第28話 あれ?もしかして優秀なの?
「さて、閣下……実は、改めてお伝えしなければならない重要なことがあります」
声の調子が変わった。先ほどまでの興奮とは打って変わって、落ち着き響いた。
俺は無言で周りを見渡した。犯罪者どもに目を向ける。
「この場の秩序を保つ責任がある以上、この場の秘密を守るのもまたそなたの務めであろう。この場に秘匿すべき事柄を漏らす者がいる。そなた自身の名誉のためにも、然るべき処置を講ずるべきであろう」
佐藤調査官は俺の言葉の意味に気づき、瞬時に表情を変えた。鋭い視線を犯罪者たちに向ける。「ここに居場所はない」静かな一言が場を凍らせる。すると、部屋の隅で待機していた者たちが動いた。無言のまま犯罪者たちの腕を掴み、迷うことなく部屋の外へ連れ出していく。 扉が閉まり、ようやく空気が落ち着いた。
「閣下の深慮により、未然に秘密漏洩を防ぐことが叶いました。この賢明なるご判断に、心より感謝申し上げます」
「さきほどの異国の男――何の罪を犯したのか、詳しく聞かせよ」
「バーナード・モールトンは日本語に堪能であり、日頃より、何軒かのアイテム販売所の業務を補助することで、収入を得ておりました。しかしながら、一部の調査により、対象者が販売所の物品を不適切に持ち出していた事例が確認されました。まぁ小悪党ですな」
アイテム販売所の手伝いをして、お小遣い程度に稼ぎ、アイテムをちょろまかしてたってことか。
何軒かのアイテム販売所の手伝いってことは、コミュニケーション能力もあり、相手の懐に入るのも上手いってことかな。
「貴公、書類をなくせば、耳を持つ者に渡り、金に換えることもあるとは、面白い喩えをしていたな?」
「はい。書類が情報屋の手に渡れば、売られる可能性があります。そのため、情報漏洩につながる危険性を喩え話として申し上げました」
「あやつがそうかも知れん。ただ、他の二人の身を検めてみよ。そちらより、白紙が見つかるやもな」
「な、なんと…!バーナードが混乱に乗じて書類を盗んだというのですか?もし身体検査をしてもその紙が見つからなかった場合…つまり、どこかに隠されたり、捨てられていたとしても、すでに白紙となり価値を失う仕組みになっていたのですね。情報漏洩を未然に防ぐために、そこまでの策を講じておられたとは…!ですが、なぜ他の二人から書類が見つかるのでしょうか?」
閣下に対しては変なキャラ崩壊するけど、この人、基本優秀だよね。
俺が何を行ったのか、即座に把握している。
久保田さんが書類を落としたあの時、彼女の持っていた書類は、いつの間にか、数が減っていたことに気が付いた。
正直、どこに行ったかわからなかった。ましてや、誰が持って行ったのかなんて最初は思うわけもない。
この時点では、バーナードとは結び付けることはできなかった。
ただ、バーナードついては、この部屋にいた時、周りに対して無関心さを装っていたが、人の話に耳を傾けていたことは見抜いていた。
部屋のどこにも書類がないことで、ふと誰かが持っているのでは?と、思った。
何の為に持ち去るのかは、わからない。
だが、俺は好奇心で誰が持ってるのか確かめようとした。
俺は、自分の持っている用紙だけに魔法を掛ける振りをした。
そう、自分の持っている用紙にだけ…。
佐藤調査官が、調査書などをコピーした魔道具を利用することにした。
その魔道具は久保田さんの手にある。
実際、どんなコピー方式の魔道具かは、わからない。
だから、俺は用紙とその魔道具に魔法を施し、すべての書類を白紙に変更させることに成功した。
すべては偶然に見えたはずだ。
その中で、バーナードの反応だけが違和感を示していた。
自分の持っている紙に、もう価値がないことに気づいたかもしれない。
だとすれば、隠すか捨てる。まぁ、身近な誰かの懐に、気づかぬうちに押し付けられてその人の持ち物とされているかもね。
そして、佐藤調査官から聞いたバーナードについての話。
アイテム販売所の手伝いも、情報集めだったかもしれない。小悪党で捕まったことですら、何か意図があったのかもしれない。これは、推測でしかない。
透壁スコープを買った店≪ポケット・パンドラ≫のミカちゃんとの世間話で、やたらと店を手伝いたがり、妙に細かい質問を繰り返す外国人の話を聞いている。普通の客なら気にしないはずの『商品の入荷タイミング』や『どんな客がよく買うか』といったことまで熱心に聞いていたらしい。ミカちゃんも最初は好奇心旺盛な客だと思っていたようだが、話しているうちにどこか違和感を覚えたらしい。
これをバーナードと結びつけるのは早計なのか?
しかし、しっくりくる話ではある。
◇◆◇◆◇◆
『猫巫女の祝福』で書類は元通りに直した。
すごい、この子の存在意義が初めて輝いた。
無駄に召喚したままだけのことはあったわ。
「やったにゃ。小町が初めて役立ったにゃ」
小町ちゃんは嬉しそうに尻尾を揺らしながら、華怜さんとあおいちゃんの手を取る。 「やったにゃ!」と弾む声が響き、それにつられるように二人も微笑みを深めた。
そこへ、あかねさんも軽く笑いながら加わる。「小町ちゃん、本当にすごいわね」と優しく言うと、小町ちゃんはさらに得意げな顔になる。
久保田さんも、少し照れながら「これで、さっきの書類のことも帳消し、ってことで……」と冗談めかして言うと、女性陣たちはみんなクスクスと笑った。
小町ちゃんを祝福する輪が広がり、明るく照らしているかのようだった。
なにこの素直可愛い子。こんな子だったの?
でも、祝福されてるのお前じゃん。
佐藤調査官は、小町ちゃんの祝福によって書類が元通りになったのを見届けると、感嘆の息を漏らした。
「閣下の御力、改めて見せていただきました。これはまさに神秘の業……!」
彼は興奮気味に言いながら、書類を丁寧に確認している。もはや、この魔法を目にしたことで完全に閣下への崇拝が深まってしまったようだ。
そして、ひとしきりその奇跡を称えた後、改めて真剣な眼差しで俺を見てきた。
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あとがき
何やら意味深な終わり方をしてますが、次の話は別シーンに移ります。
さて、この物語のタイトル 「あれ?もしかして優秀なの?」 に込められた意味、あなたは誰のことを思い浮かべましたか?
佐藤調査官の職務能力?閣下の策略?それとも、さりげなく場を救った小町ちゃんの奇跡?
ひとつの答えで終わらず、さらなる可能性に気づいたあなたは、物語の奥深さを感じ取れる人でしょう。
つまり―― 「あれ?もしかして優秀なの?」って、あなたのことかもしれませんね。
そんなあなたこそ、小説を楽しむ才能の持ち主です。
まさにこういった知的な駆け引きや伏線、言葉の妙を楽しめる人のために、この物語を書いています。
登場人物たちのやり取りの裏にある思考、戦略の機微、言葉遊びの面白さ……そのすべてを味わいながら読んでいただけたら嬉しいです。
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