第6話 三流ホラー

 隣の教室を確認してみる。


 相変わらず廊下は薄暗いが隣の教室位は行けそうだ。


 出てすぐにある隣室のドアに手をかける。



 ガラガラガラガラ



 ドアを開けて窓を見れば、何もない。


 近付くと窓の一部が紅くなっている。

  絵具がはねたような。


 開けてみる。

  何かが落ちた。


 下を見る。


 池だった。

  紅い池だ。


 花びらのない花が無抵抗に落下して飛沫をあげた。



 ……いや、ちょっと待て……



 あの小ささだぞ?いくら花びらがないからって、風の影響を少しも受けずに真下に落ちるだろうか?池の中心に?

 確かに落ちた。飛び降りた人形ひとがたのように見えた。窓から……

 重量のないあの花が、窓から……!


 窓の下をもう一度見る。


 何事も無かったかのように何もなっている。


 小さな花も、窓にあった何かが跳ねたような汚れも、もちろん窓の下の池も何もかも、だ。



 カタッ



 物音がして黒板を見る。


 誰もいない。


 黒板には真っ赤に染まったノートの破れた1枚が貼り付けられていた。


 黒い文字で


  また×んだね……


 と、書かれていた。



 振り返る。


 先程までは確かに一輪挿しに、件の花が飾られていた。

 萎れて花びらを下に向け、1枚だけ机の上に落として……

 項垂れてるようで、まるで吊るされているようだ。


 冗談じゃない。これじゃまるで三流ホラーじゃないか。

 僕は指先でちょんと花に触れた。


 ポロッ


 軽く小突いただけなのにもげてしまった。


 断頭台の死刑囚でもあるまいに。


 落ちた花が恨めしそうに僕を見ている。


 触れただけでコレなんて、

  ヤマアラシのジレンマとでも言うのか。


  君は僕を許さないと言うのか……


 君が誰か分からない。分からないけれど、これだけは言える。それでも僕は君の事を……



 どろりと何かが纏わり付いた。

 僕の口を塞ぐように、人の腕程ありそうな、

  それでいてざらりとした触感は舌のようでさえある。


 触れているのに掴めない。

 うなぎのように逃げるならまだしも

  握りつぶしてしまうのに、

   変幻自在なソレは

    僕の口を抑えたまま離れようとしない。


 次第に息が苦しくなって、僕は意識を手放してしまった。

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