第27話 君は、何をした? いえ、今からもっとやります。
沈黙が部屋を支配する。 佐藤調査官は何も言わず、ただ俺を見つめていた。
険しい眉がわずかに動いた。ぴくり、ぴくりと不規則に震えながら。
声より先に、その表情が語る。
「……君は、何をした?」
低く、冷静な声。質問ではない。追及だ。
ほら、華怜さんやっぱり聞こえてましたね。
えっ?違う紙を破った音だって?
「あまつさえ、大事な書類を紙飛行で飛ばす…だと?」
やっぱり、聞こえてましたよ。はい。
あっ、その発言は、華怜さんですよ。はい。
あっ、いえ確かに私が飛ばしはしました。はい。
「おまわりさん。この人です」
「ふふふっ冗談ですよ。一緒について行きますから」
華怜さんめっちゃ余裕そうですね。
それに、あそこにいる犯罪者たちも、ちょうどおまわりさんにお世話になるところですしね。
「……あれ?」
久保田さんがぽつりと声を漏らし、じっと俺を見つめた。
「カナタ公爵閣下では?」
久保田さんの声に反応したのか、佐藤調査官もこちらを見た。
「ん?」
佐藤調査官が眉をひそめ、低く声を漏らした——そして次の瞬間。
「はへっ?」
威厳のある顔に似つかわしくない声が聞こえた。
「うおおおっ……!? これが本物!? あの憧れの——カナタ公爵閣下だと!!」
その瞬間、佐藤調査官の目が輝いた。 いつもの冷静さはどこへやら、明らかに興奮が滲み出ている。
「まさか……こんな形でお目にかかれるとは!!」
まるで少年のような純粋な感動が、その声には宿っていた。
いや、誰だよ今の声……さっきの冷徹さはどこいった。
「閣下。サインください!」
いや、あんたの差し出している紙あかんやつやん。
「佐藤調査官…その紙は…」
久保田さんは冷静に佐藤調査官の行いを正そうとしている。
「なるほど。そうだったな。久保田くん…。閣下は紙など破いてはいない」
うん。全然伝わってない。
それどころか、目の前に犯罪者が一人増えてないか?
「いえ、違います。いえ、破いた問題もそうです。あれ?いや、違います。佐藤調査官、その持っている紙についてです。」
「ああ、久保田くんもサインが欲しいということだね。うんうん、わかるぞ~!閣下だもんな!」
佐藤調査官のキャラが完全に崩壊してませんか?
「破いた紙ももちろん問題になりますし、その手にしているのも大事な書類ですよ?」
「あっ…」
佐藤調査官がやっとまずいことに気が付いたのか。しまったという表情をしているな。
「そうだ。これ誰かの責任しようか?ダメかな?」
周りの犯罪者を見渡しながらの問題発言である。
「仕方がない。私が責任を持とう」
佐藤調査官があきらめ気味に言う。
そりゃそうだろと思ったが……破ったの俺だったわ……。
俺は、破れた紙を手に取り、綺麗に戻せないかと魔力を込めた。
用紙が淡く光を帯び始めた……。
さらに、ひと際大きく輝きを放ち始めた。
「ん?」
その光と共に、久保田さんの手元も光り輝いた 。
光が収まり俺は手元の書類を確認した。
破れた書類は元に戻っていない。だが、文字が何も書かれていない。
「あれ?白紙に戻ってます」
久保田さんがそう呟いて、俺は彼女の手元の書類を見ると、すべて白紙に戻っていた。
…うん。まるで新品のように綺麗だ。
佐藤調査官と目が合う。
俺は覚悟を決めた。
「申し訳――」
「いや、私の責任をすべて閣下が被ってくれた…。そういうことですね閣下!」
佐藤調査官は目を輝かせ、大声で俺の謝罪の言葉を遮った。
いや、違うけど?
「私が大事な断罪の書を風に散らし、正義を消滅をさせたのは事実。(私が大事な書類を破りかつ内容まで消してしまった)我が過ち、この非礼、心より詫びよう」
再び、謝罪の姿勢を取る。ただし、この人にとっては、俺の閣下キャラは尊敬に値するらしい。ならば、相手に失望をさせないことを務めることを決めた。せめて公爵閣下としてこの人の前では演じよう。
「ああ、なんてことだ。紙をすべて真っ白に戻した理由……。それは、すべてを白紙に戻し、私に課せられていた責任すらも消し去る、寛大な心の表れだったとは……」
佐藤調査官は、涙まで流し始めた。
だから、違うって…。
すべてを白紙に戻すとか……いや、何? 上手いこと言ってるの、この人?
今度は、佐藤調査官への対応に関して、別の意味でやりすぎたわ。
「さっ、さすが閣下。おお、そうだ。久保田くん。閣下にお茶をお出ししてくれ」
「そうだ、閣下のために最高のお茶を!…いや、私が淹れねば!!」
部屋の片隅に置かれた品のある茶器セット。佐藤調査官は、急ぎ足で歩み寄ると慎重な手つきで湯を注ぎ始めた。
その表情は真剣そのもの。まるで公爵への敬意が一杯の茶の中へ凝縮されていくかのように、わずかな湯量の調整さえも緻密だ。
茶葉がゆっくりと開き、芳醇な香りが立ち昇る。彼は軽く息を整え、湯呑を手に取り、揺るぎない足取りで俺のもとへと歩を進める。
「閣下、この茶を——私自らお持ちしました」
湯呑がそっと机へと置かれる。まるで神聖な儀式のような動作に、室内の空気さえ一瞬凛と引き締まった。
彼の目には、心なしか誇らしげな光が宿っていた。
「どうぞ、お召し上がりください」
俺は湯呑を手に取る。湯気が穏やかに立ち昇り、仄かに漂う香りが心地よい。
一口すすると、まろやかな味わいが広がり、優しい甘みが追いかけてくる。思わず口元を緩める。
「これは……実に見事な仕上がりだ。香り、味わい、そのすべてが調和している」
ふと視線を上げると、佐藤調査官が期待に満ちた目でこちらを見つめていた。
俺は軽く笑みを浮かべ、素直な気持ちを込めて言った。
「……うまいな」
俺が湯呑を手に取り、一口飲んでいる横で、久保田さんは淡々とお茶を配っていた。
器用な手つきで湯呑を持ち、一人ひとりにそっと差し出す。
動作に無駄はないが、どこか柔らかい雰囲気が漂っている。
佐藤調査官の前へ来ると、彼女は落ち着いた声で言った。
「どうぞ、佐藤調査官。」
彼は目を輝かせながら、
「閣下のもとへ届けたお茶と、同じものですね?」
……お茶は同じだろ。
佐藤調査官が湯呑みを受け取ろうとした瞬間、
「きゃっ」
久保田さんの足が再びもつれ、湯呑みは佐藤調査官の元へ…。
湯呑みが傾き、鮮やかな茶の液体が佐藤調査官の制服に飛び散る。
思わず息を呑んだが、彼は久保田さんを咎めることもなく、むしろ口元をゆるめた。
「ふふ……これが、閣下に淹れたお茶か」
彼は手を伸ばし、机の上の書類をスッと取り上げると、迷いなく濡れた服を拭い始めた。
そして、満足げに頷く。
「こうして浴びることができるとは、なんと光栄なことか」
彼のその視線は久保田さんへ向けられていた。
その表情はまるで悟りを開いたかのように晴れやかだった。
久保田さんも、ぽかんとした顔で調査官を見つめていた。
「あっ、あの書類…」
久保田さんの佐藤調査官に対する、今日、何度目かの注意。
「ああ、今度は犯罪者どもに書かせればいい。そうだ。自白にもなって一石二鳥だろ?」
佐藤調査官は大声で笑い、久保田さんは苦笑いで対応していた。
それ……、公爵閣下の悪い噂として広まるよね?
「小町には、このお茶、熱くて飲めないにゃ~」
……この子まだ居たの?
ちなみに、この後、華怜さんがふぅふぅして冷ましてあげていた。
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後書き
すわ、専属受付嬢に続いて、閣下専属調査官の誕生か!?
いや、いらないです。と思った方は、高評価を…。
むしろ、歓迎します。と思った方は、好評価をお願いします!
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