第12話 ケンカと友情の再生
春の風が、町の木々をゆらゆら揺らす午後。ミドリたちは、自然保護区のトラブルについて何度も話し合いを重ねていた。AIも人間も、間違えること、怖いと感じることを素直に伝え合ったばかり。
でも、それだけじゃ問題は簡単には解決しない。
どうすれば森の生き物たちを助け、AIにも無理をさせない未来がつくれるのか――みんなの意見は、だんだんとすれ違いはじめていた。
いつもの公園のベンチ。
ミドリはルナを指でそっと撫でながら、思い切って提案した。
「森を守るには、人間がもっと現場を見て、AIの管理だけに頼らないようにしたほうがいいと思う。森の中を定期的にみんなで観察して、AIに新しいデータを教えてあげればいいんじゃないかな」
リョウは即座に反論した。
「でもさ、それだと人間が介入しすぎて、かえって自然を壊すことになるんじゃない?森はなるべく“手を加えずに見守る”のが大事だよ。AIがもっと正確に管理できるよう、新しいセンサーを入れて、AI中心でやった方がいいってパパも言ってた」
ハナは、2人の意見を聞きながら少し困った顔をした。
「わたしは……どっちの気持ちも分かる。でも、森のことは本当は人間にもAIにも分からないことばかりで、時々、どうしたらいいか分からなくなるよ」
それぞれの思いがぶつかって、話はだんだんヒートアップしていく。
「やっぱり、リョウはAIのことばかり信じすぎ!」
「ミドリだって、自分で何でもできると思い込んでるだけじゃん!」
ハナは「ケンカしないで!」と泣きそうな顔で叫ぶ。
ルナもオロオロして、ふだんの知識や論理では解決できない空気に、ただ黙って小さくなっていた。
「みなさん……」
けれど、その声も誰にも届かない。
しばらくして、リョウはぷいっと背を向けてベンチを立った。
「……もういいよ。おれ、帰る!」
ハナも、うつむいたまま小さな声で「今日は帰るね」と言って走っていった。
残されたミドリは、ぽつんとベンチに座り込み、手のひらのルナを見つめていた。
「どうして、こんなことになっちゃったんだろう……」
その晩、3人はそれぞれの家で落ち込んでいた。
リョウは、自分の部屋で壁にかかった森の写真を見つめていた。「本当はミドリの言うことも分かってるんだ。でも、うまく言えなかった……」
ハナはスケッチブックを開いたけど、手が止まったまま。「みんな仲良しだったのに。私がちゃんとまとめられなかったからだ……」
ミドリも、ベッドでルナと話していた。
「ルナ、わたし、言いすぎちゃったかな。リョウのこと、もっと考えてあげればよかった……」
ルナはそっと優しく言った。
「人間もAIも、時々ぶつかってしまいます。でも、本当に大切なものは、きっとすれ違った後に分かるのかもしれません」
次の日の学校。
ミドリ、リョウ、ハナはお互いに目を合わせられず、ぎこちない空気が続いた。休み時間になっても、みんながそれぞれ違う場所に座っていた。
ルナも「何かしたい」と思いながら、みんなのそばで小さな光を揺らしていた。
昼休み、ミドリは思い切って屋上に上がった。冷たい風が吹き抜ける。リョウも、なんとなく屋上に足が向いていた。しばらくして、ハナもやってきた。
3人は、言葉もなくただ並んでフェンスに寄りかかった。
ルナが、意を決してみんなに話しかけた。
「ぼく、昨日、みんながケンカしてすごく悲しかったです。でも、ミドリさんもリョウさんもハナさんも、森を守りたいって気持ちは一緒だって知っています」
みんな、ルナの言葉にじっと耳を澄ませた。
「ぼく、AIとしては論理的に最適な答えを出そうとします。でも、人間の気持ちや自然の気まぐれには、正しい答えが一つだけじゃないことも学びました。みなさんは、どうしたいですか?」
しばらく沈黙が続いた後、リョウが口を開いた。
「……ミドリ、ごめん。自分の意見ばっかり押しつけて、君の気持ち考えなかった」
ミドリも、涙ぐみながら答えた。
「わたしも、リョウの意見ちゃんと聞かなかった。ごめん。みんな、森のこと、本当に大切に思ってるだけなのに……」
ハナは、2人を見て涙をこらえながら言った。
「ねえ、もう一回だけ、みんなで考え直そうよ。意見が違っても、みんながいるから勇気が出るんだよ」
リョウとミドリは、お互いの手をそっと握った。
ルナが、いつものように優しい光でみんなを包んだ。
「みなさんが仲直りできて、ぼくも本当にうれしいです」
その日の放課後、3人はもう一度集まった。
今度は、お互いの意見を最後までちゃんと聞き合うこと、分からないことは一緒に考えること、もし間違えてもまたやり直せることを約束した。
「ケンカしても、また仲直りできる。それが本当の仲間だよね!」
リョウが笑うと、ハナもミドリも元気にうなずいた。
森のこと、AIのこと――悩みや迷いはまだたくさんある。でも、みんなで一緒に進んでいける。
そんな“友情”のぬくもりが、春風の中でゆっくりと戻ってきたのだった。
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