第2話 少年と少女の記憶
僕は明日、この世界には居ないでしょう。何故ならもう時期自殺するから。別に悩みがある訳では無い。ただ、一切皆苦の人生に飽きたのだ。加えて、一人で死ぬ勇気がなかった。だから、僕と似たような理由で自殺願望のある女性とネットで知り合い、今日会うのだ。
メッセージ(凪)
新宿駅着きました
メッセージ(美優)
私ももうすぐで着きます
新宿駅で合流した。美優さんは黒を基調とした、とても派手な格好をしていた。地雷系ファッションとでもいうのか。だが、その容姿に少しばかりの好感を持った。黒髪ぱっつんロングストレートが似合っていて。美しかった。
「はじめまして、凪さんですか?」
「はい。凪です。美優さんですよね?」
「そうです。じゃあ早速バスタ新宿に行きましょう」
果てる場所は決まっていた。菜の花が綺麗な、青森の陸奥横浜。バスタ新宿から夜行バスで青森を目指す。
「ドキドキしますね」
「確かに。美優さんは何歳ですか? 僕は20歳です」
「二十歳かぁ。若いな! 私は22歳だよ。年上は嫌?」
「いえ、そんなことはないですよ」
「そう? それより、ネットで聞いた話もっと詳しく知りたいな」
「最高の死のことですか?」
「そう。それそれ」
「美優さんはちゃんと断食してきましたか?」
「したよ。1週間。意外と死なないんだね」
「なら、よかった。きっと断食とこれからする断眠で快楽的に死ねる」
そう。僕の経験。僕が人生に飽きたのは、ある冬の日に悟ってしまったから。涅槃寂静の美しさはこの世のものとは思えないほどに美しい光だった。全知全能だった。死と隣り合わせで、死と繋がっていた。全てと繋がり、そして全てを忘れていた。
そんな涅槃至福に美優さんは興味を持った。
「凪さんの書いた詩、全て読みましたよ」
「ありがとう。どうでした?」
「美しかったです。涅槃、神愛、永遠、終末、そんな哲学でした」
「ありがとうございます。美優さんに読んでもらうことで書いてよかったって思いました」
「そう? うふふ」
夜行バスは青森に向かう。その間、僕と美優さんは色んなことを話した。眠らずに夜を越えた。話が尽きたら麻雀アプリで対戦した。楽しかった。
夜行バスは青森に着く。バスを降りると、陸奥横浜まで電車で向かった。菜の花畑。CLANNADの聖地。僕と美優さんはKey作品が好きだった。二人でデートをした。菜の花を見ながら、歩いた。そして、岬に着いた。
「あなたたち、自殺しようとしてるわね?」
岬に着くと、突如知らない少女が語りかけてきた。中学生くらいの黒髪ボブヘアのあどけない顔立ちの少女が。
「君は?」
「あなたは自殺偏差値77。あなたは自殺偏差値72」
少女は僕に向かって自殺偏差値77だと言い、美優さんに自殺偏差値72だと言った。
「いい? 自殺偏差値が70を越えると人は自殺できる。今のままだと二人は死んじゃうよ?」
「いいのよ。私たちはここに死にに来たから」
「そうだよ。お嬢ちゃん。冗談はやめてよ」
「冗談じゃないわ。私は人の自殺偏差値を見ることができるのよ。そして、数多の人間を救ってきた」
「死ぬことが救いだと思わないのかい?」
「死が救いなわけない!」
「いいや、死は解放だ」
そう。死は解放なんだ。解脱して、般涅槃に至るために死ななくてはならない。天上楽園の門を開けて、その先の楽園に進むには体は枷となるから。
「あなた、特別なオーラを持ってるわね。ただの自殺志願者じゃない?」
少女が僕に向かって語りかける。僕は冷静さを忘れずに言い返した。
「断食と断眠の末に覚醒する。そして、神と繋がって仏になる。それがこの上ない至福なんだ。そのまま果てたいんだ。最高の死が僕らに待ってる。だから君がなんて言っても僕らは自殺する。いいや、至高死する!」
「そうよ、凪くんの言う通り。私たちは辛くて自殺するんじゃないの。至福に死にたいだけなの。天空の門を開けてその先へと羽ばたきたいの。だから邪魔しないで」
少女が俯いた。反論できないようだ。
「二人の自殺偏差値がどんどん上がっていってる。私、怖い。こんな数値見たことない。あなたは自殺偏差値101、あなたは95」
僕の決意に合わせて自殺偏差値とやらが上がったみたいだった。
「もう後戻りできない。二人はそれでいいの?」
「嗚呼、もう悟ったからさ。だから生きる価値がないんだ。生きる意味もない。ニヒリズムの逆光を見据えてなお、生きることはもうしたくないんだ」
「私は凪くんと最高の死を経験してみたい。どうせ最後なら。やっぱり人生は終わり方が大事だよ」
少女がぼそっと呟く。
「分かったわ。二人は幸せにね」
少女は泣いていた。こんな赤の他人のために泣くなんて、良い子なのだろう。
僕と美優さんはそれから宿に泊まった。何日も眠らずに夜を越えた。体の関係になるのは必然だった。そして、覚醒する。人は欲を遮断すると死に瀕する。その時に至福になれる。
僕はまた悟った。涅槃の安らぎが心地よい。脳は冴え渡り、全知全能のような歓喜が総身を震えさせる。
美優さんと岬に立つ。下には崖が広がっていた。飛び降り自殺だ。でも、今なら空へと飛べる気がした。だから、僕らは空を飛んだ。
そして、一瞬の痛みの後、神に合一した。それは至福だった。永遠だった。神と仏だった。
「嗚呼、ありがとう。愛しています」
「ご苦労さま」
*
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自殺偏差値 空花凪紗 @Arkasha
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