第22話 あかね、おぼえた。
「目の前には、わたくしあかねが二度踏んだ同じ罠があります。あかね、おぼえた」
「わっ、こんなところにワナがあったんですね、ありがとうございます、あかねさん」
俺も棒読みで返事をする。
さすがに三度目の罠は踏まないらしい。しっかり指差し確認までしている。
俺の後ろでは、華怜さんとあおいちゃんの罠ヨシ!と、二人の掛け声も聞こえる。
振り返って見てみると、二人とも腰に手を当て、指差し呼称のポーズをしていた。
程なくして、視界が開けた場所へとたどり着いた。
「あおい?なんで、あおいがいるんだ!?」
―― 不意に声がかかった。
振り返ると、驚いた表情を隠せない20代前半の男がこちらを見つめていた。彼は黒の軽装鎧に身を包み、肩当てと胸甲を着用し、腕には神秘的な符文が刻まれたガントレットを装着していた。
その隣には同じく20代前半の女性が佇んでおり、冷たい鋼のように光る瞳でこちらを鋭く見定めている。彼女は漆黒のドレスに銀の刺繍が施され、紫の雷紋が揺れるマントをまとい、その存在感は際立っていた。
あおいちゃんに視線を向けると、瞳孔は開き、眉はぎゅっと寄せられ、口元は微かに震えていた。そして、震える唇がそっと動いた——
「山尾隆行…」
確かにそう聞こえた。
他の二人も似たような態度、仕草を見せ、まるで息を詰めるような緊張感がその場に満ちていた。
「もしかして…冥府の超克に成功したのか?」
男はなおも驚きを隠せずに呟き、女も続けて言った。
「ねぇ、隆行。あおいって、京極あおいのこと?このおっさんが?…死んだはずじゃなかったの?」
冥府の超克? 女は慎吾さんを見て「京極あおい」と言っている。しかし、隆行と呼ばれた男は、しっかりとあおいちゃんを認識しているようだ。それにしても…京極あおいが死んでいるとは、一体どういうことなんだ?
「ええ、こうして京極あおいは、確かにあなたの目の前に立っています。これは、あなたの言う“冥府の超克”が成功した証拠ではありませんか? それに、京極あおい様がここにいる理由…気になりませんか?」
あかねさんは、あおいちゃんを庇うように一歩前へ出て交渉を始めた。しかし、一体何の話なのか、俺にはさっぱりわからない。
くっそ、あの時3人に事情を聞いておけばよかった。
探索の時間が限られることを考えれば、事情を聞くよりも先に25階の探索を終えるべきと思った。しかし、余計な気を回した判断だった、結果として探索を優先することに決めたものの、事情を聞く機会を逃してしまったな。
しかし、あかねさんも冥府の超克の意味を分かっているのか?それよりも、なんだか手探りをしている感じだ。
女の言葉から察するに、京極あおいは亡くなっている。そして、あかねさんの言葉、「こうしてちゃんと目の前に、京極あおいは立ってます」なんて言い方は、生き残って帰ってきた、あるいは生き返ったとすれば合致する。
「ああ?理由?俺を止める以外に何かあるのか?それより、冥府の超克が成功したのか!なるほど。だったら、今度は生き返れねぇようにリセットせねばな」
隆行がそう口にした瞬間、今にも動き出すのではと身構えた。しかし、彼は微動だにせず、むしろ余裕の笑みさえ浮かべている。
どんどん訳が分からなくなってくる。リセットってなんだよ。
「生き返れねぇように」の後に続く言葉は「殺さねぇとな」が自然だろ?
隆行たちの反応からして、彼らは京極あおいが一度死んでいたと確信しているようだ。
京極あおいは、なんらかの方法で生き返っている?
今のところ、手掛かりは冥府の超克だ。
つまり、冥府の超克で生き返る可能性があり、それを抑制する(リセット)と捉えるべきなのか?
少なくとも、あおいちゃんたちにとっては、決して見過ごせない存在であることは確かなようだ。
「ボ……いや、俺はあの時の記憶が曖昧でな。お前と何があったんだ?」
あおいちゃん…ずいぶんと直接的な質問をぶつけたな。
「なるほど、それを確かめるために泉まで来たってわけか。しかし、お前バカじゃないのか?俺らから情報を引き出したいのに、お前らだけがこちらに情報を渡してるぜ?」
「本当にそうか?」慎吾さんは低く呟きながら、隆行をじっと見つめる。
そのままわずかに顔を傾け、視線を横へと滑らせる。
「ほら、そっちの女を見てみろ。お前を怪訝そうに見てるぞ」
「ねぇ、隆行…京極あおいって、このおじさんのことじゃないの?」
女が首を傾げながら言う。その視線は、慎吾さんの方をじっと捉えていた。
「はぁ?何言ってるんだ?」隆行は軽く眉をひそめ、「ユミエ、どう考えてもこっちの男だろ?そんなわけあるかよ」
「この男装しているお嬢ちゃんが京極あおい?あんたこそ何言ってるの?」
「男装してる?お嬢ちゃん?お前こそ何言ってるんだ?」
なんだこのやり取りは…。ユミエという女は慎吾さんのことを京極あおいだと思っている。
隆行は目の前のあおいちゃんを京極あおいだと認識している。しかし、不思議なことに、彼女が男装していることにも、女の子であることにもまったく気づいていない様子だ。まるで初めから、それが当たり前の姿であるかのように。
そうか、この男は、気がついてないのか。
隆行はなんらか影響を受けている。呪い?魔法?ダンジョンによる制限か?
あかねさんの相手に情報を与える言動、それにあおいちゃんたちの今までの奇妙な行動はこれらのことは繋がってそうだ。
隆行は突然大声をあげた。
「エンチャントワールド…。そうか、この世界はゲームの世界だったんだ!」
「はぁ?隆行あんた頭おかしくなったの?」
ユミエは、目を丸くしながら隆行を見つめた。眉をひそめ、まるで隆行が突如別の言語を話し始めたかのような表情を浮かべている。
しかし隆行は動じる様子もなく、むしろ興奮したように腕を広げた。
「いや、違う!全部つじつまが合うんだよ、ユミエ!この不可解な現象も、奇妙なルールも…そう、この世界は俺がプレイしていたあのゲームの世界なんだ!」
「…もう、どこから突っ込めばいいのよ」
ユミエは深いため息をつき、腕を組んだ。
なんだコイツ?本当にどこから突っ込めばいいんだ?これがあかねさんたちの作戦か?行動の結果なのか?
そう思い、あかねさんたちを見ると、その瞳は大きく見開かれ、言葉を失っているようだった。
これはあかねさんたちにとっても、想定外だったらしいな。
「あんた、これがゲームの世界だっていう証拠でもあるの?」
ユミエは、呆れたようにため息をつきつつ、現実を突きつけるように意地悪く問いかけた。
「おい、見ろよ!そこに、悪名高き貴族――カナタ公爵がいるじゃねぇか!」
ゲームの世界の根拠は俺かよっ!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
後書き
皆さん!
そこにブックマークをする罠があります。
二度踏んでください。
何?ブックマークが解除……されただと……!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます