第2話
『DTR-000-NARへ、間もなくデッドエリアに入ります』
「はーい」
端末を閉じた。うぅむ、アニメがいいとこだったんだけどな。シリーズどれも面白いけど、個人的には綺麗に終わった最初のやつで完結させて、2作目からアナザーでもいいと思った。
まあ、特にやることもない輸送中のフレームのコックピットで、娯楽と暇つぶしのために見てるだけだからいいんだけどね。
さて、お仕事だ。といっても、今回の任務はバチバチのバトルってわけじゃない。型落ちして払い下げになった旧型フレームを、企業の取り引き先のお得意様に届ければいいんだって。
SF-106 コッパーヘッド。正式量産機らしいグレーの落ち着いた色合いと、頭のオレンジのラインが特徴。この子も悪い機体じゃないんだけどね。残念ながらあらゆる面でスペックが上の次世代機が十分な数を量産されてしまったから、お払い箱になった。
こういうのは状態のいいものは大体傭兵とかPMCとかに払い下げられる(悪いものはスクラップ)んだけど、件のお得意様とやらは大のロボットマニアで、こういう型落ち機を引き取っては個人所有のガレージに飾ってるんだそうな。こんな時代でもカネ持ちってのはいるもんだね。
装甲もお得意様の趣味とやらで、なんか昔の甲冑っぽいデザインに変えられてる。ガチのリアル甲冑じゃなくて、ゲームとかに出てきそうな装飾とか用途不明の出っ張りとかついてるやつだ。色はド派手な赤に、所々に金のエンクレーブが入ってる。無駄が多い分、通常より重量が重め。武装は、火器の類は当然外されてるとして、左肩に機体とほぼ同じサイズのシールドバインダー、右手にグレートソードだ。…ロボットマニアではあるけど、ミリタリーファンではないみたいだね。
一応、企業の支配が及んでないデッドエリアを通過するってことで、ベクタースラストやアンバウンドストライカー、それに規格外を無理やりではあるけどニューロリンク・マニピュレーターなんかは装備してある(なんかあったら自力で逃げろってことだね)。現地で外す予定で、メカニックは先行して準備してるはず。私用のサポートAIも移設してあるから、動かすには全く問題ない。UTCが絡むとアレなことになるけど、頼れる相棒であることには違いないからね。
終末戦争でネットワークや交通インフラがズタズタになったので、まだまだ人類の手が届いてないデッドエリアは多い。
まぁそれでも企業のロゴをデカデカと掲げた輸送ヘリだ。仕掛けてくるバカもいないでしょ。一般パイロットだけど護衛部隊もいるし、準備はするけど、基本的にはのんびりさせてもらおう。
『ブルーギル隊各機へ。前方よりレイダーと思わしきフレーム部隊が接近中。数不明。対応願う』
『ブルーギル1了解。ただちに対応する』
…いきなりフラグ回収したな。しかし、レイダー?
レイダーっていうのはいわゆるモヒカンでバイク乗ってヒャッハー!な人たちなんだけど、彼らの戦力はいいとこスクラップを寄せ集めたお手製フレーム。企業の正規部隊に仕掛けてくることなんてほぼない。勝てるわけないし。
よほど向こう見ずな連中なのかね。まぁ護衛部隊でなんとかなるでしょ。私の出番はない。
『DTR-000-NARへ。悪い知らせです』
「…何?」
さっきからフラグ回収はやすぎでしょ!
『後方より増援です。数3。このままでは追いつかれます』
「…戦えってこと?」
『まさにその通りでして』
「護衛部隊は?」
『苦戦しているようです』
マジかよ。ていうか全員で迎撃してるのか、護衛対象ほっぽって。さてはヒマだったなあいつら。しかもそれで苦戦してちゃ元も子もないでしょうに。正規部隊がレイダーごときになにやってるんだか。
しゃーない、出るか。ちょっと準備いるな。
「想定接敵時間は?」
『おおよそ10分』
「5分もらうよ。一応護衛部隊呼び戻して」
『アイアイマム。助かります』
誰がマムじゃ。こちとらまだ16の美少女だっての。
まずはニューロリンク接続しないとな。シートの首元からケーブルを取り出して首後ろのコネクタオープン、接続───っ…。
…あー、この身体にケーブルを挿すっていう異物感と、全身を一瞬走るパルスの感触、いつまでたっても慣れないなあ。あと視界が拡張されるっていうのかな。フレームのメインカメラが捉えてる映像と私自身の視界を同時に見てるというか。そういう見え方になるので、これも起動したては頭がくらっとする。
ニューロリンクがあるかないかで戦闘力が全然変わるから使わない手はないんだけどね。でもこの脳がバグる感覚だけは慣れん。
さて、アビオニクス、機体チェック。
アクチュエーター各部問題なし。ジェネレーター出力正常。
ニューロリンク・マニピュレーター同調90。
ベクタースラスト、アンバウンドストライカー、ターンスパイク、パルスシールド、全て問題なし。
機体チェック完了。
武装…グレートソード1,シールドバインダー。一応問題なし。
コンディションおおむねグリーン。
グレートソードのモーションデータなんて入ってないから今ここで組む必要があるな。ライブラリに07隊のシックスのデータがあったはず。あの子の武器はメイスだけど、まぁ似たようなもんでしょ。流用しよう。補助動力も振動刃も何もない正真正銘ただの鉄塊だから、そこは補正がいるけど。
しかしこの私が巨大近接武器で格闘戦をやるハメになるとはねえ。一応教本も読んでるしシミュレーターは規定時間クリアしてるけど、正直あんまり好きではない。わざわざ近づかなくても同じ威力のビームなりバズーカなり撃てばいいと思っちゃうんだよね。格闘機の運用ドクトリンはあるけど、それは集団戦で射撃の援護がある前提での話だ。単騎突撃なんてそれこそシックスぐらいしかやらん。あの子は一種のバケモンだからな。敵に回したくない相手ナンバーワンだ。
コンソールを叩きながら映像でモーションイメージを把握する。ふむ、腕だけで振ってもダメだな。重量乗らないし、関節がすぐぶっ壊れそうだ。
足腰の踏ん張りと全身の体重を乗せて振るイメージだね。
一応アクチュエーター制御に3重のパッチを用意。ターンスパイク、バーニア、スラスター、バランサーも調整しなきゃだ。やることが…やることが多い!
4分54秒。終わった…戦う前から疲れた。
やれることはやった。あとは戦いながらなんとかするべ。
「終わったよ」
『さすがです。すぐに投下しても?』
「だいじょぶ」
『承知しました。無事の帰還を』
あいあい。機体パージ、自由落下制御…うおっとっと。
思ったより両腕が重いな。輸送ヘリに吊るされてる状態と自立してる状態じゃ違うね。バランサーちょい調整。スラスター系も、もうちょい出力上げよう。装甲が重い。
そうこうしてる間にレイダー3機が近づいてきた。うーん手作り感満載のフレームだなあ。スキャン…するまでもないか。武装はアサルトライフルとクローアーム、同じくアサルトとマニピュレータなしのロケット弾ついてるやつ、ハンドガン…ハンドガン?2丁持ち。なんでサイドアームなんだよ。背面武装は3機ともなし。
…うん?オープン回線で通信?
『そこの派手なコッパーヘッドのパイロット。今すぐ機体を降りて明け渡せば命は助けてやる』
「馬鹿め」
『…なに?』
「馬鹿め、だ」
通信アウト。なーにが命は助けてやるだ。スクラップとレイダーごときが調子のるな。こちとら旧型とは言え正式量産機とエースパイロットだぞ。
フレームの性能の違いが戦力の決定的差だってことを教えてやる。
ベクタースラスト起動、アンバウンドストライカー点火。シールドを前に出すように半身にして高速突撃。ソードは両手で後ろ持ち。
こっちの動きを見て敵が散った。ロケットとハンドガンが左右に回る。数が有利なら囲んで叩くのは正しい戦術だね。でもパターンぐらい読めてるんだよ、っと。
左右の脚のアンバウンドストライカーを交互に点火、背面バーニアで加速して走り幅跳びのステップの要領で跳ねるようにダッシュする。囲まれる前に正面のやつを潰す。距離600。
正面のやつがアサルトを撃ってくるけどパルスシールドとシールドバインダーで弾く。シールドバインダーは思ったより頑丈だな。これなら下手にフェイントいれるより距離詰め優先で突撃したほうがよさそう。塗装とかエンクレーブとかボロボロだろうけど!
距離あと200。クローアーム野郎が今更回避に入ろうとしてるけどもう遅い。アンバウンドストライカー両足点火。距離80、3、2、1、クラッシュ!
ドンッとお腹に響く音と衝撃、操縦桿を強く握って踏ん張る。シールドチャージで相手の体勢が崩れた。ターンスパイク起動、左足軸にして右足踏み出し、上半身回転同時にソードスイング、ヒット、そのまま振り抜く!
…うわーお、真っ二つになった。勢いは変に殺さずにそのまま回転。
爆発に巻き込まれる前に離脱。後ろの2機が撃ってきたのをアンバウンドストライカーで回避。ていうかこの距離でハンドガンは届かんよ。あっちはほっといていいな。
アサルト持ちに突撃開始。アンバウンドストライカー大活躍だ。敵機ロケット発射。あれに当たるとさすがに痛いけど、当たらなければどうということはない。回避、ステップ、敵ロケットリロードなし、距離300、敵回避機動、判断が遅い!距離120、3、2、1、今。ビンタ代わりのシールドチャージかーらーのソードスイング。ヒット、振り抜き。敵真っ二つになって爆散。
次はお前だ…って、逃げたな。ハンドガン持ちが全力で逃げていくのが見える。危険を感じるアタマはあったっぽい。まぁ追わなくていいか、思い知ったでしょ。
「こちらDTR-000-NAR。終わったよ」
『お見事です。さすがエースパイロット』
「お世辞はいいから回収して」
『それが、実は困ったことになっておりまして』
あん?
『ブルーギル部隊が苦戦しております。増援に20メートル級の大型フレームがいたようです』
20メートル級か。そりゃ厄介だけどなんでレイダーがそんなもの持ってるんだろう?量産数少ないからほとんど民間には流れてないはずだぞ。
こういうときは護衛対象であるこのコッパーヘッドだけでも輸送すべきかもしれないけど、戦える機体があるのに生きてる味方を見殺しにする判断はない。
「わかった。救助にいく」
『助かります。この件は正式に報告させていただきます』
「ボーナス出してって書いといて」
『承知しました』
さて、行くか。せっかくだから楽しめる相手だといいけど。ていうか誰だよ今回はバチバチのバトル任務じゃないって言ったやつ。
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コッパーヘッドを走らせること10分弱。火線が見えてきた。あと話に出てた20メートル級も。デカいなー、倍もあるしな。
さて、まだ距離があるうちに分析しとこう。システムスキャンモード。
ていうか完全な人型じゃないな。尻尾のないマッコウクジラみたいな長方形の胴体に、長い腕と短くて太い脚が生えてる。胴体正面にメインカメラっぽいカメラアイ、頭の左右にビーム砲っぽいのが2門づつ。腕は関節が3つ、節足動物みたいだな。関節は人体みたいなスイング式じゃなくて電磁球体関節っぽい。マニュピレーターの指先がビーム砲になってるな。左右10本の火線は中々しんどい。脚は武装はないけど、あの機動はベクタースラストじゃないか。
うん、アレ絶対レイダーの持ち物じゃないぞ。レイダーたちのスクラップフレームは元のスクラップに帰ってそこらじゅうに転がってるしな。独特の意味不明な造形じゃないからUTCには見えないし、どっかの別企業の実験機かなんかか?
戦術プランを練ろうかと思ったけど、こっちに出来るのは近づいてぶった切るだけだ。プランもなにもないわ。
味方は…一応5機とも生き残ってるっぽい。中破2。小破3。だいぶやられたな。
分析終わり、生き残りに連絡入れよう。さすがに援護無しでアレは厳しそうだ。連携しないとね。
「こちらコッパーヘッド。ブルーギル、生きてる?」
『こちらブルーギル1。手間を掛けてすまん。動けるのは俺含めて3機だ』
「了解。前に出るから援護よろしく」
『了解した』
《報告です。対象より、生体拡張インターフェース由来と推定される微弱なEMパルスを検出。通常の神経インターフェースとは異なる波形を示しています。特殊な強化人間専用機と推測されます》
強化人間?ご同胞ってこと?え、でもあの形状じゃニューロリンク同調難しいでしょ。パイロットが人間である以上、完全な人型じゃないと認識の差異で脳がバグる。最悪発狂して死ぬ。
《推測ですが、ブレインデバイス・コントロールだと思われます》
──は!?脳ミソだけ摘出して生体CPUにするっていうアレ!?非人道的すぎて研究段階で禁止されたやつじゃないか。いや、あくまでうちの会社の話であって他所はそうじゃないのかもだけど!
機体には企業のコードもマーキングもない。つまり、“表に出せない開発”ってことだ。…にゃろう、どこの企業か知らないけどナメたマネしやがって。強化人間だって生命があって、意思も心もあるんだぞ。自分の意志で戦場に立って命のやりとりをするのは本人の選択だからいい。私だって企業所属の強化人間ではあるけど、それでも戦場に立ってるのは私自身の意志と選択だ。けど脳ミソだけにしてロボットを動かさせるなんて、それはもう人間を完全に道具にする行為じゃないか。尊厳を冒涜する行為だ。
外道め、マジで許さん。…とりあえず相手さんはきっちり楽にしてあげよう。
システム戦闘モード。
味方のプラズマライフルとミサイルの援護に合わせてステップで前に出る。とりあえず腕が厄介だな。まずはアレを無力化しよう。
ビーム片面5本の火線は侮れないけど、1本分ぐらいならパルスシールドで防げる。収束されると脅威でも、左右にフェイントを入れたり、動きを援護射撃にあわせることで相手の注意を分散させるのだ。
右、左、右、右、左、アンバウンドストライカー、右、相手の動き雑だな。接近する私と射撃するブルーギル隊、同時に相手しようとして処理が追いついてないように見える。どっちも撃とうとして火線がバラけてるというか。火力はあっちが圧倒的だけど、単純にパイロットの腕はこっちのほうが上だ。クソ開発者め、フレームの性能の違いが戦力の決定的な差でないことを教えてやる。距離700。
もうちょいでインレンジ、相手も感づいてこっちに火線を多めに振ってきた。あと1歩踏み込むのにタイミングを読もう、と思ったらメインカメラ部分に味方の火線が集中した。ナイス援護、さすが正規パイロット。相手の注意が逸れた、チャンス。
両脚アンバウンドストライカー、距離200、目標敵左腕関節、グレートソード準備、3、2───っっっ、こ、んのっ!
ガイン、と硬い手応え。装甲に当たって弾かれた!くそ、仕切り直す。
ここぞのタイミングでコッパーヘッドの反応が遅れた。最適化が間に合せの上に標準装備じゃないニューロリンク付けて動かしてるからな。
…いや、コッパーヘッドのせいじゃない。私が上手く使いこなせてないだけだ。マシンは全力で私の操縦に応えていてくれている。マシンのせいにするのはパイロットの言い訳だ。
ごめん、コッパーヘッド。もう1回いこう。大丈夫、お前はいい機体だよ。ゲテモノロボットに正式量産機の意地とプライドを見せてやろうぜ。
ビーム砲が正面に来た、5本全部がこっちを狙ってる。左右回避──間に合わない、その必要もない。
両脚アンバウンドストライカー、ギリギリまで引き付けて全力で突っ込む!集中しろ、感じ取れ。
3、2、ゾワッときた!コッパーヘッドをギリギリまで前傾姿勢にして両脚アンバウンドストライカー!相手のデカさと砲撃位置の高さを逆手に取ってビームの下をかいくぐる!
うおわっ!ビームをぎりっぎりで潜り抜けた!背中から5メートルも離れてない!あっぶな!
でも真下に潜り込んだ!敵関節直上!アンバウンドストライカー垂直ジャンプ!バーニアスラスター全力稼働!グレートソードインパクト、3、2、1──今!
手応えあり、振り抜けっ!ジャンプの勢いとスラスターで上半身コントロール!
…敵左腕切断!ビーム砲沈黙!どうだっ!
敵が頭をこっちに向けた。下半身との接合部に旋回機能ありか。正面のビーム砲で狙う気っぽいけど、そんな射角も付けられないような火線に当たるかっ!
それにその長ったらしい胴体をこっちに向けたってことは──衝撃音、爆発、敵右腕沈黙!護衛部隊に横っ腹を晒したってことだ!
よし、あとは本体を
《警告。敵機構熱源反応。自爆と推測》
は!?離脱離脱!アンバウンドストライカー!
うわ、ほんとに自爆した!しかも大爆発だ、証拠も残さない気か、にゃろうめ。
それにしても不利状況になったと途端に自爆は早すぎる。パイロットの判断じゃないな。
システムスキャンモード…ものすごく遠くに熱源1。離脱してくな、追いきれないか。だが存在はログに残したぞ。絶対にケジメはつけさせてやる。
とりあえず、この場は終わりか。敵機の残骸を見つめる。小さな爆発と火を吹きながら崩れていく機体。生体反応はない。脱出装置のようなものが反応した形跡もない。パイロットの意思か、AIの推測通りブレインデバイスだったのかはもうわからない。
バイバイ、顔も名前も知らないご同胞さん。君に安らかな眠りが訪れますように。
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記録中───
「──以上が、本作戦の戦闘記録になります」
戦術課主任が資料を読み上げる声が静かに室内に響いていた。
投影された映像には、残骸と化した正体不明フレームと、その前に立つ少女兵がひとり。その視線は炎を上げる残骸にまっすぐ向けられている。
淡々と読み上げられた報告を受け、作戦管制室に設けられたブリーフィングスペースでは、一瞬の沈黙が落ちた。
前面スクリーンには、戦場記録の最終カット。
半壊状態のコッパーヘッドが炎と黒煙の中から姿を現し、味方の元に帰還していく映像。
「……まあ、勝ったのは良いとして」
スーツの襟元を緩めた重役の一人が、息を吐くように呟く。
「機体の損耗がひどい。クライアントの趣味用に納品予定だったんだぞ。下手すれば違約金だぞこれは」
「……いえ、その点は問題ありません」
秘書官のひとりが、端末の通知を見ながら顔を上げた。
「クライアントより直接の返信がありました。“戦火を潜り抜けた騎士のようで大変気に入った。むしろ付加価値がついた”とのことです」
「……は?」
「全文をお読みしましょうか?」
「やってくれ」
秘書官はごく僅かに眉を上げ、読み上げを開始した。
「──『素晴らしい!破損具合がリアルで、最高に“現場”を感じさせる!
この傷、装甲の焼け剥がれ、シールドの摩耗痕、すべてが本物の証明だ!
塗装?上塗り?とんでもない、絶対にこのまま送ってくれ!
ああ、剣を振るう姿が美しい……!戦う者の魂を感じた。
記録映像も実に良い。逆境からの反撃、実戦向けではない装備での奮闘、最後のあの一撃──芸術だ!
あの娘のパイロットログ、可能なら展示用に一部譲ってもらえないだろうか?』──以上です」
沈黙。
やがて会議室に、小さな笑いが生まれた。
「……相変わらずだな、あの人は」
「いや、ありがたい話だ。助かったよ。ぶっ壊して怒鳴られる未来しか見えてなかった」
「趣味人ってのは、つくづくよくわからん」
「映像の方も再生回数が鰻登りです。ファンクラブはないのか、という問い合わせも来ているほどです」
「うちはアイドルを売ってる会社じゃないぞ」
「グレートソードも戦術的価値が見直されているようです。オプションとして正式に開発したいと開発部から要望が」
一瞬、会議室の空気が静止した。
「…それは絶対にやめさせろ」
疲れたように呟いた老幹部に、若い戦術部次長が静かに別の話題を振った。
「それより問題は、敵機体のほうです」
スクリーンが切り替わり、爆発の直前までに取得された敵機の構造スキャン画像が表示される。
「生体反応の痕跡と、神経系由来と推測されるEMパルス。ブレインデバイス・コントロールの可能性が高いとサポートAIは判断しています」
「それが事実なら、我々の枠組みを踏み越えた“意志なき兵士”を誰かが本気で造っているということになる」
「開発元の特定は?」
「現在のところ断定には至っておりません。ただ、外装構造と関節配列から、デルマリウス重工またはエリアス機構が関与している可能性が指摘されています」
「どちらも正式には否定してくるだろうが……まあ、伏せてやる義理もないな。ログと映像は回しておけ。必要なら議会にも上げる」
「了解しました。続けて調査部には類似反応の検索を依頼します。継続的な監視対象としましょう」
幹部たちが頷く中、一人の老幹部がぽつりと呟いた。
「……年端もいかぬ少女を改造してロボットに乗せて戦わせる我々も大差ないと思うがな」
室内の空気が一瞬だけ固まる。
しかし次の瞬間には、別の重役が乾いた笑いでそれをかき消していた。
「それはそれとして──今回は上出来だった。報酬評価に反映してやれ。あの子、ノアレだったか?
……実に、使えるな」
──記録終了。
強化人間(美少女)です。企業の犬として人型ロボットのパイロットやってます。 針坂時計 @nekolarmen
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