第3話 とりあえずおっぱい揉む?…ポンコツ魔王様は生活苦

俺の目の前にはつよつよな雰囲気を纏う絶世の美女がちょこんと座っている——


おまけに、そのとんでもないサイズのおっぱいを当然のように机に預けている。少し重たそうに、たゆんと。ぽよんと。


おっぱいというのは人間の男にとっては天敵なのだ……

視線が吸い寄せられそうになるのをどうにか押しとどめ、俺は無理やり平常心を装って面接を強行しようとしている。

しかし、手元にあるのは顔写真と名前しか書かれていない履歴書一枚。


いやな予感がする……


「では……改めまして私、摩嶋治人まじまはるとと申します………」

「えっ!めっちゃ良い名前じゃん!じゃあ治人って呼ぶね!!」

「………こっ、コホンッ……」

「あっごめん………いいじゃん…ちょっとくらい……治人のケチ……」


いやいやケチって……


「まず……お名前を教えてください」

月神真皇つきがみまお、20歳……」

「では月神様、前職を伺ってもいいですか?」

「ちょっと!月神様はやめて!距離遠すぎ!………あ、また止めちゃったごめん……えっと……コンビニと居酒屋をちょっと……」


月神様じゃなきゃ……どうすれば……月神さん?真皇さん?


「では真皇さん……コンビニを辞めた理由はなんですか?」

「お店の冷蔵庫やフライヤーを破壊して……セクハラしてきたクソ客とクズ同僚をちょっとぶん殴って病院送りにしたら……首になっちゃって……」


えっ?マジで?………やばい、これもしかして………


「では居酒屋を辞めた理由は?」

「………焼き鳥焼いてるときに、お店ごと焼いちゃって……首になっちゃった……」


あっ……これだめだ、前世のポンコツ具合、全く直ってない……


真皇さん、もといルーナ様は一応魔王だった。

しかし、それは圧倒的な魔力と超美貌、それに人を従わせる特殊なスキルのおかげで祭り上げられただけで、実際、身の回りの世話から政治までほとんど俺たち側近がやってたのが現実だ。


「えっと、ちなみに……住所がありませんが、今どちらに住んでらっしゃいますか?」

「………うっ……ううっ(泣)……治人きいてよぉ……仕事がなくて、お金払えなくてぇ……3日前に借りてたアパート追い出されて今は満喫生活なんだよぉ……もうすぐ貯金もなくなっちゃうし……ねぇ、ここのバイトしたら寮に住ませてくれるんでしょ?それほんと?」


美しい顔にうっすらと涙を浮かべながら語るルーナ様、いや、真皇さんに俺は思わず頭を抱え大きなため息を吐いた。


嫌な予感が的中してしまった……どおりで住所も書けないワケだ……


しかも、もし彼女を採用したら……俺は彼女と一緒に住むという心が落ち着かない状況が生まれることとなってしまう……なんなら執事時代に逆戻りの可能性も……


「はい……一応寮がありますが、それはこのカフェの上の私の自宅の一部を寮に改装したものですので……私と一緒に住まなければいけないのであまりオススメは……」


俺が最後まで言い切る前に、彼女がぐっと身を乗り出してくる。

テーブル越しに美しい顔が急接近し、視界いっぱいにその表情が迫ると同時に彼女の胸がぷるんと揺れる。なんかもうすっごい……


「一緒に住めるの!?マジで!?治人と!?………絶対やる!お願い!このバイトやらせて!!お願いします!何でもするから!………えっちな事でも!……とりあえずおっぱい揉む?それとも吸う?」


そう言っておっぱいを寄せて深い谷間を作ってくる彼女。なんとけしからん。

なんですぐにこの人はエッチな方向に……え?吸う?そんな選択肢あんの!?


「結構です!セクハラですよそれ!?」


かつては主従関係にあった間柄だ。転生したとて、自分よりも格下の存在と生活を共にすることに抵抗はないのだろうか。

思わず思考に沈んだ俺の表情を彼女は不安そうにキョロキョロと覗き込みながら、なおも言葉を続けていた。


「ねぇ治人……お願いだよぉ……もしウチこのままバイトも住むところもなくなったら生きていけないよ……悪いお兄さん達にえっちな事させられちゃうかもしれない……助けてよぉ……頑張って働くからぁ〜」


潤んだ瞳でこちらにアピールをしてくる彼女。

その言い方はずるい。思わず想像してしまう。

確かにこれほどまでに美しい容姿をしていればあらゆる意味で危険だ。


でも、彼女と一緒に住むことになったら……俺は理性を保てるだろうか? 人間になった俺に……


悩む俺に彼女はさらに言葉をたたみかけてくる。


「ねぇ治人は今、彼女とかいるの?」

「それに何の関係が……?」

「ウチを雇ってくれれば、家でも頑張って色々お世話とかもしてあげるし……」



「ウチがになったげる♡」



「……………………………………はっ?」


衝撃的な一言に思考が一瞬止まった。

目の前の彼女は、照れたような顔でしおらしく微笑んでて……悔しいが可愛い。


でも、俺の嫁になる??………無理無理無理、絶対ダメだろ……そもそも冗談だよな?


前世で彼女に恋していたのは事実だ。だがそれは彼女の死と共に終わった想いだ。

今の俺はただ普通の恋がしたい。しがらみのない対等な人としての恋を。


「お〜〜い?治人?治人〜〜?大丈夫??」


おそらく俺は完全に硬直していたのだろう。

目の前で手を振り心配そうに見つめてくる彼女の姿にようやく意識が現実へと引き戻される。


「失礼しました……あまりにびっくりして……」

「そんなに?………そっか………びっくりしちゃったんだ……ごめん」


今度はしょんぼりと、どこか寂しげに目を伏せる彼女。

前世ではほとんど感情を表に出さなかった彼女がこうして豊かに気持ちを見せてくるのは不思議と新鮮だ。エモい。

ただ、何が彼女をそんなに落ち込ませているのかがわからない……


俺は取り乱してしまったことを少しだけ悔やみながら、改めて彼女の採用について真面目に考え始めた。


経営的には不採用一択だ。

経歴から見ても明らかなポンコツ店員になるだろう真皇さんを雇うメリットはない。


しかし——


今の彼女をこのまま放り出すのはあまりにも非情すぎる。

これが赤の他人なら話は別だが、前世で多くの恩を受けた俺にとってはそう簡単に割り切れる話ではない。


なんせ真皇さん、いやルーナ様は孤児だった俺を拾ってくださった方なのだから……


今こそ、その恩に報いる時なのかもしれない。これを逃せば一生後悔するかもしれない。

覚悟を決めた俺は一呼吸おいてゆっくりと口を開く。


「わかりました……真皇さん、採用です。これからっ……ってうわぁ!?!?」

「ほんとっ!?治人ありがとっ♡ウチめっっっちゃ頑張るから!いっぱいお世話してあげるからっ♡」


ふと気づけば真皇さんがすぐ隣にいて、そのまま突然抱きつかれた。

思わず抑えきれずに妙な声が漏れてしまう。


花のように甘く漂う香り、脇腹に触れる柔らかな感触、そして美しい笑顔。

そのすべてが俺の理性を静かに揺さぶる。


けれど同時に、不思議なほど懐かしい感情が胸の奥から湧き上がっていた。


——やはりこの人の隣には俺がいるべきなのかな?まさかな……


そんな思いが巡る中、俺はそっと苦笑いを浮かべ大喜びする真皇さんに目をやった——




次回:主従の契約

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奥付

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〜スレンダーなのに色々でっかい地味で気弱な中田さんをゲス彼から助けた俺は、全力で彼女を可愛くしてあげたい。〜

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