第26話 最強の幼馴染みが気付いたら心の支えになっていたようです

「まず、わたくしがここにいるのはハイネの見舞いだけが理由ではない、仕事としてもここに来ているんだ、どこから話そうか……」

 全員がそれぞれ耳を傾ける中ララはそう切り出すがその後少しだけ逡巡した様子を見せるから

「……学校は、どうなったのか聞いても……?」

 まずは一番気になっていたことをこちらから質問する。

 私は確かにこの場にいる人達とばかり交流しているが別にクラスメイトや他の人と全く繋がりがないわけではない。

 教室に入れば挨拶がてら軽い雑談をする相手もいるし、何故かいつも学食でばったり出会って会釈しあう人だっている。

 このスターダストインパクト事件のイベントはそんな全校生徒を巻き込んだ末の凶行で、ゲームプレイ中にもそんな人達の訃報を聞かされて似合わなくも泣きそうになった記憶がある。

「校舎は半壊、現在復興中、寮には特に何もなし、生徒達は……怪我人は多数だが奇跡的に祝日だったこともあって今のところ死者は一人も出ていないと聞いている、殆どの生徒の怪我の理由はお前と同じように瓦礫に当たったこととかそれくらいで、一番の重傷がお前だよ、連絡を受けたときは私は腰が抜けるかと思ったさ、父様もとても心配していた」

「そう、ですか……」

 ララの説明を聞いて内心ホッと息をつく。

 とりあえず死者が出ていないのだったら本当によかった。

 だがそれと同時にやはり考えるのは原作との解離点。

 原作では起きたら最後の酷いイベントだったのに何故この世界ではそんなことになっているのか、それがどうしても分からない。

 でも、ひとつ仮説を立てるのであれば気を失う瞬間に思い至ったあれだ。

 私以外の転生者がいて私の原作改編に抗っている。

 おそらくだけど、それしかない。

 そうすればあの魔力探知を誤作動させた機械の説明だって出来てしまうのだから。

 私が元々いた世界の文明を使えばあんな機械くらい作ることも可能だろう。

「この事件の妙なところはこれだけのことをしたのに犯人が依然不明なことと目的も勿論分からないところ、何せ攻撃は全て校舎の表面上ばかり狙って行われているからね」

 そんな考察をしているうちにもララはどんどんと話を進めており、それは聞いていないことにまで行き着いて、私が少しだけ疑問を持ち始めた時、一番に反応したのはアベルだった。

「……何故そこまで細部を話すんですか? 私達一般生徒に」

 言われてみればその通りだ。

 たまたまその場に居合わせただけの私達にそこまで伝える義務はない。

 流石というかなんというか、こういう時に一番に気がつくのはいつだってアベルだ。

「……やはり感が鋭いねアベル様は、ひとつは簡単な理由、前回の事件で狙われていたのがユーリだから今回もその可能性が高いこと、そしてもうひとつは……あまり言いやすい理由でないのだが」

 ひとつめの理由を語った後にララは少しだけ口よどんでそれから

「上層部にはこの中に事件に関わる関係者がいると予想しているものがいるから、だ」

 覚悟を決めたようにそう、付け足した。

「そ、んなこと……あるはずないじゃないですか!」

 私は背中の痛みも忘れて思い切り身を乗り出そうとするけど、それをユーリが優しく押し止める。

 推しに触れられてるこの状況、普段だったらにやにやしてしまうようなそれも、ララの発言の前にはさすがに霞んでしまう。

「わたくしだって疑っているわけじゃない、ここにいるのは少なからず地位の高い者達と被害者だけ、シグナくんに関して言えば魔法適正が低だからこんな天体魔法は使えないから除外される、だけど……それら全てに当てはまらない人物も一人、いるだろう」

 ララの説明に一人の人物に視線が集まる。

 爵位を持たず、被害者ではなく、魔法適正は最上で、高度魔法も扱えるから天体魔法という高度な魔法を使えるという点もクリアしている唯一の人物。

 そう、セリムにだ。

「ハッ、遠回しに言うなんてララ様らしくないんじゃないですか、つまりは……元ストリートチルドレンで、魔法適正が最上のオレは容疑者候補ってわけだ、自分でピンチ作ってそれ救うヒーローして今度は自分で負わせた怪我の心配して怒ってるフリしてるってことですよね、それが事実なら、随分器用じゃないですか?」

 皆の注目を浴びたセリムはわざと挑発するような物言いでララに食ってかかる。

 こんな自分を卑下しながら他人をバカにするような物言いは、今のセリムらしくない。

「……セリム、言い方に気を付けたほうがいい、彼女はあなたの主でもあるだろう」

 そんなセリムに注意を促したのは同じ騎士のシグナだった。

「残念なことにオレの主はハイネだけなもんでね、それ以外のやつにはただの礼儀のなってないストリートチルドレン上がりのクソガキでしかねーんだよ……!」

 言ってしまえばシグナの言葉は至極当然の発言だったのに、それにさえ食ってかかるように静かに怒りながら、セリムはまた椅子から立ち上がる。

「……セリム」

 私はベットの上から静かにセリムの名前を呼んだ。

「今度はハイネ様ですか、ああ、あんたもオレを疑ってるってわけ?」

「セリム、落ち着きなさい」

「っ……」

 それにも怒りを露にして隠そうともしないセリムに私はただただ静かに、冷静を装って、また、声をかける。

 普段は必要以上にうるさい私がいきなりそんなことをすれば面食らうわけで、セリムも握っていた拳を緩めた。

「今ここにいる誰も、あなたを疑ってる人なんていないわよ、少なくとも……私はあなたを疑ってない、数値で言うなら百とゼロって言っても過言じゃないわ」

 それをしっかりと見届けてから、私は周りの人達の代弁を勝手にして、それから今度はしっかりと自分の意思を伝えた。

 起きてから最初にセリムと話した時だってそう。

 決してセリムが犯人だとは疑っていなかった。

 ただ、こんなに優しいセリムが現実世界ではクズのように描かれていることに軽い憤りを覚えて言葉が出てこなかっただけ。

 環境さえ用意されればこんなにもしっかりした好青年に育つのだから。

「同感だ、セリムはそんなことしない」

「そうだね、彼はそういうこそこそするタイプじゃない」

 シグナとアベルがまず私の言葉に同調する。

「……っ、私もそう思います」

 それから瞳に膜を張った涙を拭ってユーリも強く頷く。

「ボクは、そこまで彼のこと知らないけど周りがそう言うならそうなんじゃないのー」

 アニは、いつも通りの感じだけど一応擁護はしてくれているようで

「……」

 みんなの言葉を聞いたセリムが少しずつ怒りで固まっていた表情を憑き物が落ちたように崩していく。

「……まぁ、皆落ち着くんだ、私もそんな憶測信じていない、というかそんな予想してるのは本当にごくわずかだよ、君のことを知ってるものは皆鼻で笑ってるさ、それに信じてたらそもそも面と向かっては話さないだろう本人に、話すとしても拘束してからになる、相手が相手だからね」

 そして次にみんなの視線の的になったララが慌てて補足をするからベットから滑り落ちるかと思った。

 私の姉ながらあんな言い方をしてあそこで言葉を切れば要らぬ誤解を招くって何で分からないかな……

 本当に天然な人で困る。

 本当に。

「……あっ……そう、ですよね、すいません、熱くなって……何か、ハズイな今日のオレ……」

 セリムはセリムで結果として勘違いしたのが恥ずかしかったのか顔を真っ赤にしながら視線を泳がせて辿々しく謝りだす始末。

「こほん、とりあえず、伝えた理由は二つ、これ以上目立つのはおすすめしない、今回のこれは目立ちすぎたが故に火のないところで立った煙だからね、これ以上君達のいるところで問題が起きていけば、いずれは色々と言い出すものも出てきかねないし、そうなっては庇いきれない、後のひとつは、今まで以上に気を付けるべきだ、ユーリ・ローレライと一緒にいる以上、勿論本人もね、とまぁ、そういう警告をしに来た、ということになるかな」

 ララは咳払いして場の空気を一蹴してから最初からそれを言って欲しかったって内容をポンポンと吐き出していく。

 だけどそれを聞いた限りだと

「……それ、別にララお姉さま直々じゃなくても良かったんじゃないんですか……?」

 そう、わざわざ公爵令嬢であるララが出る幕とも思えない。

 騎士団には知り合いもいるし、最悪手紙づてでもどうにかなる話ではないだろうか。

「……最愛の妹の見舞いに来るのにちょうどよかったのでね、内情にも詳しいからと自分から志願したんだよ」

「……成る程」

 少しだけ気まずそうにははっと笑ってそう溢すララに私は納得するしかなかった。

 ちょっと好感度稼ぎすぎたかなこれ。

「それに、セリムは弟みたいなものだしね……なぁハイネ」

 ララはそれから一瞬セリムのほうへ視線を流して、すぐに私の目に自身の目線をかちりとはめ込んで真剣な声色で名前を呼んだ。

「……なんですか?」

 何か、今までの茶番とは違う真剣な話があることはすぐに察っしたので私もまた背筋を伸ばして聞く体制を取る。

「なんであそこまでセリムが怒ったのか、理由は分かってるかな? わたくしとしては、セリムの気持ちが分かるどころか内心では同意してるくらいだよ、例えそれがお前を守れなかった自分への叱咤が含まれていようともね」

 ララの言葉にぐっと強く息を飲む。

 生まれてすぐからではないにしろ七年間ずっと姉妹をしてきた相手だ。

 その真っ直ぐな瞳の中に怒りの炎を燃やしているのは嫌でも理解できた。

「何故、怒ったのか……」

 反芻しながら考え込んでみるけどどうしたって結論が出ない。

 だってユーリは怪我してなくて、私も死んではいない。

 一番最善の策だったと今でも豪語出来るくらいには完璧だった筈なのに。

「……横やりを入れる形になるが、一度立場を入れ換えてみたらいい」

 そこで助け船を出してくれたのは意外にもシグナだった。

「入れ換える……?」

 私は言われた言葉をそのまま返す。

 誰と誰の立場を入れ換えろというのだろう。

「もし、今回庇ったのがお嬢様で、庇われたのがハイネだったらどう思う? しかもそいつは跡が残るって宣告されても笑って言うんだ、あなたに怪我がなくてよかった、自分のことなんて気にしないてってな」

「そ、れは……」

 嫌だ。

 絶対に。

 私のせいでユーリに消えない傷を残すなんて、死んでも死にきれないくらいには。

 それに、もしこれで私を庇ったのがセリムで、笑ってこれくらい、なんて言われれば怒る自信も、あるのが結果としてはすべての答えだった。 

「……そうね……ねぇセリム、私が間違ってた、ユーリを守れて有頂天になってて、また周りが見えてなかった……嫌なこと言って、ごめんなさい、ユーリも……勝手に舞い上がってあなたの涙を無下にしたわね……ごめんね」

 私はそれぞれ二人のほうを向いてしっかりと謝る。

 自分が悪いと思ったことはちゃんと自分から謝る。

 それは前世から続けてきた自身の生きる上での抱負のようなもの。

「……」

「……セリム?」

 だけど、ユーリは何か思案下な表情をした後にコクりとだけ頷いてくれたがセリムは地面とにらめっこして顔をあげようとはしない。

「……ちょっと、頭冷やします、ララ様、あとはよろしくお願いします」

 だからもう一度名前を呼んだけど、セリムはそれだけ言うと早々に病室から出ていってしまった。

「セリム……」

 また、選択を間違えてしまったのだろうか。

「……セリムにも色々と整理する時間が必要なんだよ、今はそっとしておいてあげたほうがいい」

 そんな不安に刈られそうになった私を慰めたのは、アベルだった。

「……そうね」

 アベルの言葉をしっかりと飲み込んで、そう答えたけれど、やっぱり頭のなかの不安は消えてはくれなくて、自身にとってのセリムという存在がどれだけ大きなものだったのかを、実感させられた。

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