第16話 そんなセリフ言ってませんけど……。
その後、それぞれのパーティーが狩りの持ち場へと戻っていった。
川村も俺たちには干渉せずに、他のパーティーの釣り役を継続することになったらしい。
「さすがだぜ。さっきの対応、見事だった。大物貴族はやはり違うな」
マサシは俺を見ながら、にやりと笑って言った。
その眼差しには、まるで俺が生まれながらの大物貴族だという確信が宿っているかのようだ。
「カナタは貴族だったのか?」
槇原は信じがたいといった表情で、じっと俺を見つめ返した。
タケシは槇原に説明を始めた。
「そうだよ。知らなかったのか?さっきの連中も『古豪の超大物貴族の対応には迫力があるな』って言っていたんだぜ」
去り際に、タケシと宝田さんは話をしていたな。
二人は面識でもあるのだろうか?
「いやはや、ミーほどの者が動けば、すべてが完璧に収まるものだな!この華麗なる采配、圧倒的な知りゃ~く……まさしくミー、オフラン・ドゥ・シャンパイン・ル・クラクルージュ十三世何某がもたらした勝利に他なら~ない!」
こいつ、貴族って言葉だけに反応してるな。
貴族と言われて、都合よく自分に置き換えやがった。
『ぱちぱちぱち』と拍手の音が鳴り響く。
華怜さんが、何某かに向かって微笑みながら拍手をしている。
わかってて拍手してるでしょ…この人。
「しっかし、川村に対して、カナタの啖呵の切り方迫力があったな。わざわざ冒険者を演じた口調で、有無を言わせねぇもんがあった。あんな言い方されたら、さすがの俺もどう返したらいいかわからねぇ」
がははっと笑うようにタケシは言った。
『あんたのルールは知らねえが、こっちはいつもの通り狩りをさせてもらう。その枠内であんたのルールに触れるとすれば、それはあんたが勝手に定めたものに過ぎねえ。皆からの意見は受け止める。だがお前の文句は、認めねえ』
突然、俺の口調で物まねを始めた華怜さん。
「『お前は、俺の専属受付嬢になれ。お前の文句は、認めねぇ』と言われた時以来の口調ですね。恰好よかったです」
そして、勝手に謎の過去設定を作り上げた。
すっすっげーと4人が口を揃えてこちらを見据えてきた。
オフランまでもが、その輪に混じっている。
華怜さんの言葉を本気で受け止めてしまったようだ。
後で、誤解を解かないと…その時は専属受付嬢として、一緒にお願いしますね。
「ミーも貴族として、カナタに弟子入りしなければなりませんね」
と、ぼそっと言った声が聞こえた。
いや…貴族の弟子って何?
それで貴族になれるなら、俺だって王様に弟子入りしてるわ。
◇◆◇◆◇◆
4人は狩りの準備を整え、槇原は、蒼煙の翼に魔力を込めていた。
槇原と川村との関係については聞いてみたかったが、彼らの狩りを邪魔するわけにもいかない。
後で、時間ができたら改めて聞いてみよう。
「エネルギー補給が必要なのか?」
タケシが、独り言のようにつぶやいた。
「いや、地形とか、どのモンスターを釣るかの調整だろう」
俺が返すと、槇原はにっこりと笑いながら、
「その通りだ。この機の解説は、カナタに任せても大丈夫そうだな」
と続いた。
いや、俺は何も説明受けてませんよ?
だから、こうして蒼煙の翼の狩りを見学しに来たのに…。
川村の釣りをを見てみると、やつも飛行機を使用していた。
蒼煙の翼と違って、飛行機本体をモンスターに追いかけさせている。
モンスターとの距離が開きすぎると、戻って再度釣り出すことを繰り返してはいるが、きちんと一匹ずつ釣りだしていた。
1つのパーティーが釣り出したモンスターとの戦闘に突入すると、即座に別のパーティーの次の獲物を狙い、動き出していた。
なるほど、川村もきちんと仕事をこなしているな。
他のパーティーの釣り役の時を買って出る時も態度は普通だったらしいし、何故、槇原の時にだけ態度がおかしくなったのだろうか?
しばらくして、槇原たちも、蒼煙の翼で順調で釣りを成功させ狩りを行っていた。
川村は、飛行機本体でモンスター惹きつけ誘導する。
一方、槇原の蒼煙の翼は、飛行機の描いた軌跡の中の魔力でモンスターを惹きつける。
つまり、煙が途切れなければ、速度も移動範囲もある程度の幅が効く。
槇原の飛行機の方が優秀だな。
川村は、肩に怒りを込めたように硬くすぼめ、急ぎ足で歩み寄ってきた。
表情には、誰にも隠せない不満がはっきりと滲み出ていた。
「ほら、見ろよ!煙が邪魔で、俺たちの効率が落ちるんだ。槇原、お前たちはさっさと出ていけ!」
確かに煙のせいで、釣りルートが競合していれば、邪魔にはなっただろう。
「だから、別ルートで釣ってるだろうが!むしろお前が、俺たちのルートに乱入して邪魔してるんだろうが!」
と、マサシも相手にしながら、激しい口調で反論した。
その後も、川村からの多少のいやがらせはあったが、大きな騒動には発展せず、狩りは順調に継続された。
こちらにちょっかいを出すたびに、相手パーティーも効率が落ちることを懸念し、自重したようだ。
パーティーメンバーの顔や足取りに、明らかに疲れの色が浮かび始めた。
今日の稼ぎもそろそろ区切りを迎える頃合いなのかもしれない。
俺は、他のパーティーを見て、彼らの動きもまた鈍くなっていることを感じた。
そんな中、あるパーティーの戦闘が終わると、彼らは勝利の余韻に浸りながら、互いに顔を見合わせて喜んでいた。
何やら、新たなスキルを習得したらしく、その成果を実感しているようで、笑顔が絶えなかった。
「なるほど。こいつはひどいね」
俺は声に出した目の前では、川村がモンスターを2匹同時に連れ出していた。
2つのパーティーがすぐに対応し始め、それぞれが、的確な対処に取り組み、事態は思いのほか速やかに収拾されていった。
「俺もあんなミスを犯さないように気を付けるさ」
「槇原がミスしても俺たちがカバーするから大丈夫だ」
「がはは。俺一人で2匹お相手にしてやってもいい」
「ほほう、2匹だと?何を怯える必要があ~る?ミーが一匹を請け負い討伐。ミーの才覚のせいで経験値が集中して偏ってしまうな。申し訳ない!いや、本当に申し訳な~い!」
こいつら割と息の合った、良パーティーメンバーなんじゃないかな?
あちらのパーティーとは、だいぶ差が付きそうだな。
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