第7話 いや、違うから…

 25階層で何が起こったのか?依然として謎のままだ。

 どうしてあおいちゃんたちは、ゴロツキどもと行動を共にしてたのだろう?

 そういえば、ゴロツキどもおとしなくなりましたねぇ。

 あおいちゃんは、何故男装してるのだろう?触れちゃいけないのかな?

 気になることだらけだよね?


「カナタさんは、貴族様だったのですか?」


 あっ華怜さんそこ触れてくる?

 今、一番現実逃避したかったことなのに……。


「華怜さん。俺は、決して悪役(あくやく)貴族 なんてものではありませんよ」


「はぁ?こいつが悪役貴族だって?だからって俺らを見切れ役に扱うんじゃねぇ」


 ゴロツキどもが急に知能が回ってるかのような言い回ししたぞ。

 

「では、ゴロツキさん。25階層では何が起きたんですか?」


 あえて、ゴロツキどもに質問を投げかけた。


「へい。イレギュラーとの遭遇に気がついた俺たちは、すぐに別階層に移動する結晶を使ったんだ。だが、結局は光っただけで発動しなかった」


「ああ、ただ目が眩んだだけだった。ホント、その時は死を覚悟したぜ」


 別のゴロツキの口から漏れたその言葉には、恐怖と、助かったという安堵が同時に滲み出ていた。


 あれ?なんだかトゲは残っているが素直に応じているな。


「発動しないなんてことはあるんですか?」


 今度は、慎吾さんに向けて質問をした。

 ゴロツキどもを信用してるわけではないからね。


「ボス戦においては、発動しないことがある」


 ん?それだと、今度はイレギュラーとは断定できない材料になったな。

 ボスだと仮定できてもイレギュラーとは言えない。

 しかも、条件次第では発動するってことだよね。


「もしかして、ボスがイレギュラー化した?」


「なるほど!さすが、悪役貴族の坊ちゃん。頭が回るな」


 こいつらの下っ端感が半端ないな。

 明らかに俺に迎合しているな。

 もしかして、慎吾さんの説得には既に応じていて、なお貴族である俺に気を遣ってないか?


「いや、俺、悪役貴族じゃないけどな」


「そのセリフ、逆にそれっぽい!」


「俺が悪役貴族なら、お前ら完全に小物のセリフだろ!?」


「坊ちゃんに実力差は見せつけられたし、5階層なのに死ぬなんて騒いでいた俺らですよ。そりゃ小物界の大物としては頭を下げます」

「坊ちゃんこそ、何故その実力で5階層なんかにいらっしゃんたですか?」


「カナタさんは、本日、冒険者として正式に認定されたばかりなんですよ!」


 華怜さんはにっこりと微笑みながら、輝く眼差しで俺を自慢げに紹介した。


「「「はっ?」」」 「「「えっ?」」」


 また全員が重なって驚いている。


「初日に5階層のボス討伐でも快挙なのに、攻略されてない25階層のボス。それもイレギュラーボスを?」

 

 あかねさんが信じられないといった表情で俺を見つめてきた。


 改めて言われると凄いことをしたよね。

 モンスターと初めて対峙した時、果たして冷静な判断ができるだろうか。

 このダンジョンを選んだ理由は、危険を冒さずに戦闘経験を積むためだった。

 モンスターとの初戦で冷静に対処できる自分を確認できたのは、大きな収穫だ。

 しかし、イレギュラーモンスターを倒した結果は、自分の強さを裏付ける一例に過ぎず、それだけで十分な戦闘経験を得られたとは言えない。

 いわば、戦闘経験の一つに過ぎず、多様な敵や環境に対応できる実戦的な経験を積むことこそ、俺の目的だ。

 

「もしかして、悪役貴族に転生する前の記憶もお持ちですか?」


 あかねさん冗談も言える人なのか。

 チート級の強さだからと、そんな冗談も出たのかな?


「俺への設定を盛らないでください。転生もしてませんし、悪役貴族でもありません。しかもよりにもよって悪役貴族とは…」


「そうです。カナタさんは、悪役貴族よりも正義のヒーローの方がよく似合っています。さきほどのカナタさんの活躍は、まさに正義の味方であり、勧善懲悪のヒーローそのものでした。」


 さすが、華怜さんは本当によくわかっていらっしゃる。

 勧善懲悪ものといえば、やはり…。


「やはり水戸黄門でしょう」


 俺は、華怜さんの言葉に思わず前のめりになった。

 その時、いくつかのアイテムが宙を舞い、カランコロンと音を響かせながら地面に転がった。

 一つはゴロツキどもの足元に転がって、それをゴロツキの一人が拾い上げる。


「ん?これは……」


「あっそれは……あっあかね」

「はい」


 あおいちゃんの言葉にあかねさんがすぐに反応し、ゴロツキに駆け寄り、失礼しますと声を掛けアイテムを受け取った。


「やはり、そうです」

 とアイテムを確認したあかねさんは、あおいちゃん見て頷き、納得顔を見せた。

「カナタ様(さま)。これを――」

 そう言って、俺にアイテムを渡してきた。


「ありがとう」

 ありがとうあかねさんと、返事をしようとしたが、拾って手渡しリレーをしたすべての人たちへの感謝を込めて、主語を曖昧にした。

 うーん。俺って、変なところに気が回るな。


「あれ?これは……爺さんが持ってたやつだ……」

 懐かしい、思わず声が出た。

 懐中時計だ。

 昔、爺さんが持っていて、欲しいと言ったらお前にはまだ早い。大きくなったらくれてやると言われたもんだ。

 受け取ったアイテムを、俺が手にすると淡い光を放った。


「ああん。そのアイテムは、確か、あの貴族様の懐中時計じゃねぇか?」

「あのってどの貴族様だよ?」

「俺が、知るかよ。この流れだと悪役貴族様だろ?」


 アイテムを拾ったゴロツキが 、訳わかんこと口にしている。

 こいつら何言ってるの?

 お嬢様三人組も、それぞれ違う表情で深く頷いているのを見て、確信の強さが伝わってきた。


「これ、モンスターのドロップ品だぞ」


「ああ、お貴族様となれば、個人所有のものまでアーティファクトとしてドロップ品になるのか。さすが坊ちゃんの家系だ」


「私共ゆかりの品もアイテム品としてドロップしたことがございます」


「えっ?そうなの?」


「あおい様の身に付けているブローチですよ」


 慎吾さんの言葉に、あおいちゃんは驚いた様子で応え、えっ?これのことと言った様子で、あかねさんが示す自分のブローチをじっと見つめた。

 すると、ブローチが淡い光りを放ちだした。


「ボクのブローチも、カナタさんと同じように光りました」


「ゆかりの品は、願いや祈りを込めると血筋に反応して光るのですよ」


 あかねさんが俺に顔を向け、説明してくれた。


「カナタさん。懐中時計を貸してください」


 そう言われて、華怜さんに懐中時計を渡すと、淡い光を放ちだした。


「カナタさんの妹であることが証明されました!」


 いや違うから、これ以上ややこしくしないでください。


 ちなみに、この後、懐中時計を皆に回したが、誰の手に渡しても光らなかった。

 あおいちゃんのブローチも同じように渡したが、光らなかった。

 華怜さんって本当何者なの?

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