第28話 ムリゲー

 目を開けると美少女の泣き顔があった。


 え? なんで泣いてるの?


「ルーちゃん! 良かった! もう目覚めないのかと」

「なに? なんで泣いてるの?」


 後頭部の柔らかい感触を素直に楽しめない。折角のステラの膝枕だというのに。


「ボス、心臓が止まってたの」

「え? マジ?」

「マジっす。死んだかと思ったっす」


 私に覆いかぶさっていたスーとルクは、ぐりぐりと頭を押し付けてくる。


「えっと、心配かけてごめんね」


 スーとルクの頭を撫でると、二人は顔を上げ赤くなった目で私を睨む。


「仕方ないの。スーはとても心が広いの。だから許してあげるの」

「はいはい、ありがと」

「今度から、生き返るなら生き返るって先に言ってほしいっす」

「ごめんよ。死ぬとは思わなかったから」


 そういえば、オーガはどうなったのだろう。この感じだと、ちゃんと倒せたんだと思うけど。


「オーガはどうなったの?」

「わたくしには、言う事はありませんか?」

「えっと、ステラは泣き顔も素敵だね」


 ほっぺをつねられた。褒めたのに。


「はっきり言っておきます! わたくしはもうルーちゃん無しでは生きていけません! ルーちゃんが死ねばわたくしも死にます! わたくしに死んでほしくなかったら、絶対に死なないで下さい!」


 メンヘラ? ヤンデレ? よくわからないけど、激重だね。嫌いじゃないよ。


「なら、ステラに死んでほしくないし、死なないように頑張るよ」


 右手でステラの頬を撫でると、ステラは目を細めて私の手を両手で包み込む。


「あ、あー、水を差して悪いが、いちゃいちゃするのは街に戻ってからにしてくれないか」


 ヴィアラッテさんが呆れたように私達を見下ろしていた。


「あ、ヴィアラッテさん。最後ナイスアシストでした。助かりました」


 後頭部の感触を名残惜しく思いつつ体を起こす。ヴィアラッテさんは、苦笑混じりの切な気な表情で首を横に振る。


「いや、僕の方こそ君達に助けられた。君達は本当に凄いな。僕が手も足も出なかった魔物を倒してしまうなんて」

「ヴィアラッテさんが呪いの存在を教えてくれたからですよ。最後も、ヴィアラッテさんがオーガの動きを止めてくれたから倒す事ができました」


 実際、スーとルクに呪いをかけられていたらヤバかったし、ヴィアラッテさんが動きを止めてくれなかったら魔法は間に合っていなかった。私達が勝てたのは全部ヴィアラッテさんのおかげじゃないか。

 ヴィアラッテさんが差し出した手を掴み立ち上がる。


「ヴィアでいいよ。親しい者はそう呼ぶ。それと、無理に敬語を使う必要はない」

「え、じゃあ、ヴィアお姉ちゃんって呼んでもいい?」

「構わないが、君はそれでいいのか?」


 やったー! 念願のお姉ちゃんを手に入れた! 妹も可愛いけど、私はずっとお姉ちゃんがほしかったんだ。


「では、そろそろ街に戻ろう。原因を除いたとはいえ、すぐに異変が収まるわけではない。ここに留まるのは危険だ」


 ヴィアお姉ちゃんの指示に従い、街に戻る。オーガもクレッセントベアも死体は消し飛んでしまったから、素材は何もない。

 スコアには記録されているから、討伐報酬はちゃんと貰える。記録されてるよね?

 スコアを確認すると、二体の討伐はちゃんと記録されていた。ご丁寧に魔王軍三二神将というのも書かれている。


 あと、クレッセントベアではなく、スペリオルベアという上位種だったらしい。素材を採取できなかった事が悔やまれる。

 ついでにS×3ランクになってる。ステラ達もランクが上がっていたようで、随分と喜んでいた。


 それにしても、三二神将か。あんなのが、いや、もっと強いのがあと三一体もいるのか。先は長いなぁ。



 街に戻ると、そのまま冒険者ギルドに向かった。ヴィアお姉ちゃんは、ベルディグの森の異変を調べる依頼を受けていたらしい。

 ヴィアお姉ちゃんはギルドマスターとやらに直接の報告する為、奥の部屋へ入っていった。


 私達はとりあえず、受付でゼニスさんに依頼の報告をする。

 そういえば、倒したのクレッセントベアじゃなかった。大丈夫かな?


 その事をゼニスさんに伝えると、ゼニスさんはぺこぺこと頭を下げて謝ってきた。


「申し訳ありません! こちらの不手際で、皆さんを危険に晒してしまいました!」


 皆無事だったから、結果オーライではあるんだけど、大問題ではあるよね。

 でも、見た目は大きさ以外クレッセントベアと変わらなかったし、間違えるのも仕方ないのかもしれない。


 そもそもあいつはイレギュラーみたいなものだろう。それでギルドを責めるのは可哀想という気もする。


「とりあえず、報酬は貰えるんですか?」

「勿論です! SSランク、スペリオルベアの討伐報酬200万Mと、ギルドの不手際による慰謝料100万M。合計300万Mになります」


 300万! なんてこった! 一気にお金持ちになってしまった!


「準備しますので、少々お待ち下さい」

「あ、ちょっと待って下さい」


 奥の部屋に向かおうとしたゼニスさんを呼び止める。

 スペリオルベアに討伐報酬があるのなら、フレイムオーガにもあるのではないだろうか。


「あの、一緒にフレイムオーガというのも倒したんですけど」

「フレイムオーガ!?」

「あ、はい。なんか、魔王軍三二神将とか言っていました」

「幹部を……本当に倒してしまったのですね」

「たまたまですけどね」


 目を見開くゼニスさんは、まじまじと私を眺めて、フッと笑みを浮かべる。


「おめでとうございます、ルキアさん。魔王軍幹部、三二神将フレイムオーガの討伐報酬は2000万Mです」

「にっ!」


 びっくりし過ぎて変な声出た。300万でも凄いと思ったのに2000万なんて。それだけあったら、皆にもっと良い装備をたくさん買ってあげられる!


「貴女なら、本当に魔王様を倒してしまうかもしれませんね」

「いやー、まだまだ先は長いですけどね」


 あれ? 今なんて言った? 魔王、様?


「そうですね。魔王軍幹部は魔王以下、補佐、秘書、右腕、双極、三羽烏、四天王、六武衆、八天神、一六天将、三二神将の七四体ですからね。その内の一体、それも最弱の三二神将を倒したくらいで気が早かったですね」


 いや、多すぎ! てか、ゼニスさん、詳しいな。そんな話ステラからは聞かなかったし、攻略本にも書いてなかったよ。


「ふふ、不思議ですか? 私がここまで魔王軍に詳しい事が」


 ゼニスさんは目を細め楽し気に笑う。


「それはですね、私が魔王軍幹部だからですよ」


 にっこりと、一切の敵意を感じない笑みを、魔王軍幹部を名乗るゼニスさんは私に向ける。


「改めまして、魔王軍四天王、空帝龍ゼニスと申します。魔王様を倒すおつもりでしたら、いつか戦う事があるかもしれませんね」


 待って、情報量が多くて脳が追い付かない。えっと、魔王軍の幹部は七四体いて、私達が倒したフレイムオーガはその中で最弱。

 ゼニスさんは実は魔王軍四天王で空帝龍。空帝龍!?


「あ、先に言っておきますと、ルキアさんが隷属させたイグニアは魔王軍とは無関係ですよ。あの子の前任の炎帝龍は四天王の一体でしたが、あの子はまだ生まれて一〇〇〇年程しか経っていなくて弱いですから。まあ、そもそも魔王軍に興味なさそうでしたけど」


 一〇〇〇歳のイグニアを子ども扱い。この人、龍? 何歳なんだ?


「女性に年齢を聞くのはマナー違反ですよ」


 当然のように心を読まないで下さい。


「因みに、私のランクはS×18です」


 は? 化け物じゃん。四天王の時点で人類最高ランクを軽く超えてるんですけど? その上にまだ三羽烏、双極、右腕、秘書、補佐がいて、更にその上に魔王がいるんでしょ? ムリゲーじゃん。


「因みに因みに、魔王様のランクはS×25です」


 もうめちゃくちゃだよ。なんで人類まだ生き残ってるんだよ。セレーネさんは、私一人でこれがどうにかなると本気で思っているのか? 何が、少しばかり調整を間違えた、だよ。いや、わかっていたよ? わかっていたけどさ、セレーネさんさあ。さすがにさあ。


 調整ミスにも限度があるでしょ?

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女神様、調整ミスにも限度があります 結城ヒカゲ @hikage428

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