第31話
「えー、それではこれから行われるゲームについて説明を始めるっすよ。ゲーム名は『勝利の毒杯』っす」
「……『勝利の毒杯』?」
――何とも不穏な名前のゲームである。
「意味合いとしては、勝利したはいいが、その代償として大きな不幸や苦痛を伴う状況を指す比喩表現だな。国家間の戦争に辛くも勝利するも、その過程で多くの人々が命を失ってしまったり、競争社会でライバルから何とか勝利をもぎ取るも、疲弊して体を壊してしまう、なんて場合がそれに当て嵌まるだろう」
「躑躅森先輩、長々とした糞どうでもいい説明ありがとうっす」
馬酔木が明後日の方向を見ながら躑躅森に礼を言う。
「……で、馬酔木君、肝心のゲームの内容は?」
彩羽が説明を促す。
「ここに赤青二色の紙コップがあるっす」
そう言って馬酔木がそれぞれの色の紙コップを伏せた状態で5つずつ机の上に並べる。
「赤が厚本さん、青が花屋君が持つ聖杯になるっす。二人が『ミニゲーム』で戦って、勝った方が相手の聖杯を一つ奪うことができるっす。相手が持っている色の聖杯を先に二つ奪った方の勝ちとするっすよ」
「…………?」
ルールを聞いてもイマイチ意味がわからない。
「……えっと、『ミニゲーム』っていうのは何をするんです?」
「それは別に何でもいいっす。ジャンケンでもコインでも、兎に角、勝敗がつくものなら何でも。ただし、勝ったときに奪える5つの聖杯の中には2つ毒入りの杯が紛れ込んでいるっす」
馬酔木がそう言って、今度はオレンジ色のピンポン球を4つ机の上に置いた。
「このピンポン球を毒とするっす。勝負に勝って聖杯を奪っても、毒入りの杯を取ってしまった場合はポイントは無効。毒の入っていない空の聖杯を2つ手に入れることが勝利条件になるっす。誤って毒入りの紙コップを2つ取ってしまった場合は、致死量に達してその時点で死。負けが確定するので注意が必要っす」
「…………」
なるほど。仮に『ミニゲーム』で相手に勝って聖杯を奪ったとしても、それがピンポン球入りだった場合、勝った側がダメージを被ることになる。つまり、必ずしも勝って聖杯を手に入れることが有利とは限らないということだ。
「……ということは、5つの紙コップのうちピンポン球が入っているかいないかは完全な運ゲーになるということですか?」
花屋が右手を真っ直ぐに挙げて質問する。
「うーん、まァそうなるっすね。ただし、プレイヤーは一回だけ、相手の聖杯を『チェック』することができるっす」
「……『チェック』?」
「『ミニゲーム』に勝利して相手から聖杯を奪うとき、聖杯の中からどれか一つを指差して『チェック』をコールすると、相手は指定された紙コップを持ち上げなければならないっす。もし中にピンポン球があった場合は、その紙コップを避けることができるっすよ」
相手が持つ5つの聖杯のうち、一つだけ持ち上げさせて中を『チェック』できる。ここで中からピンポン球が出てきたら、その杯は避けて他を選ぶことができる。『チェック』した聖杯に何も入っていなければ、手堅く一つ目を奪うこともできるということだ。
「他に細かいルールとしては、紙コップの中に入れていいのはピンポン球だけとするっす。ピンポン球以外の物を紙コップの中に入れたことが発覚した場合、その時点で反則負けっすよ。何か質問あるっすか?」
「毒入りの杯は必ず2つ用意しなければならないのですか?」
そう言ったのは花屋である。
「……えーと、花屋君、さっきまでのルール説明聞いてたっすか? プレイヤー一人につきピンポン球は2つ使えるっす。それなのに毒杯を2つ用意しない馬鹿はいないっすよ」
「なるほど。つまり、毒杯は2つ用意しなくてもルール上は問題ないという理解で宜しいですね?」
「……何を言ってるかよくわからないっすけど、それで勝てると思うなら、まァ好きにすればいいっすよ」
「…………」
馬酔木同様、わたしにも花屋が何を言っているのかさっぱり意味がわからない。
――花屋は一体何を企んでいるのだろうか?
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