第56話 「川田恵麻」の話(ヨセフ編・エピローグ2)

※エマ視点


 ……後ろから、すごい視線を感じる。


 私は最近、ヨセフ様の優しさの色が変わってきたことに気づいた。

 

 もともと優しい人だったけど……なんというか、仕事仲間や友達に向けるような感じじゃなくなった。

 私に向ける視線に、熱がこもるようになってきた。


 これの正体を知っている。

 現代日本にいた時がっつり“レガサガ”にハマり、ガチオタになる何年か前までは彼氏がいたことはあったから。


 ヨセフ様は、私に恋してるんだ……。

 

 確かにヨセフ様のことは推しだ。

 誰にでも優しく、力を正しいことに使える理想の男性そのものだ。

 実際に接し始めてからも、彼の人柄や内に秘めていた弱さに惹かれている。

 私もヨセフ様が好きだ。



 でも、その先は?

 私は……どうしていいか、わからない。





* * * * * *




 私──傭兵団で働き始めて名乗った「エマ」ではなく、日本にいて社会人として生きていた「川田かわた 恵麻えま」の話をしよう。


 小さい頃、活発で落ち着きがなさすぎて両親や弟からは「じゃじゃ馬娘」とか「サル」とか言われていた。

 家族にも友達にも比較的、恵まれていた方だと思う。

 成績は普通。

 でもプレッシャーに負けて受験に失敗して、大学はあんまりいいところには入れなかったかな。

 受験後は上京して、バイトとか大学生活とか謳歌しながら暮らしていた。

 その後は順調に社会人になって、ロイドに召喚されるまでは働いていた。


 恋愛面では……。

 さっき言っていた通り、何人かと付き合った経験はある。


 でも彼氏がいても、いつも駄目になって結局別れる。

 元彼たちは、皆去っていく時口々に言う。


『お前、もうちょっと女らしくできないのかよ』

『そんな大口開けて笑うなよ……。萎えるわ』

『お前のこと段々彼女っていうより、男友達に見えてきてときめきがなくなってきた』

『最初は面白い子だと思ったんだけど……。やっぱり俺、おしとやかな子がいい』

『君より、あの子の方が好きになっちゃったんだ』


 最初は面白がったり気が合って付き合う。

 でも結局、私の性格のせいで皆離れて行ってしまう。

 浮気されたり、「別れよう」って相手から言われたりして……全部、全部終わる。

 だから乙女ゲームにのめり込んで、現実の恋愛から遠ざかるようになった。


 乙女ゲームにハマっていた時は、楽しい。

 攻略対象は皆、プレイヤーのことを無条件で大事にしてくれるから。

 エンディングでは「君だけを愛してる」と囁き、一生そばにいると誓ってくれる。



(私も……こういう風に言われたかったな)


 画面のスタッフロールをぼうっと眺める。


 ──乙女ゲームのヒロインが羨ましい。


 私はキラキラした絵柄のタイトル画面に戻って、美少女のヒロインのイラストを見ながら、いつも嫉妬と憧れを抱いていた。





* * * * * *




 ヨセフ様が不誠実な人間とは思っていない。

 でも……もしも私と付き合って、また幻滅されたら?


 自分一人で恋人同士になる妄想をするのは、確かに楽しい。

 だけどそれは結局、「自分に都合のいいヨセフ様」でしかない。

 実際に付き合うのとはまた違う。

 価値観の違いだってあるかもしれない。

 すれ違いがあるかもしれない。

 そんな中でヨセフ様が「もっと違う人がいい」と気づいてしまうのが、怖い。



(もう、誰かの通過点になるのはだなあ……)

 

 曇り空を見上げる。

 初雪がぽつぽつと、降り注ぐ。

 私の顔に落ちる。

 

 私の心のように、冷たい。

 



 


続く…

* * * * * *

ここまで読んでいただいてありがとうございました。

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あとがき

https://kakuyomu.jp/users/hiroisuni2/news/16818792438747764704




 

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【旧版】社畜女、乙女ゲーム攻略対象外の推しの傭兵おじさんと異世界で放浪する。 広井すに @hiroisuni2

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