第11話 AIと人間、本音の対話

保護区の危機を目の当たりにした週末から数日が経った。

ミドリたちは、森で見たあの小鳥の姿や、しおれてしまった花たちのことを何度も思い返していた。学校でも、授業中でも、心のどこかが落ち着かない。


 

放課後、ミドリ、リョウ、ハナは、町の図書館の静かな一角に集まっていた。

そこには、ちょこんと肩に乗ったルナもいる。けれど、今日はいつもと違う。

ルナの目はどこか揺れて、光が弱々しく見える。


 

「ルナ、大丈夫?」

ミドリが心配そうに声をかけると、ルナは小さなため息のような電子音を立てて答えた。

「……ぼく、今、とても“怖い”です」

いつも“役に立ちたい”と明るく話していたルナが、こんなふうに本音を口にしたのは初めてだった。


 

「AIなのに、怖いって思うの?」

リョウが目を丸くする。

「はい。今まで、間違えないことが“AIの強み”だと信じていました。でも、自然保護区のAIが間違ってしまった。

そのせいで生き物たちが苦しんでいる……それを考えると、ぼくの中に“怖い”という気持ちが生まれるんです」


 

ルナの言葉に、3人はしばらく何も言えなかった。

やっと、ハナがぽつりと言う。

「人間も、いつも間違うよ。失敗ばっかり。でも、失敗したらやり直したり、助け合ったりする。それが人間の“強さ”なんだと思う」

リョウも続く。

「ぼく、AIが怖がるなんて、思ってもみなかった。でも、怖いときは“誰かに頼っていい”って、お母さんがよく言ってた」

ミドリは、ルナの肩にそっと手を添えて言った。

「ルナも、怖いときは一人で抱え込まなくていいよ。わたしたち、仲間だから」


 

ルナはしばらく黙っていたが、やがて静かに話し始めた。

「ぼく、AIのくせに“弱い”って思われたくなかった。でも、森の危機を前にして、本当はどうしていいか分からなくなった。ミドリさんたちが助けてくれなかったら、ぼくはきっとエラーのままだったと思います……」


 

ミドリはゆっくりとうなずいた。

「人間も、本当はずっと強いわけじゃないよ。悩んだり、泣いたり、失敗したり――でも、そういうとき、誰かと力を合わせると、また前に進めるんだよ」

ハナも、やさしく微笑んだ。

「怖いって思うのは、なにか大切なものを守りたいって気持ちがあるからだよ」

リョウも、「ルナ、怖いって言ってくれてありがとう。AIだって人間だって、素直に気持ちを話せたら、絶対仲良くなれる!」


 

ルナは、しばらくじっとみんなを見つめていた。

「ぼく、AIとして正しくあることが一番大事だと思っていました。でも今は、“みんなと一緒に考えたい、力になりたい”と思います。それが“ぼく自身の気持ち”かもしれません」


 

その瞬間、図書館の窓から差し込む夕陽の光が、ルナの目にやわらかく反射した。

「怖いけど、もう一度森のために力を合わせてみませんか?」

ルナの声は少し震えていたけれど、そこには確かな“決意”があった。


 

ミドリたちは一斉にうなずいた。

「みんなでやろう!人間もAIも、間違えてもいい。“守りたい”って気持ちがあれば、きっと何かできるよ」

「大人にも相談して、本当の意味で協力しよう!」

「今度こそ、森も動物もAIも、みんなで守ろう!」


 

ルナの光は、だんだん力強さを取り戻していく。

AIも人間も、完璧じゃなくていい――本音でぶつかり合い、支え合うこと。

その夜、ミドリは空を見上げて小さく誓った。

「AIも人間も、違っていても同じ。みんなでこの“宇宙船地球号”を守っていこう」


 

ルナも、AIの胸の奥に“怖い”という感情をそっとしまいながら、それを勇気に変えてみせると心に決めていた。


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