退治に出ていく中、アリスが俺に声を掛けてきた。
「王都内部で魔物が暴れるなんて、こんな事態は初めてだ。どう思う、グランド。なんとかなりそうか?」
「……難しい質問だな。警備隊や騎士団に加えて、手練れの冒険者達が対処するんなら、どうにかできそうだとは思うが……」
「他に問題でもあるのか?」
「たぶんだが、あの怪物どもを操っている黒幕がいると思う。そいつは王都の戦力がどの程度のものなのか、調べた上で怪物どもを暴れさせているんじゃないかな? 仮に、そうだとすると……」
「王都の戦力を知った上で、仕掛けてきているわけか。だとすると、このまま終わりそうにはないな……」
アリスは顎に手をやり、難しい顔をしてうなっていた。
俺の考えすぎかもしれないが、最悪の事態を想定しておいた方がいいと思う。
「王都は、強力な結界で守られてるんだよな? 今、暴れてる怪物は人間に憑依して結界をすり抜けてきたんだとして、もしもその結界が破られたりしたら、もっと強力な魔物が攻めてくるんじゃないか?」
「そうすると……連中の狙いは、結界の破壊か?」
ハッとしたアリスに、うなずく。
たぶん、それだな。魔族連中の真の目的は。王都を守っている結界さえ無効化できれば、あとはどうにでもなると考えているのだろう。
街中で暴れている怪物どもは、捨て石ってところか。倒されても本来の狙いには支障ないんだろう。
「結界は、王都の外壁各所に設置された魔法石によって維持されてるんだよな? だとすると、敵の狙いは……」
「魔法石の破壊か! なんて事を企んでるんだ……!」
あくまでも仮定の話ではあるが、それで間違いなさそうだな。
アリスはテーブルの上に王都の地図を広げてみせ、結界を維持している魔法石の場所を示してくれた。
「魔法石は、全部で八つ。東西南北に四つ、それらの中間地点に四つだ。一つでも破壊されると、結界は不完全なものになってしまう」
場所を確認、地図の写しをもらっておく。
全部で八か所か。王都は広いし、手分けをしないと対処しきれないな。
「冒険者全員に、魔法石を守るように連絡しておく。私も援護に向かおう。グランド、お前にも頼めるか?」
「もちろん、俺もやるぜ。王都を守らないとな」
「頼む。事が上手く片付いたら……ボーナスを出そう」
「おっ、マジか。ボーナスって、どんなのだ?」
「……エッチなサービスなんかはどうだ? 私でよければ、お前の好きな行為に付き合ってあげても……」
アリスは頬を染めながら目を泳がせ、モジモジしていた。なんだか色っぽいな。
すると黙っていたシェリルが、ムッとして呟いた。
「……却下です。悪い冗談はやめてください、ギルマス」
「いや、私は本気だが? なにかマズイ事でもあるのか?」
「ありすぎて頭痛がするレベルですよ! 非常事態なのですからもっと真面目に対処してください!」
「えー……?」
シェリルに注意され、アリスは不満そうに眉根を寄せていた。
なんだろう。二人とも、変な空気を……今はそれどころじゃないよな?
「ともかく、魔法石を守りに行こうぜ。手分けをした方がいいな」
「だな。冒険者全員に連絡して、警備隊や騎士団にも知らせよう」
「了解です。任せてください」
俺とアリス、シェリルはギルドから飛び出し、それぞれ別方向へと走った。
ギルマスであるアリスの指示で、ギルドの情報網を使い、全ての冒険者、及び警備隊や騎士団にも情報が拡散されるはずだ。
結界を維持している魔法石が壊されてしまえば、王都は無防備状態になる。
そこへ強力なモンスターが大量に押し寄せてきたら、えらい事になる。おそらく王都は壊滅するだろう。
強大な力を持つ王国の王都が潰されるというのは、人類にとって最悪の事態だ。絶対に回避しなければならない。
冒険者ギルドは王都の中央、やや北東の位置にある。
シェリルは東へ、アリスは北東へ向かった。そこで俺は南へ、王都の玄関口へと走った。
王都の北側には険しい山々があり、その麓に城がある。南側の入り口は、城の対面、王都の正面玄関とも言える場所だ。
南口には巨大な門があり、通常は開放されている。門の傍らには結界を維持するための魔法石が設置されているらしい。
南口に行ってみると、門の外には、オークやゴブリン、コボルトなどの雑魚モンスター達が集団で詰めかけてきていた。
結界に阻まれ、門の内側には入ってこられないようだが……。
門の内側に、人間に憑依して侵入してきた例の怪物どもが数体集まってきていた。
門番や警備隊の兵士を襲い、魔法石を破壊しようとしている。そうはさせるか。
「『疾風』……閃光斬!」
腰を落として身構え、愛用の剣の鞘を握り締め、剣を抜くと同時に『閃』の奥義、閃光斬を放つ。
刀身に込めた闘気が閃光を放ち、光の軌跡を描く。
異形の怪物をスパッとスライスし、難なく仕留める。
そこそこ強い魔物だが、俺が受け継いでいる剣技、『無限覇王剣』の敵ではない。ハッキリ言って雑魚だな。
「あとは任せた。魔法石を守ってくれ」
「りょ、了解です。ありがとうございました!」
門番の一人に声を掛け、敬礼してきた彼に手を振りつつ、その場を後にする。
どうにか間に合ったな。最も外敵が集中してくると思われる南口を防衛できたのだから、あとはそれに近い場所の魔法石を守れば……。
南西へ向かい、途中で見掛けた怪物どもを全て倒しておく。
思ったよりも王都内部に侵入している魔物の数が多い。コイツらを退治しておかないとえらい事になりそうだ。
俺が南西にある魔法石の設置場所まであと少しというところまで迫ったあたりで。
はるか西の方角、光の柱みたいなものが天に向かって伸びていくのが見え、ドォーン! という爆発音らしきものが聞こえてきた。
あれはまさか……西に設置された、魔法石があるあたりか?
王都に侵入した怪物の一体が、とうとう魔法石の一つを破壊してしまったって事か。そうなると……。
空が歪み、王都の上空を覆っていた見えないなにかが、パリーンと音を立てて崩れていく。
魔法石の一つを壊されてしまったために、王都を包んでいた結界が、壊れてしまったらしい。
王都の周囲は城壁で守られてはいるが、それだけでは不十分だ。魔物の侵入を防ぎきれないだろう。
たとえば、空を飛べる魔物が上空から飛来したとしたら、防ぎようがないわけで……。
『ギャァアアアアアアアアアス!』
「……マジか。なんてこった……」
王都の上空に現れた、巨大な生き物の群れ。
それが、長い首を備え、コウモリのような翼を生やした、恐るべき怪物である事を確認し、冷や汗をかく。
モンスターの中でも、最大級の巨躯を誇り、高い攻撃力を持つ、非常に厄介な存在。
ヤツらは、ドラゴン。最強クラスのモンスターだ。
そんな最悪の怪物が、王都の上空から侵入しようとしてきている。
しかも一体ではない。見える範囲に存在するものだけでも、十数体はいる。
あんなのが王都に降りてきて暴れたら……王都は壊滅するんじゃないか?
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