第5話 のろわれたページ

 日記が変だ。違和感がする。


 そう思ってページをめくると破られたような跡が見えた。


 ……最初からここは破れていた、のか?……


 たまに破られたばかりのページを見ると「まだ新しい」と言う人がいるが僕にはその違いは分からない。


 ただ、慌てて破ったのか

  随分と乱暴な切り口だと思う。


 手で無理矢理引きちぎったような跡だ。


 何となく嫌な予感がする。


 僕は破れたページを探そうと思った。



  トサッ



 僕は手にしていた日記を近くの机に置いて手近な机の下や机の中を探してみた。


 何も、ない。


 机に手を置き立ちあがろうとした時、指先に何かが触れた。



 紙だ。



 指先にピリッと痛みが走る。


 どうやら紙で指を切ったらしい。

 一直線に赤い筋が浮かんだ。


 紙をきちんと手に取って見てみる。

 どうやら先ほど破れていたページの日記らしい。



【日記16ページ目】


 ……さ…………して


ーーーー


 さして?指して、刺して……?

 自分の考えにぎょっとする。

 違う違う、そうじゃない、そうじゃ……

 僕は額をグッと押して思考をリセットした。

 さの後が不自然に空いている。いや、掠れていると言った方が正しいか。

 結局のところ何と書かれているのか全く分からない。


 赤黒い殴り書きのようなそれはまるで邪悪な蛇のようにのたうっている。


 ……日記を……

 僕は立ち上がり日記を取ろうとした。


 ……ない……

 確かに置いたはずの日記は、影も形もなくなっていた。

 誰が見ていたわけでもないのに失くした事にひどく動揺する。


 ……探さなきゃ、早く……!

 日記を、日記を探さないと!

 早く見つけないと、取り返しのつかない事になりそうだ。



 カッカッ……シャー……カカッ…………


 カッカッカッ……シャーシャー……カカカカッ……


 黒板にチョークで文字が書かれる音だ。



  この教室には、僕しかいないのに……!



 慌てて黒板を見る。


  ……誰も、居ない………


 代わりに、白いチョークで何か書かれている。



 小さな、花、の絵?のようだ。


 ……そう言えばこの花、どこかで見たような……


 学校の門から見える位置にこんな花が咲いていた気がする。


 自然と、足は窓の方へ向かった。


 窓から見たって、そんな小さな花が見えるわけもないのに……


 風に舞い、花びらがチラつく。

 本当に小さな花びらだ。


 ……こんな小さな花びらが風に煽られただけで自然と散ってしまうものか?



 ブチッ、ブチッ、ブチッ……



 ひらっ、ひらっ、ひらっ。



 風上から何かが……



 花びらが舞う。小さな花びらが。



 隣の教室の窓に何かささっている。

 閉じられた窓に挟まるように、小さな、何かが。


 あれは、何だ?


 紅い……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る