第5話 《勇気》ある者
シャル達はガイムールという街に到着した。この街にもまた例の塔が聳えており、既にディナルドに侵攻された事は伺える。しかし、人々の生活は普通に行われており、恐らく国政なども人間側の権利として残されたままなのだろう。完全な支配よりも属国の様にする方が良いという事なのかもしれないが、その真意は分からないものである。
この街はスカラプスという街の首都でもあり、リーナ達はとある事情からこの国の大臣に会うためにここに寄ったのだった。なので、シャル達は街へ着くと大臣へ会うために議事堂へと向かった。事前に連絡を入れていたわけではないのだが、しばらく待つと大臣が現れ、部屋に案内される。大臣の話によると、最近この街の近くの洞窟に住んでいるはずの岩魔竜(がんまりゅう)がその洞窟を離れ、様々な事で利用される主要な道へ居座る様になり危険な状態であるという事、そして、それの原因だと思われる事でありそれ以上に問題なのが同時にその岩魔竜の住処である洞窟に何か未知の生物が確認されているとの事である。しかし、ディナルドに支配されている以上、下手に自国の部隊を動かせないため、サフラトで炎魔竜の討伐、そしてピスラズでのフレームゴーレム撃破の実績があるシャル達が呼ばれたという事である。
「もちろん危険な事は承知しています。現状の詳細が分かればこちらとしてもソレをディナルド側と交渉し対処してもらえるとは思うのです。なので、こちらとしては洞窟に住み着いている者の最低限の調査だけでもお願い出来ないかと思っておりまして」
「しかし、岩魔竜の方はいいのでしょうか?」
「そちらに関しては現状何か起こしているわけではありませんし、住処さえ戻ればどうにかなるでしょう」
「そうですか。では引き受けましょう」
「本当は最近噂の魔獣の巨人や、謎の生物を倒したという巨人とも連絡が取れればよかったのですが、すみません」
シャルと大臣は握手を交わした。
「しかし、勇者様達も数日前に到着していたのならアポを取っていただければ待たせずに済みましたのに」
その言葉にシャル達は首を傾げた。
「いえ、私達が到着したのは本当に先ほどの事ですが?」
「はて?街では勇者様達が到着し、賑わっている様なのですが。何かの間違えですかね」
シャル達は大臣の言葉に疑問を持ちながらも議事堂を後にし、昼食を取りに適当な店へと入る。何やら賑わっている様だが、そんな事は気にせずに少し離れた席に座り、各々気になる料理を注文をする。しかし、注文した料理を待っていると気になる事が聞こえてくる。
「魔族たちに囲まれて「もうダメだ!」って思いましたよ!でもね、そこで諦めずに立ち上がって魔族の下っ端たちをバッタバッタと切り伏せて、遂には幹部と暴れる竜を相手に!」
自分達以外に魔族との戦いをしている、ましてやそんな実績のある人物など聞いた事がなかったため、シャル達は気になりしばらくそちらの方に聞き耳を立てた。
「おっと!ここからの私たち勇者の冒険の話が聞きたかったら、大銀貨一枚を払ってよ!ほら、お得だよ!」
大銀貨一枚。この世界では外食でちょっといい食事が出来るくらいの額である。その値段を聞き渋る者は離れていったものの、物珍しい勇者の冒険譚と聞き金銭を払う者も居た。
「オイオイ、金取るのかよ」
「あのような事をするとは、戴けませんね」
「変な話をして金を集めるなんざ、お前の所そっくりだな」
「教会はそのような不埒な場所ではありません。それよりも、シャルロット、もしかしてアレは」
「魔族に竜なんて、まるで私達の話だよね」
「偽物でしょうね。大臣の言ってた数日前に到着した勇者ってのも、アレでしょ」
首相の不可解な言葉もようやく理解出来た。わざわざ伝説に倣って勇者という肩書をやっているのは自分達くらいである。ましてや少人数で魔族と戦っているとなるとそうだ。
「気に食わねえな。ちょっとぶっ飛ばしてくるか」
「こんな所でよしなさい」
「トロンの言う通り。それに今どうにかしたってみんなアレを本物だって信じてるもの」
「じゃあこのまま黙って見てるの?」
「しばらくは泳がせよう。どうして私達を名乗ってるのか知りたいしね」
そうしていると4人の食事が到着する。その食事を各々食べ始めながらも勇者を語る者の話に耳を傾けていた。
「でもどうする?私達が居る事が分かると逃げられちゃうんじゃない?」
「確かにそうね」
「では、身分を隠して街に溶け込んでみてはどうです?」
「それならこの前使った手で行くか?」
「この前って、まさか」
「これでも芸には自信があるんだぜ」
ウォードの提案はピスラズの時に使った旅芸人に変装するという戦法である。しかし、皆あまり乗り気ではなかった。
「シャルとミリアムは手伝ってくれればいいさ。トロン、お前は教会だかでガキ向けにそういう事してたんだろ?」
「子供が集まった時に手品を見せていた程度ですよ。というか、そもそもとして街に溶け込む程度ならそんな事をしなくてもいいでしょう?」
「そこはやっぱり、楽しみたいだろ」
シャル達は悩みながら食事を摂ったが、食事が終わるまで結局代替案が出なかったためウォードの案が採用される流れとなるのだった。
翌日、街の一角でウォードとトロンが何やら準備をしていた。それと同時にシャルとミリアムは呼び込みをしており、その物珍しさに人々がどんどんと集まってきていた。そして都合よくその中には偽勇者一行4人の姿もあった。人が集まったのを見計らい、ウォードが客に向かって話を始める。なんてことのない芸の前説であった。
「さあさあ、まずお目にかけますのは東洋の国に伝わるとされる芸でございます」
そう言うと、ウォードは少し小さめな傘にボールを乗せ回し始める。そのボールは傘の上を落ちずに空転し続けており、その芸の物珍しさに見ていた観客は各々声を上げていた。
続いてはトロンが芸を披露する。最初は水晶玉を浮かせる様に見せる手品、そしてトランプを使ったマジック、そしてジャグリングと様々な芸をこなしていく。それらの魔法を使っていない芸を見て観客は歓声を上げていた。
一通りの出し物が終わるとウォードが締め、観客たちは拍手をした後に満足気に帰っていた。ただ、偽勇者達を除いては。
「勇者様だとお見受けしますが、どうでしたか?」
シャルは接触するチャンスと思い、偽勇者達の、恐らくシャルのふりをしているであろうリーダーと思われる女性に笑顔で声をかけた。
「ま、いいんじゃない。でも」
偽勇者は続けた。
「まだまだね。こんなのでお金を取ろうと思ってるなら甘いわ」
その言葉は上から目線の言葉であったが、やっつけな発想の付け焼刃なウォード達には的確な指摘であった。
「貸してみて」
偽勇者はそう言うとトロンから道具を借り、仲間達に渡す。すると偽勇者一行はそれらの道具でそれぞれが芸を披露し始める。それは魔法も織り交ぜられており、どれもウォードやトロンがやったものとは比べ物にならない物であった。
「これくらい出来ないと、とは言わないけど、人前でやるならもっと上手くなりなさい」
そう言うと偽勇者はトロンに道具を渡し、去ろうとする。
「ちょっと待ってください!」
シャルは偽勇者達を呼び止める。
「勇者様なのにこんな事も出来るなんて凄いですね。尊敬しちゃうな」
「そう?それほどでもないわ」
偽勇者の顔には笑みが零れており、照れくさそうにもしていた。
「でもどうして勇者様達がそんな芸を?」
「まあ、それは、色々とね」
偽勇者は言葉を濁す。
「よかったら勇者様達のお話しを聞かせてもらえませんか?私、気になります!」
シャルは少し上目遣いで偽勇者の懐に入り込もうとする。その姿はいつもの凛々しい物とは正反対であり、言うなれば天真爛漫な少女である。シャルを知っている人から見ると違和感しかないだろう。
「シャルの奴、なんであんな乗り気なんだ?」
「さあ」
「何か考えがあるならいいんだけど」
ウォード、トロン、そしてミリアムは後ろでボソボソと話す。
「みんなも気になるよね!?」
シャルはウォード達の方を振り向き聞く。咄嗟の事で驚き三人とも同意するしかなかった。
「そう。でも、私達の話は高くつくわよ?」
「お願いします!」
シャルの頼みから偽勇者達はシャル達と共に休める場所に移動し始める。
「まずは自己紹介をしないと」と言うと偽勇者達は自分達の名前を名乗り始めた。背の高いリーダーと思われる女性がシャロ、小柄で少し幼さもある少女がミアリス、大柄な男な男がブート、長身の男がトロルと言うらしい。偽物としては如何にもと言った感じだろうか。偽勇者のシャルは自分達の冒険譚を離し始める。それは昨日に飯屋と話をしていた物と同じ物であり、旅先の村に襲撃をしに来た魔族の軍勢、そしてその魔族が使役する暴れる竜と戦って見事勝利したという物だった。しかし、その話は当事者であるシャル達にとってはあまりにも嘘くさく感じられ、恐らくは自分達の噂話を適当にまとめてかつ誇張している物なのだろうと感じた。
「凄いですね!」
シャルはわざとらしく褒めながらも続ける。
「勇者様。もしよかったらその背中にある剣を触らせてもらえませんか?」
「あぁ、いいよ」
シャロは快く剣を渡す。するとシャルはその剣を探る様に見たり触ったりする。
「素振りしてみてもいいですか?」
「いいとも」
シャルは剣を振るう。しかしそれは、勘づかれない様にわざと素人な振り方をしていた。そして素振りを追えるとシャルは剣を返す。
「こんな強い勇者様、憧れちゃうな」
「そうでしょう、そうでしょう」
シャロは鼻高々に喜んでいる様子だった。
「じゃ、私達の話も聞いたことだし、お会計と行こうかしら」
「お金ですか?」
「言ったでしょ、高くつくって。剣まで触らせたんだから一人大銀貨五枚。と言いたいところだけど、気分がいいから一人三枚にまけてあげるわ」
そう言われると、シャル達は渋々ながらも大銀貨を払うと、シャロはその銀貨を自分の財布の中に入れるのであった。
「まいどあり!」
その夜、シャル達は宿の一室に集まって相談をしていた。
「で、あそこまでやって何か分かったのか?」
ウォードはシャルに問いかける。何を思ってかは知らないがあそこまでやって何も成果が無いという事は無いだろうという信頼の上での質問であった。
「まずみんなも分かっただろうけど、あの話は恐らく私達のやってきた事の噂を適当にくっつけただけの真っ赤な嘘ね。それにあの剣。触って振ってみたけど、悪くは無いけど少なくともあんな剣であの話みたいな戦いはきっと出来ないわね。まあ、知識の無い人を騙すには十分だろうけど」
「じゃあやはりあの人達は」
「えぇ。私たちの偽物で間違いないわ」
皆薄々は気付いていたが、やはりそうかと言った感じである。しかしそうなると一つ悩みが生まれる。
「でも、そうだとするとあの人達の事どうする?」
「問題はそこなのよね。何か迷惑をかけているわけじゃない以上は、こっちから仕掛けるなんて事は出来ないし」
「でもあんな作り話で金儲けなんざ許せないな」
「同感ですね」
この街の人達が彼女らを本物の勇者と信じている以上は、「この人たちは偽物です」と言ってもあまり効果は無いだろう。だからこそ余計にシャル達を悩ませていた。しかもシャル達には大臣に頼まれた事もあるためあまりここに長居をするわけにもいかない。となるとこのまま放置するのも一つの手ではないかという考えが浮かんだ。だがしかし、結局意見は纏まらなかったため、この夜はそのまま保留となるのだった。
翌日、シャル達の一つの結論を出した。それはこの街、国の然るべき機関へ対処を任せる事である。シャル達も次を急がないといけないため、いつまでもこの偽物に構っている暇はない。それに、詐欺であれば自分達でどうこうよりもキチンと法に任せた方がいいだろう。ディナルドの占領下と言えど、それくらいは機能しているだろう。そう思いながらシャル達は次へ行く準備をしていた。
しかしその時、街ではある事が起きていた。
街の塔の近くリーダー格のフレームゴーレムが一体、そしてその近くにピスラズでも見かけた丸いフレームゴーレムが複数体居る。そしてその場に民衆が集まっており、その先頭には偽物の勇者達の姿があった。
「アンタ、勇者なんでしょ?こんなのさっさとやっちゃってよ!」
そう言われると、偽勇者達は半ば強引にフレームゴーレムの前に差し出された。リーダー格と思われる蜂の様な見た目のフレームゴーレムが開くと、そこから腕輪をした女の魔族が姿を現す。
「お前がリーナベルとオルタロスをやった奴か?」
「そ、そうだ!」
偽勇者のシャロは後に引けなくなってしまっている。そういう状況になってしまった以上シャロは剣を抜き構えたが、その立ち姿は腰が引けており、完全に戦える姿勢ではなかった。そして、それは敵である女の魔族にも伝わってしまっている。
「お前みたいな奴に・・・リーナがやられたなんて!」
魔族はフーレムゴーレムから飛び降りながら短剣を抜き、シャロへと襲い掛かる。咄嗟にシャロは自分の前に剣を構えそれを防いだものの、魔族の攻撃は収まらなかった。時には防ぎ、また時には傷を負いながらもなんとか攻撃を凌いでいたが、シャロは剣をはじき落され、その場で尻もちをついてしまう。魔族はシャロにトドメを刺そうとしたところ、シャロの仲間達が魔族に飛びつき四肢にしがみつく。
「逃げろ!」
仲間の一人がそう言う。しかしシャロの背後には民衆たちの目があり、とてもおめおめと一人で逃げられる状態ではなかった。シャロは咄嗟にその場の剣を取り魔族に斬りかかる。だが魔族もなんとか右腕の拘束を振り切り自身を守る体勢に入った。
シャロの剣が魔族の腕に当たる。距離と踏み込みが足りなかったからか、魔族は腕輪を壊され、腕に多少の傷が出来た程度でしかなかった。が、魔族は破壊された腕輪を見て、怒りのまま拘束を振りほどく。
「よくも・・・。よくも大切な腕輪を・・・!」
魔族は腕輪を拾うと、フレームゴーレムのコックピットに戻る。
魔族の腕に剣が当たったその頃、シャル達は宿から出て、その異変に気付く。
「オイ!アレ、マズいんじゃないか!?」
「あぁ。みんなは街の人達の避難誘導を!私はアッチをなんとかする!」
シャル達は駆けだした。
「殺してやる!お前なんか!」
魔族はフレームゴーレムを動かし、巨大な手でシャロを潰そうとする。シャロは目の前で動く巨人に恐怖し、腰が抜け逃げようにも逃げられなかった。このままでは死ぬ。そう思ったその時、シャルが間一髪の所でシャロを抱えながらその手を避けたのだ。
「みんなと早く逃げて!」
その声を聞き、状況は分からないが助かった事が分かったシャロは仲間と共に逃げるのだった。
人々の避難誘導に時間がかかっているため、事実上のシャルとフレームゴーレムの1対1の状態となった。相手には部下のフレームゴーレムも居るが、人間一人にそんな数は使わないだろう。シャルは前にオルタロスの時に使った相手に飛び乗り関節を破壊する戦法を選ぶ。
再び敵のフレームゴーレムが叩き潰そうとした所を避け、その手に飛び乗り、頭部まで駆け上がろうとする。フレームゴーレムは身体を大きく振るなどしてシャルを振り落とそうとするが、シャルは装甲の隙間にしがみつきそれをなんとか耐える。しかし、それも遂に耐えられなくなり、シャルは振り落とされてしまう。鎧もあり、咄嗟に受け身を取ったものの、数メートル上から落ちた衝撃は凄まじいものであった。
「シャル!」
それを見たミリアムはシャルに駆け寄り回復魔法をかける。それを敵は見逃さなかった。
「二人仲良く潰れちゃいな!」
再びフレームゴーレムの手がシャルに向かってくる。その迫りくる手にシャルとミリアムは逃げようにも間に合わない、どうにもならない状態だと確信した。
二人が諦めそうになったその時、シャルの鞄が光輝き、一筋の光が走る。その光が現れたと共に敵のフレームゴーレムは後ろに倒れており、そしてシャル達の目の前には緑色のフレームゴーレムが現れていた。
「これは・・・?」
その姿はサクヤとリーナの乗るエスペランザに似た様な姿であった。しかし、エスペランザとは違い背中に鳥や竜の様な翼があり、そこに片刃の二本の剣が装備されていた。そのフレームゴーレムがシャルの方に振り向くと、胸の水晶玉にシャルとミリアムを取り込むのだった。
シャルとミリアムは水晶玉の中にある複座式のコックピットにそれぞれ座る。するとモニターに、シャル達の言語で構成された文章が流れてくる。
「名前は・・・。そうか、ヴァリエンデか」
敵のフレームゴーレムが起き上がる。
「次から次へと、今度はなんなのよ!」
「ミレーヌ様!我らも!」
「アンタ達はいいわ」
敵の魔族、ミレーヌは部下が出ようとするのを静止する。
「あんな奴からってのは気に食わないけど」
そう言うと、ミレーヌは黒い玉を五つ投げる。するとその黒い玉は黒い巨人へと変化する。シャル達は出会ったことがないが、サクヤ達が戦った事のあるシャドウだ。そのシャドウ達は一斉にヴァリエンデに襲い掛かる。
「シャル、来るよ!」
「武器は、背中か!」
シャルは両腕で背中の剣をそれぞれ持つと、襲い掛かるシャドウを薙ぎ払う様に応戦する。シャルにとっては慣れない二刀流であったが、それでもシャルは順応していく。ヴァリエンデの剣の切れ味は凄まじく、一太刀でシャドウを真っ二つにし、爆散させて.いく。そして、あっという間にシャドウは全滅させられるのだった。
「ストルツの奴!自慢げに渡してきたくせに全然使えないじゃない!」
ミレーヌは壊滅させられたシャドウを見て、次の行動を取ろうとする。それは相手の範囲外からの攻撃だ。幸いにもミレーヌのフレームゴーレム・ホーネットコロニーには切り札と言える遠隔武器もあり、しかも他者の追随を許さないほどのスピードを誇る。そこに勝算を見出し、ミレーヌは空高く飛び立つ。
「ミリアム、奴は追える?」
「うん。このフレームゴーレム、飛べるみたい」
「わかった!」
ヴァリエンデは深く踏み込むと、一気に飛び上がる。
ミレーヌのホーネットコロニーは確かに速い、がしかし、ヴァリエンデはそれに追いつくが如くのスピードで迫る。
「速い!?でも!」
ミレーヌは姿勢を切り替えると、ヴァリエンデの方に尾を向け、そこにあるハニカム状の穴から大量の蜂型兵器を出す。それは大きさ1mあるかないかであり、人が普通の蜂と対峙するのと同じほどの大きさである。その蜂型兵器はヴァリエンデに取りつくと、一気に起爆しヴァリエンデを爆炎へ包み込む。
「やった!」
その爆炎を見たミレーヌは勝ちを確信した。しかし、結果はミレーヌの予想を裏切る事となる。ミレーヌの目に映ったのは無傷のまま迫りくるヴァリエンデの姿であった。
「噓でしょ!?」
「もらったァ!」
シャルは正面からホーネットコロニーに突っ込むと、そのまますれ違い様に尾を斬り落とす。そして通り過ぎたと同時に旋回し、背後からホーネットコロニ―の二つの翼を切り落とすのだった。翼と尾を失ったホーネットコロニーは真っ逆さまに落下していく。シャルはあの状態で戦う事は無理だろうと思い追撃することはなかったのだった。
落下していったミレーヌは、なんとか機体を安定させながら着地をし、そのまま部下と共に撤退していく。これ以上の戦闘は部下と共にやっても負けると判断したのだろう。シャルはそれを見ながらゆっくりとヴァリエンデを着地させる。先ほどの戦闘、特にシャドウの爆発のせいでその周辺の建物などが被害を受けていた。それを見たヴァリエンデが羽から光の粒子を放出すると、破損した建物などが修復されていく。その現象にシャル達は驚かされるのだった。ヴァリエンデは役目を終えると、シャルとミリアムをウォードとトロンのそばへ放出し、自身はエスペランザと同じ様な手のひらサイズの水晶玉になり、シャルの手へ戻る。それは、シャルが母親から貰ったお守りの水晶玉であった。
「まさかミリアムの言った通り、フレームゴーレムになるとは」
「私、冗談のつもりで言ったんだけど」
4人が水晶玉をマジマジと見ていると、そこに誰かが近づいてくる。そう、それは偽勇者の4人だった。
「もしかして、あなた達が・・・」
4人が偽勇者達の方へと振り向くと、シャル答える。
「えぇ、そうよ」
そう答えると、偽勇者の4人はその場に土下座をし、謝罪をし始める。しかし、シャル達にとって必要なのは謝罪ではなく「どうしてこの様な事をしたのか」であった。それを問うと、偽勇者のシャロが話始める。
「アタシらは元々流しの大道芸人だったんだ。色々な事をやってて、自分で言うのもなんだけど、中々に人気があったんだよ。でも、ある日、技で失敗してアタシが大怪我しちゃってさ。それ以来、芸をするのが、いや、失敗するのが怖くなっちゃってさ。しかもこの御時世でこういうのを楽しむ人が減ってきて、食い扶持も無くなって困ってた頃、貴方たちの話を耳にして「これだ!」って思ってやり始めたんだ・・・」
「そう・・・」
「アタシらだって嘘で人から金を取るなんて悪いとは思う!でも、これをやるしかないし、こんな嘘でも喜んでくれる人がいるんだよ!」
「それはアナタ達の悪行を正当化しようとしてるだけよ」
「そう・・・。そうよね・・・」
シャルは偽勇者達に怒りの感情は無かった。しかし、どんな理由があろうと彼女らを許すわけにもいかない。
「あの時。あの時アナタ達は魔族に立ち向かう勇気を見せてたよね?その勇気があれば失敗する怖さだって大丈夫よ。それに、私達がやった時みたいに喜んでくれる人たちは居るし、なにより、私達に芸を見せてくれたアナタ達の姿は輝いていたわ」
「勇気?あれはただ失望されたくなくてやっただけよ。でも、もしかすると、あなたの言う通り、怖がらずに芸を続けてたら良かったかもしれないわね・・・」
偽勇者達は自分達のやってきた事を、いや、それ以前から間違えてしまった自分達の事を振り返り、寂しそうな顔を浮かべる。
その後、シャル達は偽勇者達を詐欺の罪でガイムールの行政に引き渡すのであった。偽勇者達は抵抗する事なくそれを受け入れている様子であった。シャルは少しでも罪が軽くなる様にと頼んではみたが、その結果がどうなるのかは行政機関が決める事である。
偽勇者を引き渡すとシャル達は街を後にし、大臣に頼まれた洞窟の調査へ向かうのであった。と、その時。
「なあ。歩いて行くよりもさっきのフレームゴーレムにみんな乗った方が早いんじゃないか?飛べる様だしよ」
「確かに!ねぇ、シャル、やってみない?」
「そ、そうね」
シャルは鞄から水晶玉を取り出す。
「確かこうだっけ?ヴァリエンデ!」
サクヤの真似をし、ヴァリエンデを呼び出す。
「ヴァリエンデ!私達4人を乗せてくれ!」
シャルがそう言うと、ヴァリエンデは4人を胸の玉へと吸収する。
「・・・なあ。もう少しどうにかならねえか?」
「えぇ・・・」
シャルとミリアムはコックピットの座席に座っているが、座席はその二つしかないため、余った狭いスペースへウォードとトロンが押し込まれる形になった。
「ちょっとウォード!変な所触らないで!」
「触ってねえよ!」
すると、トロンが提案をする。
「なら、私とウォードをこのヴァリエンデの手の上に乗せて歩くと言うのはどうでしょう?」
「分かった。お願い、ヴァリエンデ」
そうすると、ヴァリエンデは胸の前に左手を出し、そこに二人を移すのだった。
「おぉ、これなら・・・。って、下見るもんじゃねぇな」
「シャルロット、歩いてみてください」
シャルはヴァリエンデを歩かせ始める。しかし数歩歩くと、トロンが音を上げ始める。
「シャルロット!止まって!止まって!」
コックピットに乗っているシャルとミリアムは感じないが、外に居る二人は激しく揺さぶられたため気持ち悪くなってしまったのだ。
「やっぱり、普通に行こうか」
「えぇ、そうね」
4人はヴァリエンデでの移動を諦め降りると、再び自分達の足で歩き始めるのであった。
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