番外編

【お礼SS】 俺の願い《フレデリクside》

「フレデリク。お前は俺に喧嘩を売ってるのか」


 目の前のアンドレは、怒りを通り越してただただ軽蔑する瞳で俺を見ていた。相変わらずコイツは冗談も通じず、堅苦しい男らしい。

 仕方なく俺は、ヘラヘラと笑いながら答えた。


「冗談だよ、じょーだんッ!!

 だってさあ、お前見てると俺もはやく結婚したいなッて思ってしまうんだもん!」


「だからといって、俺をつまらない見合いパーティーに誘うな」


 そして奴は、相変わらず真面目な顔をして付け足した。


「俺は既婚者だ。しかもこの春には子供も生まれる。見合いパーティーに行くはずがないだろう」


「そうだね。アンドレが来ても、その場が凍りつくだけだもんね」


 俺は口元を尖らせて答えた。





 相変わらずアンドレは、惚気幸せアピールがすごい。それをこいつは無自覚でやっている。リアを溺愛しており、おまけにあれよあれよと子供まで作ってしまうこいつには驚いているが……幸せでいて欲しいと願ってしまう。


 こいつがこんなにも人間らしい感情を持つようになったのは、他でもないリアのおかげだ。そして、そんなリアに惚れてしまいそうになったことは、アンドレに言えるはずもない。


 リアがアンドレのものではなかったら、俺は全力で彼女を狙っただろう。


 普段はほんわかしていて、仕事から帰るとおかえりなさいと笑顔で迎えてくれる。使用人からも人気で、館は柔らかい空気で包まれている。それでいて、ピアノを弾く時は人格が変わる。普段のおっとりした雰囲気からは考えられないほど、情熱的で迫力のある演奏が繰り広げられる。


 そんなリアに、アンドレも心から惚れたのだろう。

 皆から冷酷将軍と言われ、恐れられていたアンドレが。





「そういえばアンドレ。バリル国王からお前に、また手紙が来てたぞ」


 俺はシャンドリー王国の国王陛下から預かった手紙をアンドレに渡した。アンドレはそれを手に取った瞬間破ろうとするから、俺は慌てて止める。


「おっと!そんなに早まるなよ!! 」


 すると、アンドレはただ冷たい瞳で俺を見た。最近はこんな表情をすることは少なくなった。だが、奴はまだ、リアを苦しめたバリル王国の人々や、例の令嬢を許せていないのだろう。奴らも十分に苦しんでいるとは思うのだが。





 アンドレは事件後、バリル王国へ宣戦布告をした。軍事大国の我が国に勝てるはずがないバリル王国は、必死に謝罪をした。バリル国王自らが我が国に赴き、何度も頭を下げた。そして何とか事なきを得たのだが……噂によると、バリル国王の怒りの矛先は、その甥へと向かったようだった。


 リアを嵌め、性悪な女と結婚し、彼女が他国で騒ぎを起こし国の危機へ陥れたリョヴァン公爵。彼から爵位を剥奪し、辺境へと追放したらしい。

 

 また、我が国で重大な罪を起こした性悪な女テレーゼは、我が国の法の下裁かれた。死刑でも良かったのだが、優しいリアの懇願によって死刑を免れた。今は労働刑が課せられ、炭鉱送りにされたとのこと。

 その頃にリアが弾いていた、『葬送行進曲』が今だに頭の中を巡り巡っている。

 

 こうして例の一件は無事解決したのだが……


 アンドレの中ではまだ解決していないらしい。リアを苦しめたバリル王国と、その命さえ奪おうとしたテレーゼを生涯恨むのだろう。





 ……とまぁ、こんな堅苦しい話は、俺には似合わない。幸せそうなアンドレを見ていて、俺も本気の恋をしたいと思っている。両親もこんな自由な俺の意思を尊重し、無理な婚約を結ばないでいてくれている。


「俺も、お見合いパーティーで心から好きになれそうな女の子を探さなきゃ」


 椅子から立ち上がる俺を、アンドレは見る。前みたいな無関心な瞳ではなく、少し俺を応援してくれているような瞳で。だってアンドレは、俺がリアに少し好意を持っていたことに、何となく気付いていたからだ。


「絶対お前よりも幸せになってやるからな!」


 そう言い残して部屋を出て、俺は城の外へ出た。そして、晴れ渡る青空の下、多くの人々が行き交う城下町を見下ろす。


 どうか、俺にも大切な人が出来ますように。

 あの二人みたいに、愛する人とずっと笑って暮らせますように。





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 長い間お付き合いいただき、ありがとうございました。


 こんなにも多くのかたに読んでいただけるなんて、思ってもいませんでした。感謝の気持ちでいっぱいです。

 とても皆様に励まされました。


 今回はお礼として、人気があったフレデリク様のSSを書かせていただきました。

 次作はまだ執筆もしておりませんが、いい話が思い浮かんだらまた書き続けたいと思っております。


 また、このお話も今後SSや番外編を公開するかもしれません。コンテスト期間中は文字数の上限までしか書けませんが…

 また読んでいただければ幸いです。


 今後もよろしくお願いいたします!



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追放された貧乏令嬢ですが、特技を生かして幸せになります。〜前世のスキル《ピアノ》は冷酷将軍様の心にも響くようです〜 湊一桜 @mee31

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