第二十一話 周治との出会い

 虚ろな表情のエタナが、ふと見上げると。ボロボロの靴磨きの老人が殴られけられしてゴミ捨て場に転がっていた。


 体を丸め、必死に耐えている。十三人の大人に対して、老人はたった一人。エタナはそれを止めようとするも体が透けて、手を握る事すらできはしない。



 その現実が、エタナを追いつめていく。



 息も絶え絶えの老人は、透けた幼女が泣きながら自分を助けようとしている事に気づいた。


「貴女は誰ですか?」


 思わず、目を見開くエタナ。「お前には私が見えるのか」思わずそんな事を口走る。「私はエタナ、ゴミ屑の様な存在さ」と寂しそうに笑うと。ボロボロの老人も「ボクもですよ。社会のお荷物で周治(しゅうじ)って言います」



 二人は、お互いの自己紹介に溜息をつきながら。「貴女は幽霊かなんかですか?」と尋ねた周治に「似たようなもんさ」と返す幼女。



「うちに来ますか? と言っても何もでませんが」


「助けられもしなかったのに」


「いいんですよ、ボクの人生で親でも、兄妹でも、友達でも、近所に住んでいる者達でさえボクに手を差し伸べてくれるなんて事は無かったんですから。幽霊でもゴミ屑でもボクにとってはありがたい存在なんですよ」


 悲しそうに笑うその丸めた背中が、全てを物語っていて。エタナはダストも一緒にいいかと尋ね、承諾を得て周治のアパートの部屋にはいっていく。


 たった二畳、豆腐の様な風呂に何も入っていない小さな冷蔵庫。シミがあちこちにある壁。そして、金属の流しが一つ。



 家と言うより部屋と言った方が正しいそこは、牢獄より狭かった。



「狭い所ですが」



「屋根があるだけで、私にとっては天国さ」


 変わった幽霊の子供だな……、そう思いながら周治は体を横たえた。


「病院に行かなくてもいいのか?」


「そんなお金はありませんから」


「布団等もないのか?」


「実家を叩きだされてから、布団で寝た事は無いですね」


「それなら、ダストを使うといい」エタナがそう言うと、ダストが周治の背中に入り込む。スライムの柔らかさが、背骨を支え羽毛布団の様に周治の身体を包み込んだ。


 直ぐにすぅすぅと老人は寝てしまい、エタナは部屋の畳を触りながら。


「私は穴のあいた、畳で寝て。天井に穴が空いた所にいて、ゴミ捨て場のダンボールでさえ居心地が良かったのだ……」 立派な屋根があるだけで、私にとってはこんなにいい場所はない。



 これが、エタナと靴磨きの老人の最初の出会い。

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