第3章 それぞれの思いの始まり
第6話 車内での電話、それって独り言?
帰宅ラッシュの19時。満員電車の中で、山口が小声でしゃべっている。
「え、マジっすか?いや、たぶん間に合うと思いますけど…」
イヤホンにマイクがついているのだが、傍から見ると独り言を言っているように見える。近くにいた佐藤は、ちらりと見るが、何も言わない。
後ろの小林が小さく咳払い。
「すいません、電車の中って通話NGだったような…」
「…あ、ごめんなさい」山口は慌てて通話を切る。
電車の揺れに任せて、それ以上の会話はなく、次の駅で佐藤が降りていった。
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第7話 忘れ物は誰のもの?
朝のベンチに、ひとつの傘が忘れられていた。中村が気づいてそれを手に取り、近くにいた田中に声をかける。
「これ、誰かのですかね?」
田中は「いや、たぶん…置き忘れ。駅員さんに持ってったほうがいいよ」と言いながら、スマホを見たまま軽く頷く。
そこに通りがかった斉藤駅員。中村が傘を差し出すと、「ありがとうね。意外とこういうの、届けてくれる人少ないんですよ」と笑顔。
田中がふと顔を上げて、中村に一言。「いいことしたな。今日はなんか、運がよさそうだ」
でも、電車はその瞬間、ちょうどドアが閉まって出て行った。
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第8話 並んでる?並んでない?
朝のコンビニ横、ホームの売店。パンを買おうとした小林が、前に立っていた佐藤の横に並ぶ。
そこへ、後ろから声がする。「すいません、並んでますか?」
振り向くと山口。小林と佐藤、どっちが前か、微妙な立ち位置だった。3人とも一瞬沈黙。
「えっと…私はまだ決めかねてただけなので、どうぞ先に」佐藤が一歩引く。
山口はぺこりと頭を下げ、パンとコーヒーをレジに出す。
「すいません、朝からめんどくさいこと言ってしまって…」
「いえ、こういうのよくあるので」と小林。
電車の時間が近づく中、誰かの小さな譲り合いが、ひとつだけ空気をやわらかくしていた。
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