第31話 動き出す陰謀

 王都には既にかなりの数の魔族が侵入してきているのかもしれない。

 それをどうにかするため、騎士団所属のロディエルドや、冒険者ギルドなどに知らせようかと考えていたところ。

 唐突に、事態は急変し、動き出したのだった。


「グォオオオオオオオオオオオオオオ!」

「!?」


 いきなり街中で、不気味な咆哮が上がった。

 それは、野生の凶悪なモンスターが発したような声だった。

 声がした方を見てみると、そこには。

 異形の化け物が、出現していた。


 人間の数倍、巨大な体躯の怪物。

 一応は人型だが、灰色の皮膚をしていて、異様に発達しまくった筋肉をしている。

 トカゲみたいな頭部には目らしきものがなく、耳まで裂けた大きな口があるだけ。

 丸太のように太くて長い腕を持ち、細長い副腕みたいなのが脇腹から二本ほど生えている。

 太く短い脚で大地を踏み締め、長い尻尾が生えている。

 そんなヤツが、街中に三体ほど出現した。非常事態だ。


 悲鳴を上げ、人々が逃げ惑う。異形の怪物どもは人々を襲い始めた。


「マズい。行くぞ、シェリル」

「了解です。私達で倒してしまいましょう」


 頼もしい言葉を聞き、思わず口元が緩んでしまう。

 本当に成長したな、シェリル。野生のモンスターに遭遇して悲鳴を上げていたのが昨日の事のようだが、あの頃とは完全に別人か。

 剣術を教えた立場としては複雑だが……教え子の成長はうれしいもんだな。


「はあ! 白刃、閃光斬!」


 シェリルが剣を抜き、怪物の一体に斬りかかった。

 剣に闘気を込め、刹那の速度で斬り付け、剣の軌道が閃光を生む。

 無限覇王剣、『閃』の技の奥義、『閃光斬』。俺が教えてもいない奥義を、教え子のシェリルは独自の鍛錬によって習得していた。

 閃光と共に放たれた斬撃は、怪物の巨体を斜めに切り裂き、致命傷を与えた。

 見事な腕前だ。やはりシェリルは天才か。彼女なら、俺が受け継いでいる流派の後継者に選んでもいいのかもしれないな。


「後継者、ですか? 光栄ではありますけど、それは……」

「廃れている時代遅れの流派だし、不満か?」

「いえ、そういうわけでは……後継者は、グランドさんのお子さんの方がよくないでしょうか?」

「お、おいおい、俺に子供なんていないぞ? そもそも嫁さんがいないし」

「……ですから、私が嫁に」

「んっ? よく聞こえなかったが……なんだって?」

「……なんでもないです」

「?」


 シェリルは頬を染め、目をそらしていた。

 たまによく分からない反応をするな? なにか悩みがあるのなら相談に乗るんだが。


 倒れた怪物の身体は急速に縮んでいき、人間の姿になった。

 肌が青白くなり、気を失ってはいるが、一応、生きているようだ。

 これは……人間に憑依していた魔族が、本性を現したって事か? こっちが対策を練る前に動き出しちまったな。


「はあっ! 白刃、閃光斬!」


 残る二体もシェリルが倒してしまった。俺の出る幕はなかったな。


 だが、それで終わりではなかった。

 街中に次々と、異形の怪物が出現し、咆哮を上げている。

 俺達が確認しただけでも、魔族に憑依された人間はかなりの数だった。あんなのが王都中にいて、一斉に怪物化したとなると……非常事態どころの騒ぎじゃないぞ。


「どうしましょう? 私達だけではとても……」

「見える範囲にいる怪物どもを処理して、住民を避難させよう。一刻も早く、ギルドや騎士団に知らせないとな」

「そうですね。やってみます」


 シェリルがコクンとうなずき、俺は笑みを浮かべた。

 状況は最悪だが、最低ではない。俺だけだったらどうしようもなかったが、シェリルがいてくれている。

 二人で手分けをすれば、ここら一帯の怪物どもぐらいなら、どうにかなる。


「グオオオオオオオオ!」

「きゃあ!」

「うわあああああん!」


 怪物が親子連れを襲っていて、幼い子供を庇い、母親が悲鳴を上げている。

 嫌な場面だぜ。そんな物を、シェリルに見せるんじゃない……!


「……『疾風』、閃光斬ッ……!」


 一気に間合いを詰め、『閃』の技の奥義を放つ。

 親子を庇いつつ、異形の怪物をズバッと切り裂き、薙ぎ払う。

 俺やシェリルなら余裕で倒せるレベルの怪物だ。騎士団の連中なら同じく余裕だろう。

 だが、冒険者の下位レベルぐらいだと倒すのは難しいんじゃないかと思う。そこそこ強いぞ、コイツら。


 化け物どもは巨躯に物を言わせて暴れるだけではなく、口を大きく開き、そこから魔力の炎みたいなのを吐き出し、放射していた。

 街中のあちこちで火の手が上がる。えらい事になってきたな。どうにかしないと王都が火の海に……!


「ああっ、うちの店があ!」


 叫んだのは、例のイオとかいう少年だった。ヤツの親戚が経営しているというパン屋の店舗が、怪物の吐く炎によって燃やされている。

 イオは顔色を変え、異形の怪物に鋭い目を向けた。


「この、クソ雑魚どもが! よくもうちの店を……くたばれ!」


 怪物に右手をかざし、黒い渦巻きのような魔力の塊を放つ。

 その直撃を受け、怪物は爆発と共に吹き飛び、人の姿になって転がった。相変わらず、すさまじい威力だな。


「まったく、この世界の魔族は品性に欠けるね。……このあたりの化け物どもは僕が処理するから、君達は他へ行ってくれ」

「お、おう。任せたぞ」


 爆発系の魔法を連発し、怪物どもを吹き飛ばしていくイオに、冷や汗をかく。

 化け物どもよりも、あいつの方が危険じゃないか? 野放しにしていてもいいのかな。

 不安はあるが、今現在は味方をしてくれているわけだし、このあたりの怪物については任せておくか。

 この場をイオに任せ、俺とシェリルは移動する事にした。


「どちらへ向かうんですか?」

「ここからだとギルドの方が近いな。そっちへ行ってみよう」

「了解です」

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