第5話 お化け退治のご依頼
「それで、相談というのは?」
クロエにつれられた私は、相談をしたいというお客様と対面することとなりました。
今度のお客様は二十歳前後で茶髪のおとなしそうな娘さんでした。
「あの…その…」
しかしその娘さんは、相談したいと申し出たのにも関わらず、まごまごしていて、要件をなかなか言ってくださいません。
「なんだよ、言いたいことあるなら、さっさと言えよ」
いつの間にか私についてきていたムーンは、口ごもってしまったお客様にしびれを切らし、なかなか当たりのきつい一言をぶちまけました。
「ちょっと!ムーン、お客様に失礼でしょ!」
お客様への暴言はご法度。
私はあわててムーンを抱きかかえると注意します。
「そーだよぉ~もしそれでお客さんのがして、煮干し食べられなくなったら、ムーンのせいだからねぇ~」
私にセリフを合わせてクロエも注意しますが、こっちはなんだか目がコインになってるし。
全く、自分たちの仕事をわかってるんだか、この2匹は。
私はあわてて、お客様に頭を下げました。
「すいません、生意気なことばかり言う精霊たちで」
「いえいえ。確かに精霊の力を借りて、問題解決なんて虫が良すぎますよね。」
「そんな!こちらは精霊たちをいじめさえしなければ、どのような目的で借りていただいても大丈夫なのですよ?まぁ…本人に同意を得られればですが。」
実際、お化けというのは珍しいですが…今までも、力を貸してほしいという依頼は多々ありました。
本人たちがOKすれば、現場に向かいましたし。
愛玩目的だけではなく、何でも屋の側面もあるので、精霊が拒否さえしなければ、断る理由もないんですよね。
意外と好戦的な精霊は軍隊に入ることもありますし。
「里親探しメインの子もいるけどぉ~金儲けや何でも屋を生きがいにしてる子もいるから、気にしなくていいよぉ~」
「まぁ、目的や人柄と相性次第といいますか。」
「…」
しかしクロエと私がどれだけ取り繕っても、お客様は口を開こうとしません。
ムーンの一言で、だいぶ気が引けてしまったようです。
それなのに…
「ちょっとお客さん、相談があってきたなら、いい加減うじうじしてないでいいなよ。オイラの言うことなんか気にしなくていいからさ」
原因と思われるムーンが、余計な一言を追加します。
「ムーン!いい加減にしなさい!初対面の人と話すときはまずは言葉を選んで柔和にしゃべりなさい!」
私は少し強めにムーンを怒ります。
お客様でなくても、コミュニケーションをとるうえでも失礼なので、もはやしつけや従業員という理由ではなく、普通に人として叱ります。
「悪いね、憎まれ口言うのがオイラの生きがいなんだ。」
全くムーンには響きませんでした。
「育て方を間違えたわ。」
「育ててもらった覚えはないね。」
そしてプンとそっぽを向いて、私の腕から飛び降りました。
全く…これでも一番の古株で、ここまで助け合いながら逃げてきたので、頼りにはしているんだけど…やっぱ商売には向かないたちのようです。
そんな私たちを見かねて、クロエが話を続けてくれました。
「それでぇ~?結局何の相談~?言えないのは信用できないってことぉ~?」
「いや、そういうことではなくて…言っても信じてもらえるかどうか…それを悩んでおりまして。」
「と、言いますと…?」
「あの…だからつまり…お化け退治ができる精霊はいませんか!?」
「お…お化け?」
そのご依頼は…想定外でした。
「うわぁ、トリッキーな依頼来たー」
「なぁにぃ~?お化けってぇ~?」
珍しい相談に、ムーンは頭を抱え、クロエは興味津々です。
正直、夏の怪談で聞く以外は、私も適当に流すタイプなんだけど…
ご依頼とあらば、スルーするわけにもいきません。
「詳しく教えてください。」
私がそう先を促すと、依頼人はようやく口を開いて、事情を話してくれました。
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