第3話 精霊レンタルの目的



「あの、精霊をレンタルできるって本当ですか!?」



お客様にそう尋ねられたので、私は誠心誠意営業スマイルでお答えします。



「もちろんです。精霊本人から同意を得ることが条件ですが」



そう、私は精霊がお客様と出会う場を作るまでが仕事。

契約まで私がしてしまうと人権ならぬ精権がなくなってしまいますから。


あくまで契約は精霊本人がすることにしているのです。



「すごーい!精霊って契約するのすごく大変だって聞いたのに!」



「野生の精霊は警戒心すごいので、そう言われているのかと。この子達は人慣れしてるので大丈夫ですよ」



「そうなんだーちょっと契約してみようかな…」



「どうぞどうぞ、ぜひゆっくり精霊とお話ししてモフモフしてみてくださいね。もしご希望の精霊とか、精霊にお手伝いしてほしいことがあれば、ご相談に乗りますよ」



私はお客様に適度に接客をすると、お客様が癒し目的だということがわかったので、精霊との戯れコーナーに案内し、精霊たちと触れ合うことをお勧めします。



お客様は、たくさんの精霊と戯れることができて、満足そうにしています。


そんなお客様を見て、またほろりと涙を流した私に、またムーンが口を挟みます。




「涙もろくなったな、年食ったか?」



「まだ10代ですー。若いですー。でも涙が出ちゃう。令嬢だもん。」



な。」



「うるさいなぁ、なんだっていいじゃない。うれしいんだもん。不幸体質が理由で兄の縁談を台無しにし、貴族を追放されるような私がさ、精霊の里親探しをすることで、あの子たちを助けられてるんだから。」



「まったく、自分が生きるか死ぬかの瀬戸際だったってのに、よくも『お店やるより、安心できる寝床が欲しい。』って意見を取り入れて、レンタル業なんてやれたもんだよな。」



「だって、たまたま集まってきた子たちが、捨てられた子、とか追い出された子、とか、不憫な子が多かったじゃない。自分の利益で無理にお店をやるよりは、この子たちの心のケアした方がいいんじゃないかなって。」



「だけど、仕事あげることでメンタルが強くなったかもしれないぞ?」



「だから、みんな毎日パフォーマンスに磨きをかけてるんでしょ?自分の特技でお客様を楽しませることで、このキャラバンでの存在価値を高めてる。実際みんなレンタルキャラバンに来てから、みんなたくましくなったよ?」



「それはそうだけども…いいのか?精霊のことばっか気を使って。自分のためにもう少し頑張っても。」



「やだな。私精霊のために働けるのうれしいよ?里親決まったときとか、ステージがうまくいった時よりうれしいもの。」



そんな話をしていると、精霊のたまり場から、一匹の精霊が飛び出して、こちらに向かって走ってきました。



「ごしゅじーん、レンタル契約できたよー!」



さっきパフォーマンスでも、跳躍力を見せ拍手の大喝采を受けた、犬の精霊チワです。


里親が欲しいという思い精霊だと、大体チワのように大喜びします。


まだレンタル契約ですが、一週間のレンタル期間後双方の同意があれば正式にお客様が里親になって一緒に暮らすことができるのです。


なので、私も自分のことのようにうれしくなって、一緒になって喜びます。



「さすがだね!契約するのはどの人?」



「あのおじーちゃん!」



私の問いに対し、チワは契約してくれたおじいちゃんの方に体を向け、しっぽを振りながら教えてくれました。


そして、その契約希望のおじいちゃんは、少し照れながら私の方に歩いてくると、私に声をかけてくれました。



「いいんですかな?こんなに可愛らしい精霊をレンタルしても。」



「もちろんですよ、うちの精霊は人の役に立つのが大好きで、人と暮らすことに幸せを感じておりますから。」



そういいながら、私はチワに視線を向け「ねー」と声をかけ合わせます。



「ありがたいのお」



「お客さまこそ、チワをレンタルいただいてありがとうございます。」



「いやぁ…私も独り身でさみしい思いをしていたのですが…今日のパフォーマンスで元気にジャンプしてるこの子がかわいく見えてのぉ…頭からその姿が離れないのじゃ。」



なるほど、チワの跳躍力ではなく元気さを買ってくれたというわけね。


それならもう、お断りする理由はありません。


お客様からレンタル費をいただいて、レンタル契約は締結されました。



「お代も確かに。じゃあこの子をよろしくお願いします。チワ、一週間お勤めよろしくね。」



「はーい、いってくるねー」



そういうと、チワは契約したおじいちゃんに抱えられながらしっぽを振ってそう返事をしました。


あまりにもチワが浮かれていたので、ふと、をしていないか不安になった私は、一度だけ声を掛けました。



「あ、転送パッチ忘れないでね!なんかトラブルあったら使うんだよー!」



「わかってるよー!」



まだ不安が残るけど、本人が元気なのでまあ大丈夫でしょう。


万が一何かあったときは、この町にいる間は何とかなるし、まぁ今は明るく見送ってあげよう。


そう思った私は、白いハンカチを右手に持ち、チワと契約者さんの姿が小さくなるまでそれを振り続けました。

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