第23話 なに?なに?またしても、俺様の出番か?

 はぁ?突然ゲームの世界だって言い出して、どうなってるんだコイツ?だから“リセット”なんて言ってたのか?

 いいや、この世界はゲームの世界なんかじゃない。隆行の頭がバグってるだけだ。


「ゲーム内では、あいつは悪役貴族として鮮烈な存在感を放っていたんだ。物語の都合上、序盤にあっさりと命を落としてしまうものの、その実力は決して侮れるものではなかった。実際にラスボスをも凌駕する実力が宿っていたことは疑いようがない。本来ならば裏ボスとして君臨するにふさわしい威厳と強さを誇っていた」


 えっ?俺、序盤で死ぬの?今まだ、死んでないってことはまだ序盤ですらないのか?

 どんな死に方するか、非常に気になる。

 まぁ、序盤にあっさり死ぬし、ラスボスをも凌駕する実力があるなんて、考えなしの適当な設定だろう。序盤の盛り上げ役としてありがちなモブに近い存在として、いい加減な背景を与えられたんだろう。

 …って、隆行のあほ話に釣られて、気がつけば深く考え込んでしまっていた。


「無理だ…あいつには勝てない…。俺たちとは次元が違うんだ…。まるで別世界の存在…化け物なんだよ!」


 隆行の息が荒くなり、拳を握りしめながら叫ぶように言った。


 急にどうした?

 なんだ?この流れは…。

 こいつ勝手に追い込まれていってないか?

 その様子を静かに観察しながら、俺はふと確信した。今のこの状況を利用すれば、話を引き出せるかもしれない。


「えっ、あれがカナタ公爵? カナタ公爵の前では、庶民が転んだら『笑わせてくれて礼を言う』って金貨を放り投げ、 貴族の舞踏会で転んだら『愉快な見世物だった。特別観覧席で見るべきであった』って褒美をくれる奴でしょ?」


 ユミエは、ふと興味を引かれたように俺をちらりと見た。その視線には、驚きというよりも確認の色が濃い。「なるほど、あれが噂のカナタ公爵ね」とでも言いたげな目つきで、冷ややかに瞳を細める。


 お前の言ってるカナタはどこの誰だよ。

 どんだけ嫌な奴なんだよそいつは――


「そうだ。俺たちも、既にカナタ公爵に踊らされていると思った方がいい」


 そうだじゃねぇよ。

 こんな茶番にもう付き合ってられるか。

 踊るあほうに見るあほうだ。

 ん?そうか。見る方も、もう、あほうなのか……。


 俺はゆっくりと手を持ち上げた。

 目の前の連中は、息を詰めて俺を見ている。まるで糸で繋がれた人形だ。ほんの少し動くだけで、その関係がより露わになる。

 指先が軽く動く。わずかに空気が震えた。誰かが喉を鳴らす音が、やけに大きく響く。


 ――いい反応だ。


「それなら、お前たちは存分に踊るがいい」


 一歩踏み出した。わずかに響く俺の足音だけが、重く張り詰めた空気の中で生きている。


「俺が手を叩けば、お前たちの足も自然と動き出すのだろう?」


 俺はゆったりと肩を傾け、冷ややかな視線を落とす。


「それとも――金貨が必要か?」


 静寂が落ちる。誰もが理解したはずだ。この場を支配するのは俺だと。


 …しまった!思わず、ノリボケをしてしまった…。

 隆行が、ユミエに対し、うまい返しをしたせいだ。俺は悪くない…よね?


「すべてはお前の計画通りだった、ということか……」


 いや、違うけど……?


 隆行の声には、かすかな陰りが漂っていた。

 彼の膝は力なく崩れ落ち、地面に手をつき、震える指先が冷たい感触を確かめているかのようだった。


「お前の踊りとは、床を掃除することなのか?それとも落ちた金貨でも探しているのか?」


 正直、隆行がさっぱり何を言ってるかわからないが、またも、興に乗ってしまった。

 う~ん。俺のセリフがこの場の雰囲気に合っていてそれっぽいよな。

 俺の言ってることもさっぱり意味がわからないが…。


「み、見逃してくれ……」


 隆行の声はかすれ、震えていた。しかし、その言葉はまるで誰に向けたものでもなく、ただ空虚に落ちるだけだった。

 彼は俺を見ない。いや、見られないのだ。視線を合わせることすら許されぬ者のように、ただうつむき、肩を縮め、己を小さくしている。


 あれ?見逃がしていいのかな?

 聞きたいことがあるんだよね?どうしようかな?

 俺は、あかねさんたちに目線を送った。すると、彼女たちもこちらを見返し、静かに頷いた。


 そうか、見逃していいのか…。

 でも、この状態で逃がすってどうなんだろ?

 隆行を見ると、もう抵抗する気力もなさそうだけど。

 しかし、あかねさんたちは、隆行が反抗できるだけの実力を持っていると思っているから、あえて逃がそうとしているのかな?

 まぁ、何故抵抗する気力もなくなったのか、この状況だと訳がわからないし、あえて逃がすのも正解な気がしてきた。


 初めは部外者だったけど、気づけばこの奇妙な状況の当事者になってるよな。

 だって、俺を見て『エンチャントワールドとか』、『ゲーム世界だ』、『悪役貴族だ』とか…。

 …ふむ。

 ……俺ってあかねさんたちにとっても悪役貴族だからね。


 俺はわずかに顎を引き、目の前の男を見下ろす。吐息のように短く息を漏らしながら、まるで価値のない駒を見るような瞳を向けた。

 そして、低く響く声が落ちる。


「……踊らないのか?」

 隆行の肩が震える。だが、言葉は出ない。

 俺は一歩踏み出した。

「舞台から降りたなら、もはや演じる必要もあるまい。」

 この場を支配し、主役へと躍り出たのは俺だ。

 他の者たちには、沈黙という幕が落ちる。

 隆行は視線を合わせられない。俺は、ただ静かに待った。

「さぁ、喝采が欲しいなら――」

 低く、冷たく、問いかける。

「真実をその口で語るがいい」

(お前が企てていたことをすべて話すつもりはないか?)


 隆行の荒い息遣いが、静寂の中にかすかに響く。

 膝を折り、視線はただ下へと落ちる。そこに何かを見ているわけではない。

 地面に手をつき、肩を落としていた。それは倒れ込むようにではなく、ただ支えを求めるような仕草だった。

 隆行の唇がかすかに動く。

「……終わった……」

 その言葉は誰に向けられるでもなく、ただ空気に溶けるように落ちていく。

 指先が、ごくわずかに動いた。それは疲れ切った体が震えるような、無意識の反応に過ぎない。まるで、何かを掴む気力すらなく、ただ空を切ったように見える。

 傍から見れば、戦いを完全に諦めた男の末路にしか見えなかった。


 ふっ俺もうまく繋げたな。やるじゃん。

 自分に拍手喝采を浴びせたいね。


「ふっふざけないで!」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 後書き

 皆さんに拍手喝采したいただく時間です。

 私の真実を語ります。

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