第2話 数百年の禁欲はエグいらしい、この人本当に魔王様?

全身に走る鈍い痛み——

確実に多くの場所を打撲している。人間の身体は脆い。


しかし今問題なのは長く繊細な髪がふわりと顔を覆い、横たわる俺の身体の上に大きくて柔らかいおっぱいがズシリとのしかかっていること。


これがおっぱい……なんと……エロい………そして良い匂い……


いまだに俺に抱きついて離れないその女性は、グイグイと巨大なおっぱいを押しつけ鏡餅みたいにしながら俺の胸で号泣している。


「らいんはるどぉぉ〜〜(泣)ウチだよぉ〜〜〜、ルーナだよぉぉ〜〜(泣)ざみしがったよぉぉぉぉ〜〜」


胸元を濡らす涙とだらだらの鼻水が肌に冷たく染みる。

だがそれ以上に心と身体は熱を帯び鼓動は異常な速さで脈打っていた。


人間として生きておよそ2年。異性とここまで濃厚な接触したのは初めてで、まさかここまで理性を奪われるとは思わなかった。

ダークエルフだった頃の自分にはなかった感情と欲求、それが今、恥ずかしいほどに鮮烈に目覚めてしまっている。


これがムラムラするということか……

気を抜いたら、所謂アソコが勃ってしまいかねない。

しかもその相手がルーナ様なんて……不敬極まりない……


「あああっ、あの……ルーナ様?ルーナ様ですか?大変申し訳ないんですが……一度離れて下さいませんか?」

「いやっ!!もう離れない!!ウチはもうラインハルトとずっとベタベタするの!!」

「いやいやっ、ウチ??えっ?ウチ??……しかしですね……その……あの、俺はいま、人間でして……その……感情の揺れが激しくて………」

「いやっ!もうずっとぎゅーってするの!!なんなら……えっちしたっていい!ウチも人間になったら性欲がすごいの!!何百年も禁欲してた反動はエグいの!スゥ〜〜、あーーラインハルトの匂い♡たまんないぃ〜!!」


エッチ!?何を言ってるんだ!?この方は本当にルーナ様なのか!?確かにポンコ……いや愛らしい方だったが、ここまではしたない行動やしゃべり方をされる方ではないはず……というかこのままだと俺の理性が保てなくなってしまう!!


「ちょっと!?これ以上はいけません!離れてくださいっ!!」


必死に身を起こしてみたはいいが、抱きついてくる彼女の腕は思った以上に強い。

俺はなんとか引き剥がそうと抵抗し……そんな攻防がしばらく続いた、その時——



     ぐにゅ〜ん♡もみもみ……



いかんっ!?手が滑ってルーナ様の……おおおお、おっぱいを……弾力凄っ…


「あっ♡あ〜〜〜♡ラインハルトその気になったなぁ♡」


事故だ。完全に事故。不可抗力。どうにか引き剥がそうと身体を触った時に、つい……


目の前にはジュルリと舌なめずりをしながら顔を赤らめ、息を荒くしたその女性が野獣のような目つきでこちらを見据えている。発情モードってやつ。


「ちちちっ違います!!誤解です!!」

「……いいんだよ……恥ずかしがらなくて♡」


さっきまでの勢いはどこへやら、いきなりいじらしい顔になって恥ずかしそうな声で俺をじっと見つめてくるその女性に余計困惑する。


マジでどういう勘違い!?……この方もしかしてルーナ様じゃないんじゃ!?そもそもこんなドスケベな方ではなかった!とても高貴で男を寄せ付けぬ孤高の存在だったはず……やはり偽物か!?こうなったら………〈身体強化〉!!


危機を察した俺は残された微量の魔力を使い自らに身体強化魔法を発動させた。

全身の筋肉が収縮し、常人では出せない怪力と瞬発力が身体に宿る。

その反動で翌日は動けなくなるほどの倦怠感に襲われるが、今はそれを顧みている場合ではない。


力の奔流に身を任せ、目の前の女性を一気に引き剥がすと即座に一歩後方へ跳躍し距離を取り、背後で聞こえた驚きの声にも構わず俺は状況の制御に集中した。


「あなた本当にルーナ様ですか!?もしルーナ様を語る偽物なら俺が容赦しません!」

「ちょっ、ラインハルト!?魔法使ったの!?ダメだよ、危ないじゃんここ日本だよ!!あたしルーナだって!わかるでしょ!?」

「全然わかりません!ルーナ様がそんなはしたない言葉遣いや、性欲丸出しのドスケベなはずありません!」

「えっ!?はしたない……ドスケベ………ううっ………酷い………酷いよラインハルトぉ〜〜(泣)」


俺の言葉がクリーンヒット。

服を乱したまま彼女はへたり込んで床に座り込み、肩を震わせながらその美しい顔を歪ませまた泣き出す。正直、見た目とのギャップがぱない…


「ああっ、ちょっと!?泣かないでください!!ズルいですよ!?」


涙を見せられるとどうしても心が動く。人間とは実に温い存在だ。

俺が戸惑っていると、彼女はそっと床に落ちた鞄を拾い、その中から一枚のカードを取り出してそっと俺に差し出してきた。


「………これ、ウチのマイナカード……見てよ……」


俺は少しだけ泣き止んでムスッとした表情の彼女を気にしながらそっと近づき、カードを手に取って紙面に目を落とす。


月神真皇つきがみまお………20歳………写真はルーナ様ですね……」

「名前は変わっちゃったけど……ウチだよ……ルーナ。わかるでしょ?」

「は……はあ……」


いまだに完全には信じきれない自分がいる。

だが、カードに印刷された写真と目の前の女性を見比べれば、それがルーナ様であるという結論に否応なく行き着く。


そして何より、わずかとはいえ確かに感じ取れる懐かしい魔力の胎動がそれを決定づけていた。もはや、信じる以外に道はない。


「ほ、本当にルーナ様なんですね?」

「だからそうだっていったじゃん……ウチも気持ちが高ぶりすぎて変なことしちゃったのは謝るけど。でもそれくらい嬉しかったんだもん……あと……ラインハルトだって言葉遣いとか感情の起伏が前と違うじゃん!同じだよ!」


たっ……確かに、堅苦しい話し方はしていないし、俺とか言っちゃってるし……でも流石にこんなにつよつよ清楚系淫乱お姉ギャルっぽい感じになってるなんて想像も出来ないだろ!?


「わっ……わかりました……あの、取り乱して申し訳ありませんでした……」

「いいよ………ゆるしたげる……」


気まずさ全開の空気が場を支配する中、俺はひたすら考えた。

どう話を切り出すべきか、どう切り替えるべきか。

そして、悩みに悩んだ末の結論は——


「あの、一旦仕切り直しという事で……まずは面接からはじめませんか?積もる話もあるかと思いますが……一応形として……」


そんな提案にルーナ様は眉をひそめながらも渋々了承したように頷く。


「むぅぅ……わかった……でも、面接終わったらいっぱいウチとお話してくれる?ウチずっと寂しかったんだよ?わかってる?ねぇ!ちゃんとわかってるの?」

「は……はあ……わかりました……すいません」


なぜか怒られた。俺が雇用主なのだが?

ますます拗ねた顔で睨んでくるルーナ様に思わず心の中でため息を吐く。

そして気を取り直して、俺はバラバラになった椅子や机を片付けて面接準備を始めるのだった——




次回:とりあえずおっぱい揉む?…ポンコツ魔王様は生活苦

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奥付

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〜スレンダーなのに色々でっかい地味で気弱な中田さんをゲス彼から助けた俺は、全力で彼女を可愛くしてあげたい。〜

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