第6話 そんなことより、俺の方が重傷ですよ。華怜さん!

「そんなことより、まず怪我を治しましょう」


 華怜さんは、ゴロツキどもに一瞥もくれることもなく、あおいちゃんの手を取って回復を始めた。


「大地より湧き出る清き雫よ、生命の源となりて癒しを与えよ――この装備凄いですね。回復魔法に反応して、修復されていきます」


 あおいちゃんの身体を澄んだ水が優しく包み込む。湧き出る雫が傷を洗い流し、装備のひび割れさえも静かに癒されていく。まるで大地が命の源を授けるかのように、透き通った水は彼女を満たしていった。


「すごい……まるで癒しの泉に包まれているみたい!」


 あおいちゃんは、回復魔法の温もりに感動しながら声を弾ませた。


 ……それにしても、華怜さん。演出、派手過ぎません?


「次は…」


 と、華怜さんがあかねさんに目を向けた。


「おい、聞いてねぇのか」


 ゴロツキどもは、冷ややかな笑みを浮かべながら華怜さんに迫ってきた。

 俺は、彼らが十分に近づく前に、いとも早く華怜さんの前に体を投じるように立ちはだかった。

 さすがに、先ほどの戦闘を見ているおかげか、舌打ちをしただけで、あからさまな暴力などを振るう気配はない。

 しかし、彼らの視線には相手を見下す傲慢さが滲んでいた。


「受付嬢ってことはダンジョンの職員だろ?俺たちを安全なところまで連れていけ」

「いや、その前にまず俺たちの怪我を治せ。早くしろ」

「俺たちが挑んでいたボスだ。奴が落としたアイテムは俺たちのもんだ。さっさと寄越して、お前はどいてろ」


 三者それぞれが、勝手な主張を次々と口にした。

 言葉だけでなくその目つきや態度にも横暴さがあふれていた。


「申し訳ない」

 ゴロツキどもに、慎吾さんが頭を下げた。


「この後の安全につきましては、私たちが保障をいたします。怪我はポーションで治療致しますし、代替のアイテムとお礼もご用意致します。どうか、恩人であるこちらの方々にまで余計なご負担をおかけしないよう、お願い申し上げます。」


 ゴロツキどものあの態度に、真摯な態度を向け、誠実さを示している慎吾さんを見て、なんでこの人たちが、ゴロツキどもと一緒に行動を共にしていたのかますます不思議に思えた。

 慎吾さんの落ち着いた言葉遣いと礼儀正しい振る舞いは、彼らの粗野な態度とあまりにも対照的だ。


「ダンジョン管理職員がわざわざ出張っているんだ。このモンスターもイレギュラーモンスターだったんだろ?こいつらに安全を保障してもらおうじゃねえぇか。なぁ姉ちゃん?」

 下卑た笑みを浮かべながら、華怜さんにいやらしい目つきを向けた。


 不愉快な態度と華怜さんに向けられた視線には腹立たしさを覚えるが、今は冷静に対処することが最優先だ。

 彼女を危険な状況に巻き込まないためにも、ここで事態を収める必要がある。


「低階層なのに、安全保障もないだろ?ここは5階層だぞ。死や怪我の恐れはない」

 俺は、ゴロツキどもに向けて静かに言い放った。


「「「はっ?」」」 「「「えっ?」」」


 何か全員の反応が重なったな。


「ここは5階層なのですか?」


 あかねさんが普段よりも大きな声で問いかけてきた。


 か、顔が近い。

 美人に興奮気味に迫られるのも嫌な気分ではないね。

 てか、今までの態度を照らし合わせても、5階層であることを本当に知らなかった様子だね。


「そうですよ。本当です。察するにあなたたちは、別の階層で戦闘を開始したのではありませんか?」


 さすがの察し能力、気も利く華怜さんである。

 あかねさんに迫られてドギマギする俺の心を察してまでいて、あかねさんをそっと押しのけた。

 残念です…気が利きすぎですね。

 あかねさんは、自分の態度に気づいたのか、赤みが差した顔をそっとうつむかせ、肩をわずかにすぼめた。

 その赤みは、先ほどの興奮から羞恥へと静かに移り変わり、彼女の美しさに新たな魅力を添えた。

 これって、美人が可愛い人に代わる貴重な瞬間だよね。


「我々は、このダンジョンの攻略中である最深部、25層にいた。しかし突如、目の前が光に包まれた。罠の発動 により更なる深部の層へ飛ばされたのだ。」


 慎吾が状況を説明する間、あかねさんは深く息をつき、言葉を引き継いだ。


「階層を飛ばされたのは確かです。そこで現れたモンスターは、今までの階層では見たことのない異形のモンスターでした。その強さも異常といえるほどで、未知なる階層に飛ばされたと判断しました。」


 未発見の通路や部屋の存在なども捨てきれないな。

 帰還することだけを考えるならば、さらなる深層に飛ばされるより希望はある。

 しかし、問題は実際に遭遇した未知なる強敵だったのだろう。


「先ほどイレギュラーモンスターと呼んでいましたよね?未知の階層で未知のモンスターと遭遇したとしても、それがその階層の通常モンスターと一線を画す存在とは判断できないのではありませんか? 」


 まず、通常モンスターである未知のモンスターと対峙していて、その後に、それよりも以上な強さを持ったモンスターと対峙したか、あるは逆のパターンか。

 最初に接敵したモンスターのみでは判断つかないよね。


 華怜さんのその指摘は、イレギュラーに遭遇したと判断を下したことに対し、これらと別の理由があると思っているのかな?


「すぐに25階層に戻れるアイテム。転移結晶を使用したのだ」


 慎吾さんがすぐに解答をくれた。

 階層を簡単に移動できるアイテムがあるのか。

 元々25階層に用があったのだから、低階層などに戻らずに25階層に戻るのも理解はできる。

 となると……。


「25階層のモンスターの中にはミノタウロスがいる。またはミノタウロスは25階層のイレギュラーモンスターであるってことかな?」


「カナタさんの言う通りです。恩人であるお二方は勇気もあり、聡明さもお持ちのようだ」

 彼の声には敬意が込められていたが、すぐにトーンを変えた。

「ミノタウロスは通常型とイレギュラーどちらも居る。強さはもちろんですが、通常型を知っていれば、色や大きさで簡単に区別は付く。25階層に戻った瞬間にイレギュラーに襲われたのだ」


 この人たち、運に見放されているね。罠にはかかるし、イレギュラーには遭遇。その上、質の悪い仲間にも恵まれている。

 俺は、ゴロツキどもを見やった。


「運が良かったのだ」

「そうです。私たちは本当に運に恵まれました」


 慎吾さんの言葉にあかねさんもあおいちゃんも同意した。


「ボク、カナタさんは、高慢で悪徳な貴族とは聞いていました。実際に会ってみると名前ばかりが先行していたのですね。とても素敵な人でした。」


 はぁぁあっ?

 つ、つまり……高慢な悪役貴族に転生してたってこと?

 俺、いつの間に…!?

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