第10話 AI暴走!? 保護区の危機

週明けの月曜日、ミドリは学校の図書館で新聞コーナーを眺めていた。

「最近、自然保護区の生態系に異変――動物たちの姿が減少」

そんな見出しが目に飛び込んできた。心の奥がざわつく。

放課後、リョウとハナ、ルナを呼び出して急いで集まった。


 

「これ見て!森で何かが起きてるみたい」

ミドリが新聞を広げると、リョウが眉をひそめた。

「“保護区のAIシステムにエラーが発生。環境センサーのデータが乱れている”って書いてある……」

ハナは息をのんだ。

「このままじゃ、動物も植物も危ないってこと?」


 

ルナの目が、いつもより不安そうに揺れた。

「保護区のAIシステムは、生態系のバランスを保つため、温度、湿度、日光、給水、さらには動物の行動まで管理しています。でも、もしデータや命令が間違えば、逆に生き物たちを苦しめてしまいます……」


 

その日の夜、3人のグループチャットはずっとにぎやかだった。

「この前、森に行ったときは、みんな元気だったのに」

「もしもAIが“間違った管理”を続けたら、大変なことになる」

「私たちにできること、ないかな?」


 

翌日、ミドリたちは放課後の公園に集まった。ルナが、保護区のAIネットワークと慎重にアクセスし、最新の情報を解析し始める。

「やっぱり、湿度の制御プログラムが狂ってるみたい。森の一部が急に乾燥して、反対側は湿りすぎてる……。それに、植物への水やりも間違ったタイミングになってる」

「じゃあ、動物や虫たちも住みづらくなってるんだ!」

リョウが、昔見たカエルや虫たちのことを思い出して顔を曇らせる。


 

「このまま放っておくと、森のバランスがどんどん崩れちゃう!」

ハナが必死に言う。

「ねえ、ルナ。私たちに何かできること、あるかな?」

ルナはしばらく黙ってから、静かに答えた。

「AIシステムに直接アクセスして直すのは大人の許可がいるし、危険も伴います。でも、現地に行って“今、何が起きているか”を自分の目で観察することはできます。AIのデータと人間の観察を合わせれば、間違いに気づけるかもしれません」


 

3人はうなずき合った。心のどこかで怖さも感じるけれど、それより「何かしたい」という気持ちが大きかった。

「みんなで森に行こう!いつもの“冒険セット”も持って!」

ミドリの言葉に、みんなが一つになった。


 

その週末、またしてもこっそり自然保護区のフェンスを抜ける。

森の入り口は、前に来たときよりも空気が乾いていて、落ち葉がパリパリ音を立てていた。あちこちに、元気をなくした草やしおれた花。

「前はもっと緑がふさふさしてたのに……」

ハナが静かに呟いた。


 

川辺に行くと、水がほとんど流れていない。「カエルがいない……」リョウが唇をかむ。

森の奥から、いつも聞こえていた鳥のさえずりも少なくなっている。

「AIのエラーで、川の水の流れが止まっている。乾燥したせいで虫も減って、動物たちもエサが見つからなくなっているんだ……」

ルナの声が震えた。


 

ミドリは思いきって、AI管理の設備がある小屋に近づいた。外のディスプレイに、エラーを知らせる赤いランプが点滅している。

「AIは万能じゃない。間違うこともあるんだね」

「でも、AIだけじゃなくて、人間がちゃんと見守っていれば、気づけることもあるよ」

ハナが力をこめて言った。


 

そのとき、森の中からかすかな鳴き声が聞こえた。探してみると、巣から落ちてしまった小鳥がうずくまっている。普段なら親鳥がすぐに戻ってくるはずだけど、環境の変化でどこかへ行ってしまったのかもしれない。

「助けてあげなきゃ!」

ミドリたちは力を合わせて小鳥を保護し、木の枝にそっと戻した。


 

「AIの暴走が生き物の命に直結するなんて思わなかった」

リョウが真剣な顔でつぶやいた。

「AIが環境を守ることはできても、絶対に“全部”を管理できるわけじゃないんだね」

ルナはゆっくりと言った。

「ぼくはAIだけど、人間と自然の間で“感じる”こと、“間違いに気づく”ことが必要なんだと思います」


 

帰り道、ミドリたちは話し合った。

「やっぱり、人間の“目”や“心”も大事にしないとダメなんだ」

「AIと人間、両方で見守っていこう」

「みんなで気づいたことを大人たちにも伝えよう!」

それぞれの心に「守りたい」という気持ちが強く根を下ろした。


 

森の夕暮れ。AIが便利さと安全をくれる一方で、

「人間の気づきと行動こそが、命のバランスを守る最後の砦なんだ」

と、ミドリたちは強く感じていた。

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