第15話 寒冷化の原因

 進めば進むほど低下する気温はついに雪を降らし始めた。

 このまま進めば吹雪になるのではと、そんな懸念も湧いてくる。そうなれば視野はかなり狭まり、モンスターの不意打ちを食らいやすくなる。その場にいるだけで危険な状況に陥ってしまうようになるだろう。

 そうなる前に引き返すべきか? と、撤退の二文字が頭に浮かんだところで、何故か降り続いていた雪が途絶えた。


「あれ? なんか温かくなってきてない? 雪も止んだし」

「これで解決ってこと?」

「んな訳あるか。これだけの規模の出来事だ。原因が勝手に居なくなって解決になるわけがねぇ」

「私もそう思う。先生。この先にはなにが?」

「たしか……」


 十年前の記憶を掘り起こし、視覚情報と照らし合わせて脳内で地図を拓く。

 龍骨のあった地点を起点に地図を広げていくと、現時点の居場所とその先を特定できた。


「滝壺だ」

「滝壺?」

「溶岩の滝があるんだ。一つや二つじゃない、幾つもだ。そこは最下層で一番暑い場所だって言われてる」

「暑いところに近づいたから温かくなった? でも、あたしたち寒いほうへ寒いほうへ歩いてたよね? なんで急に温かくなったの?」

「安直に考えるなら」

「なら?」

「寒冷化の発生源がその滝壺に移動した」

「うーん。訳がわからないねぇ。最下層をキンキンに冷やしておいて自分は暖まろうっての? 温泉みたいに?」

「そもそも寒冷化の原因ってのはなんなんだ。モンスターなのか? 別のなにかか?」

「現段階ではなんとも言えないな。自力で動けるのか、なにかに運ばれているのか。とにかく行ってみるしかない」


 雪が止み、凍結した地面も解け、歩くたびに水飛沫が跳ねる。

 幾つもの波紋が小さな波となって濡れた地面を渡って行く中、気温は輝力による防護がなくとも平気なくらいにまで暖まっていた。

 それがそもそも異常なことで、滝壺周辺はそれこそ輝力の防護がなければ立っていられないほど暑いはず。

 ダンジョンの自然環境を中和するほどの何かがこの先にある。


「何があるかわからない。慎重にな」


 最後の忠告をして滝壺へと足を踏み入れる。

 岩壁に空いたトンネルを抜けた先にあるのは円柱状に抜けた空間で、壁からは大量の溶岩が絶え間なく流れ続けている。まるで火山の火口を中から見上げているみたいだ。

 その中心地には本来煮詰まった溶岩が漂っているだけなのだが。


「なんだ? ありゃ」


 滝壺の中心地には陸地が出現していた。

 土や金属ではない、冷えて固まった溶岩の塊。

 その上には一つの卵が鎮座していた。


「あれ、卵!? 卵が寒冷化の原因!? なにそれ! 僕、自分の目が信じられないんだけど」

「溶岩が冷え固まって最下層の環境を塗り替えるほどの寒冷化を卵が?」

「ねぇ、これがもし孵っちゃったらどうなるの? もしかして滅茶苦茶やばい?」

「ここに運ばれてからそう時間も経ってねぇ。いま暖まり出したんだろ。なら孵るのはまだ先だ……たぶんな」

「みんな、警戒しろ。卵が独りでに転がってここにくるわけない」


 誰かが、何かが、卵をここに運んだ。

 温めて、孵すために。

 なら、この場合想定するべきモンスターは。


「親が近くに!」


 そう足立が叫んだ直後、大きな影が俺たちを塗り潰して過ぎて行く。

 直ぐさま視線は上へと向かい、その何かしらの尾が壁に途切れて消えて行くのが見えた。

 円柱状の壁より高い高度で飛ぶ、そのモンスターの正体はすぐに判明した。


「冗談だろ」


 それは十年前、俺がトドメを刺した探索者人生の中でも最も強力で強大だったモンスターの近縁種。吐く息は空気を凍らせ、氷のように白い鱗を纏い、その鋭い爪で冷気を掴み、雄大な翼で吹雪きを操る。

 卵の親は、白いドラゴンだ。

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配信者を引退した最強探索者、十年の時を経てダンジョンに再臨する ~俺がいない間に探索者のレベルが随分と下がったみたいだから導くことにする~ 黒井カラス @karasukuroi96

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