第30話

 ――そして、放課後。


 わたしと花屋はなや躑躅森つつじもりの三人が図書室に入ると、黒縁眼鏡に三つ編みお下げの真面目そうな女子生徒と、背の高い総白髪の男子生徒がわたしたちを待ち構えていた。


「おんやァ、これはこれは、負け犬の躑躅森先輩じゃないっすかァ」


 白髪の男子生徒が躑躅森を見て嘲るように笑う。


「自ら選定したご自慢のを立て続けに二人も破られ、あまつさえその軍門に下るとはねェ。ぐふふッ、今どんな気持ちっすか? 惨めっすか? 惨めっすよねェ?」


「……馬酔木あせび、貴様ッ!!」


 躑躅森が白髪の男を鋭く睨み付ける。


「いやァ、怖くない、怖くないっすねェ。負け犬にキャンキャン吠えられたって、ただ可愛らしいだけで全く迫力ないっすよ、躑躅森先輩」


「……ぐッ」


 躑躅森は何も言い返せず、拳を握り締めて黙り込む。


「はい、馬酔木君、ストップ。弱いものいじめは格好悪いぞー」


 そこで三つ編み眼鏡が白髪男、馬酔木を制止する。


「……どうも、うちの馬酔木君が失礼致しました。私は図書委員会・委員長の厚本あつもと彩羽いろはと申します。こっちは生徒会・書記の馬酔木白夜びゃくや君。花屋君、今日は楽しいバトルにしましょう」


 彩羽がニッコリ笑って花屋に向かって静かに右手を差し出す。


「こちらこそよろしくお願いします、厚本先輩」


 花屋が彩羽の手を握る。


嗚呼ああ、女の子の手ってこんなに柔らかいんですね」


「……花屋君、その発言は流石にキモいと思う」


 わたしがドン引きして花屋に言う。


「……オホン。それで躑躅森先輩に馬酔木先輩、今日は何のゲームで遊ぶのですか?」


「ふふふ、花屋君はせっかちでいけないっすねェ。ゲームの説明の前に、まずは賭け金を決めておきましょう。そちらの手持ちは今幾らくらいあるっすか?」


加岳井かがくい先輩から20万、卍山下まんじやました先輩から110万手に入れたので、そこに元々あった10万を加えて合計140万円ってとこですね」


「……おんやァ、それは違うっすよねェ? 間違いっすよねェ? 計算ちげーよなァ? まだそこにいる負け犬から借金200万できんだろーがよォ。厚本さんとの勝負は340万円からしか受け付けらんねーっすねェ」


「……なッ!?」


 ――何だコイツは!?


 突然態度を豹変させたかと思ったら、花屋に生徒会から借りられる限度額いっぱいまで借金させようとしている。


 これは明らかな威圧行為。相手に200万の借金を背負わせることで、心理的なプレッシャーを与えようという作戦だろう。


 馬酔木白夜。この男は危険過ぎる。


「……あー、なるほど、なるほど。そういうことですか。でしたら馬酔木先輩、この勝負、キリよく500万円にしませんか?」


 ――しかし、その手は花屋には通用しない。


「…………は?」


 心理的揺さぶりを仕掛けた筈の馬酔木の方がポカンと口を開けている。


「……えーと、花屋君、君、一体何を言っているっすか?」


「借金した金を賭けるのがありなら、僕の臓器を売って手に入る金を賭けるのだって当然ありですよね? 僕独自のコネを使えば、それでもうあと150万くらいは都合が付くでしょう。どうせなら限度額いっぱいまで賭けようじゃありませんか」


「…………」


「ぷッ、くははははははッ!!」


 そこで躑躅森が可笑しくて堪らないというように吹き出した。


「悪いな、馬酔木。コイツは頭のイカれたギャンブル中毒者ジャンキーでな。金も自分の命すらも、ギャンブル対決の為のチップとしか考えちゃいない大馬鹿野郎なのさ。貴様のちっぽけな常識が通用する相手じゃないんだよ。で、どうする馬酔木? そっちが無理なら340万の勝負でも、こちらとしては一向に構わないが?」


「……急に饒舌になってまァ。何にせよ、躑躅森先輩が元気になってくれて何よりっすよ」


 馬酔木は何とかそう言い返すが、弁舌に先程までの歯切れの良さがない。


「うふふ。馬酔木君、これは一本取られちゃったね」


 彩羽はあくまで余裕の構えを崩さず、わたしたちに向かって微笑みかけた。


「花屋君がそれでいいのなら、私としてもこの勝負に500万円賭けるということに異論はないよ。うーん、このギャンブル対決、何だか楽しいことになりそうだね」

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