第2章: 森の出会い
アレンとリナは、エルドの村を後にして西の森を進んだ。星の石が放つ青白い光を頼りに、苔むした木々の間を歩く。森は静かで、時折、鳥の羽音や遠くの獣の唸り声が響いた。アレンの胸は不安で重かった。星を継ぐ者という言葉の意味も、試練の内容もわからない。ただ、母の笑顔とリナの元気な声が、彼を前に進ませていた。
「ねえ、アレン! この森、なんか神秘的じゃない?」リナが木の枝を手に、くるりと回りながら言った。彼女の赤毛が朝陽に輝き、アレンは思わず微笑んだ。「神秘的って…怖いだけだよ。リナ、ほんと怖いもの知らずだね。」
「だって、星が導いてるんだもん! 怖がってても始まらないよ!」リナは笑い、背負った小さな袋から干し肉を取り出した。「ほら、食べて元気出して!」
二人は岩に腰を下ろし、簡単な朝食をとった。アレンは星の石を取り出し、じっと見つめた。石は脈打つように光り、触れると温かかった。「リナ、この石…本当に僕を導いてるのかな。もし間違えたら…。」
「アレン、考えすぎ! 母さんのため、村のみんなのためだよ。信じようよ、星を。」リナの言葉は力強く、アレンは頷いた。彼女の笑顔は、まるで星の光そのものだった。
だが、休息も束の間、森の奥から重い足音が響いた。アレンは身を縮め、リナの手を握った。「何か来る…!」次の瞬間、木々の間から黒い影が飛び出し、二人の前に立ちはだかった。狼のような獣だったが、その目は赤く輝き、星の病に侵されたような異様な気配を放っていた。
「リナ、逃げて!」アレンは叫び、近くの枝を手に構えた。だが、獣は唸り声を上げ、飛びかかってきた。リナが悲鳴を上げた瞬間、別の影が横から獣に突進した。金属の閃光と共に、獣は地面に倒れ、動かなくなった。
「ちっ、こんなところでガキがうろつくから…。」男の声が響いた。見上げると、20代半ばの青年が立っていた。ぼさぼさの黒髪に、傷だらけの革鎧。腰には血に濡れた剣が下がっている。彼はアレンたちを睨み、剣を鞘に収めた。「怪我はねえか?」
アレンは震えながら頷いた。「あ、ありがとう…。」リナは目を輝かせ、「カッコよかった! あんた、誰? めっちゃ強いじゃん!」と無邪気に言った。
青年は鼻を鳴らし、「カイルだ。傭兵やってた。こんな森で何してんだ、お前ら?」彼の目は鋭く、信用していない様子だった。アレンは星の石を握り、意を決して話した。「僕、アレン。星を継ぐ者で…星の光を取り戻す旅をしてるんだ。この石が導いてる。」
カイルは石を見て、眉をひそめた。「星を継ぐ者? ふん、昔の英雄譚じゃねえか。ガキがそんな大それたこと、できるわけねえ。」彼は背を向け、歩き始めた。「ま、好きにしろ。だが、この森は危ねえ。次は助けねえぞ。」
「待って!」リナが叫んだ。「カイル、強いんでしょ? 一緒に来てよ! 星を取り戻せば、世界が救われるんだよ!」カイルは足を止め、振り返った。「世界? んなもん、俺には関係ねえ。生き延びるだけで精一杯だ。」
アレンはカイルの背中に言った。「僕も…怖いよ。自分にできるか、わからない。でも、母さんが、村のみんなが、待ってるんだ。カイルさん、もし誰かを守りたい人がいるなら…一緒に戦ってくれない?」
カイルの目が一瞬揺れた。彼は黙ってアレンを見下ろし、やがてため息をついた。「…ったく、ガキのくせに生意気だな。いいぜ、しばらく付き合ってやる。ただし、足手まといになるなら置いていくぞ。」
リナが飛び跳ね、「やった! カイル、よろしくね!」と手を差し出した。カイルは無視して歩き出したが、口元にかすかな笑みが浮かんだ。アレンは胸を撫で下ろし、リナと顔を見合わせた。「これで、ちょっと安心かな…。」
三人は森の奥へ進んだ。カイルの剣が道を切り開き、リナの笑顔が空気を軽くした。アレンは星の石を握り、母の祈りを思い出した。「母さん、僕、進んでるよ。待ってて。」だが、森の奥にはさらなる試練が待っていた。
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