第17話 もちろんユーの正体もわかってるさ。……えっ?

「カナタのおかげで、順調に経験値も素材も稼げた。それにあいつの対処もありがたかったぜ。お礼はたっぷりとは言えないが、飯ぐらいおごらせてくれ」


 マサシは「あいつ」と呟くと、一瞬川村を見た。

 しかし、すぐに表情を変え、俺に笑顔を返した。


「カナタ様、お疲れ様でした。我々も引き上げることにいたします。」


 地図の男改め、宝田さんが声を掛けて来た。

 俺は、「どうも」と軽い返事をした。

 彼は相変わらず、俺に対してお堅い態度を崩さなかった。


「モンスターの間引きにリンク処理まで、完璧にこなすカナタ様は、本当にお強いですね。おかげさまで、狩りも順調に進みました。」


 川村は、モンスターハウス内の敵を混乱状態に陥らせ、1匹ずつ釣り上げるのを一時的に困難にしていた。

 俺はその混沌を制すため、一人でモンスターハウスに突入し、余計な敵を間引く処理を行った。

 さらに、川村が複数のモンスターをリンクさせて連れて来たため、その対処も俺が担うことになったのだ。


 だが、その川村は、他のメンバーに対し、恩着せがましい態度を最後まで崩さず……。


「俺がお前たちを効率良く稼がせたのは確かだからな。こいつらみたいにルールを守らずに和を乱すことがなければ、またいくらでも稼がせてやる」


 川村は不敵な笑みを浮かべながら、胸を張って言い放ち、自らの手腕をひけらかすかのように接する。

 一方、「ルールを守らないやつら」と口にした瞬間、彼はこちらに向けて容赦なく鋭い視線を投げつけた。


「川村さん、ありがとうございます。こちら、礼金です」


 宝田さんたちは笑顔を交えながら、用意していた謝礼金を川村に差し出した。


「人の狩りを邪魔するような連中とは違って、あんたらは礼儀をわきまえてるな」


 そう口にすると同時に、川村はなおもこちらを鋭く見据えた。


 こいつ…どこまで人を馬鹿する気だ……。


「川村…、お前、謝礼金受け取るのか ?」


「お礼を受け取るのは当たり前だろう。坊ちゃん。拒絶するのが礼儀に反すると、ご承知でなかったのか?」


 川村は、皮肉をたっぷりと滲ませた眼差しで俺を見た。


 川村の目に余る行動に誰も気づいていない……。

 こいつがモンスター釣りを自ら勝手出た理由に思いを巡らせる者はいない。

 彼らは自分たちが利用され搾取されているにもかかわらず、疑問を抱くことすらない。

 搾取?礼金のことではない。あまつさえ、礼金まで差し出している……。

 川村って奴は本当胸糞悪い野郎だ。


 ふぅ、と静かに息を吐く。右手を軽く握り、一度開くと、指の関節がかすかに鳴った。それだけで、場の空気が変わる。

 わずかに顎を引き、鋭い視線を突き刺すかのように川村へと向ける。

 川村はびくりとし、姿勢を正す。

 肩の力を抜き、片足に重心を傾けゆっくりと踏み出す。

 地面が鳴る音だけが響き渡る。


「だったら、俺の厚意も受け取って欲しいもんだ。俺を坊ちゃん呼ばわりするお前は、よっぽど人生経験が豊富と見える。だが、その経験もまだ足りなかったか?」


「ああん。なに言ってやがる?」


 川村は俺の言葉に激昂したのか、声を荒げた。

 川村、お前は、まだわからないのか?

 小物のお前は察しが悪いな。

 時代劇の勧善懲悪ってやつは、いつも大物によって、最後裁かれる。

 成りきるか…。


「お前の振る舞い。貴族である俺様に対し、お前の立場、ステータスがまだ足りてないんじゃないか?」


 その言葉と同時に、川村の余裕の表情は崩れ、顔は血の気が引き次第に青くなっていくのが見て取れた。

 額に滲んだ汗は、すぐに頬を伝って流れ落ちる。

 呼吸が次第に荒くなり、まるで逃げ場を失った獲物のように、川村は一歩、また一歩と後ずさった。


 俺は他パーティーを見ていて気が付いた。

 川村は、釣りを手伝ったパーティーから、討伐経験値を搾取していた。

 だから、経験値が足りないことを指摘した。

 それだけに留まらない。

 レベルの上がった者からステータスさえ搾取していた。

 だから、ステータスが足りないことを指摘した。

 本来、パーティーメンバー以外で、経験値の分配はできない。

 ステータスの献上なんてシステムには存在しない。

 誰にも知られたくない川村の秘密。

 誰にも知られることのない川村の秘密。

 俺だから気が付いた川村の秘密。

 それを俺は、川村だけにわかるように指摘をした。


「小者の些細な悪は、風のごとく許され、

 大者の大罪は、権勢の闇に隠され、

 されど、小者が大悪に及べば、咎は容赦なく響く……。

 川村、貴様は俺様に何を望む」


 俺はゆっくりと顎を引き、目の奥から鋭く突き刺すような視線を送った。

 まるで氷の刃が闇を裂くように、冷たく、静かに、だが確実に相手の心臓を抉るような眼差し。


 川村は微かに身じろぎしたが、俺の目から逃れることはできない。

 その体は沈み、立ち上がる気力さえ失ったように見えた。


 俺は深く息を吐き、静かに腕を組む。


「闇に沈めたはずの秘密が、誰かの手で紐解かれること

 闇にすら生じない秘密が、誰かの目に映ること

 貴様にはどちらが恐ろしい?

 ……黙るか?それとも、まだ俺様を楽しませるつもりか?」


 声は低く、冷徹に響かせ、片足で地面に落とし、トンと乾いた音を響かせた。


 秘密が俺の手によって誰かに知らせされること。それとも、誰も知ることができない秘密が俺に知られている。どちらが恐ろしい?

 そう問いかけた。


 秘密は闇に沈むことで安心を生む。

 誰も知らないはずだからこそ、何の疑念もなく、それは安全なものとして存在する。

 しかし、もしそれを知る者がいるとしたら?

 知られるはずのない秘密が、知られている。

 誰も気づくはずがないはずの事実を、今、目の前の男が知っている。

 それはまるで、自分の存在そのものが見透かされているような感覚。

 恐怖は、単に秘密を知られることにあるのではない。

 それは「知られるはずがないものを、知られてしまった」という認識にある。

 どこで見られていた? どこで気づかれた? どれほど深く、どれほど正確に、何を知っているのか?


 川村の足がもつれ、バランスを崩した。

「ひっ…!」 次の瞬間、哀れにも地面に尻もちをつき、鈍い音が響く。

 背筋を伸ばそうとしたのか、しかし力が入らない。もがくように手をついて支えようとするが、指先は震えていた。

 まるで逃げ場をなくした獣のように、目を泳がせ、息を荒くしながら、口元を震わせる。


 そんな川村の耳元へ、静かに歩み寄る。不意に影が落ちたことに気付いたのか、川村の肩が小さく跳ねる。 俺は、彼にだけ聞こえるように、低く囁いた。

「……察しが悪いな」 「いいだろう、分かりやすく言ってやる」 「お前が利用したそんなシステムは、このダンジョンには存在しない」 「……何故俺だけが知っていると思う?」


 川村は、一瞬の沈黙の中で息を飲んだ。


「うあわぁぁぁぁあ!!!」

 川村は、内に秘めていた恐怖を解き放ったかのような声をあげた。

 そして、全てを振り切るかのように、一目散にこの場所から逃げ出していった。


 周囲は沈黙に包まれた。

 まるで嵐が過ぎ去った後の荒野のように、誰もが言葉を失い、ただその場に立ち尽くしている。

 風すら止まったかのような静けさが支配し、誰かが息をする音さえ響くほどだった。

 一人が唾を飲み込むと、それがきっかけのように、皆がゆっくりと視線を交わした。 しかし、誰も口を開こうとはしない。

 ──その場に漂うのは、圧倒的な支配力の余韻。

 この場を支配していたのは、俺だった


「かっ、恰好いい。こっ、これが代々の威光と悪徳を背負い、真の超大物古豪貴族として闇に君臨しているカナタ殿……。私など、あなた様の足元にすら届かぬ存在…」


 オフラン・ドゥ・シャンパイン・ル・クラクルージュ十三世の隣近所さん…。

 めっちゃ素でしゃべってるけど大丈夫?

 てか、お前、素の状態なんだよね?俺の評し方がおかしくないか?

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