第8話 セリフがやたら長い女 久遠華怜

「坊ちゃん。絡んですみませんでした。ご令嬢方々も迷惑をお掛けしました。お礼は最初の取り決めの報酬分で十分です」


 きちんとした挨拶して、ゴロツキどもは去っていった。

 ゴロツキどもの改心が半端ないな。

 てか、あおいちゃんのこと、普通にご令嬢呼ばわりしてたけど、いいのかな?


「カナタ様(さま)、ご相談があります。お時間をいただけませんか?」


 今は、ダンジョンのエントランスまで戻ってきた。ゴロツキどもとは別れ、お嬢様3人組ともお別れの挨拶でもしようかと思ったが、あかねさんから話があるとのことだった。

 実は、こちらも聞きたいことがたくさんあったので、ぜひお願いしたい。

 後日、改めて話をすることになり、軽い挨拶を交わして別れた。

 あおいちゃんは、華怜さんに、「あの泉に包まれたときの心地よさ…また感じてみたいです」と挨拶をしていた。

 あの回復魔法、よっぽど心地良かったんだね。


「カナタさんにも回復魔法を掛けるため、私も話し合いに参加させてください」


 華怜さんの依頼がおかしい。『殺し合い』と書いて『話し合い』と読ませるのだろうか?

 あおいちゃんたちとの話し合いが、そんな殺伐した場にならないことを願おう。

 とりあえず、俺の猫巫女の祝福なら、殺し合いにならずに済みそうだ。


「日時はこちらで決めてしまいましたが、予定は合うのですか?」


「はい、カナタさん専属受付嬢なので、問題はありません」


 正直、あの3人組より、華怜さんの方が気になることが多い。


「その、専属受付嬢とはなんですか?」


「はい、他の冒険者たちの担当から外してもらえる手段です」


「なるほど。その制度を利用したってことですか」


 華怜さんは、首を傾げて考え込んだ表情をしている。


「あっはい、進言しておきます」


「ん?申請ではなく進言ですか?」


「そんな制度ありませんので、まずは進言して制度を作ってもらいましょう」


「えっ?では、今は勝手な行動をしているってことでは?」


「咎める人はいません」


 物は言いようだよね。

 これきっと、ばれなければ咎められようがないって意味で言ってるよね。

 今って職務放棄していることに他ならなくないか?


「職場の立場が危うくなりませんか?」


「はい、大丈夫です。久遠華怜という受付嬢は、このダンジョンには存在しておりませんので」


 えっ?ぶっちゃけるの早くない?もっと遠回しにごまかされたり、もったいぶったりして振り回されると思っていたよ。


「ネタバレ早くないですか、他の職員から、そんな職員居たのかしらみたいな情報入ってから、それから華怜さんの正体とは!?と、なって迫るところでしょ?」


「なるほど。では、あちらの職員に聞いてみましょう」


 そして、華怜さんは近くの職員に声を掛けるために歩き出し、俺はその背中を追いかけた。


「華怜さん、お疲れ様です。専属冒険者を決めたそうですね」

 男の職員は、華怜さんの言葉を受け、穏やかに口を開いた。

「そちらの方なんですか?」

 そう言いながら、落ち着いた動作で視線をこちらへ移した。


「はい、こちらがカナタさんです。新人ながら、幼少期から数々の逆境を乗り越え、その中で磨かれた鋭い洞察力、冷静沈着な判断力、そして揺るがぬ信念で、仲間たちの信頼の的となるでしょう。どんな瞬間にも余裕を失わず、刻一刻と変わる戦局の中で瞬時に情勢を見極め、果敢な行動を起こすその姿は、まるで暗闇を切り裂く一道の光のように、希望を灯します。さらに、彼の内に宿る静かな情熱と豊かな人間性は、試練の先にある未来への可能性を感じさせ、どんな困難にも屈しない強さを物語っています。カナタさんがこのダンジョンで刻む足跡は、単なる冒険者としてだけでなく、輝かしい伝説の始まりとして確実に語り継がれることでしょう」


 長い長い長い。ものすご~く褒めてる。

 傍観者であろうとして、下手に華怜さんの後ろに付いたのが、裏目に出てしまった。

 彼女を制止することができず、ただ見守るしかなかった。

 褒められるたびに、心が恥ずかしさと照れに染まり、どこか気まずい自分をさらけ出される感覚に襲われる。

 話を聞いている職員さんも、そんな俺に対して同情の眼差しを向けているように感じられた。


 居たたまれない気持ちを抑えつつも職員さんを見ると、その瞳は、希望と羨望が織り交ぜられたかのように輝いて見えた。

『カナタさんって、すごい方なんですね。彼の専属の座を射止めるなんてうらやましいです』――と、華怜さんと話している職員さんの間でそうした会話が交わされていた。


 職員さんとの会話を終えた華怜さんは、しばらく少し距離をとって佇んでいた俺の方へ、そっと歩み寄ってきた。


「どうですか、カナタさん。やはり他の職員の人たちもカナタさんのすばらしさを認めてくれたようですね」


 華怜さんは自信に満ち、胸を張ったその姿から、やり遂げた達成感がにじみ出ていた。


「いやいやいや、違います。元々そんな話ではないです。華怜さんついて、他の職員たちに質問し、ダンジョン職員として存在してないことを確認するはずでは?」


「そうですね。でも、確認は取れましたよね。存在していないはずの久遠華怜が、職員に話しかけたようとした瞬間、存在している状況へと変わりましたよ」


 そうなんだよね。確かにその異変に、俺もすぐに気が付いた。

 話しかけた途端どころか、実際、話しかけようとした瞬間、職員の方は華怜さんを既に認識し、あちらから話しかけてきた。

 でも、これは別の謎として区別すべきだ。


 華怜さんは、ダンジョン職員に認識されてない存在であると明かした。

 そもそも、華怜さんがダンジョン職員であれば、あちらから話かけてきてもおかしなことではない。

 ただの冗談で済ませることはできる。

 でも、何故こんな冗談や嘘を吐くのだろうか?


 華怜さんが、ダンジョン職員に認識されてなかったのは本当のことなのだろう。

 これは俺の勘だ。

 だが、先ほどの方法では、華怜さんがダンジョン職員として認識されてないことを確認できないことがわかった。

 どの段階で彼女は、ここの職員として認識されるのだろうか?

 俺が、他の職員に華怜さんのことを尋ねた段階では、誰もが華怜さんの存在を知らないと否定するのだろうか?

 多分そうだ。

 それでは、彼女のがないのだろう。

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