第2話 追放令嬢の甘くない野宿暮らし。

そうこうしていると、野生の精霊が、私たちのご飯を目当てに集まってくるようになりました。


精霊は好きですし、何より野生の精霊をなつかせることに成功すれば、お店を開くときに負担が大分減ります。


なので彼らの栄養食、マシュマロで餌付けしまくりました。


この時点でおおよそ集まってきた精霊は10匹。


これだけ精霊がいれば、カフェを開くためのお金が浮くのでは…と思い、彼らに相談したのですが…



「お店やるより、安心できる寝床が欲しい。」



という意見が多かったのです。



そのうちの何匹かはもともとペットとして飼われていた精霊や、ギルドで冒険していた精霊もいるので、人と暮らしたいという思いが強いようです。


嫌なことを無理やりやらせるのはよくないし、ということで話し合いをした結果ギルドにいた経験から特技がある精霊も結構いたので、

なら、ムーンみたいにみんなで何か一芸見せて稼ごう…という話になり、気が付いたら旅をしながら精霊の大道芸を見せるという旅芸人の真似事みたいな仕事を続けることになり、




ということで今に至り…



「さぁ、続きましては、火の輪くぐり。挑戦するのは…犬の精霊チワ!皆さん応援よろしくお願いします!」



今日も今日とて、旅先の町で、精霊たちのパフォーマンスを披露しています。



「キャーかわいい」



「がんばってー!」



「モフモフワンちゃんかわいいよおお!!!」



精霊たちのパフォーマンスが始まると、道行く人たちは忙しい朝だというのに、足を止めてくれました。


大道芸をする精霊たちを一目見ようと、パフォーマンスを行う精霊たちの周りには、人だかりができています。



「3!2!1!」



その掛け声でぴょーんと高く飛ぶと、難なく火の輪をくぐる精霊。


それに大歓声が上がります。



「きゃーーーかわいいい!!」



「すごい!精霊たちってこんなことができるんだ!!」



そんなお客様たちの拍手と歓声を聞きながら私はすかさずをします。



「この子は体が軽くて跳躍力が高いのです!この子は特に度胸もありますので、ぜひごひいきによろしくお願いしまーす!」



そしてパフォーマンスを見せた精霊は、満足そうにお辞儀をすると、テテテと歩いてフレームアウトしました。


そして、司会の私は引き続き話し続けます。



「さて、まだまだ続きますよ!この次は子猿の精霊の綱渡り、ゴーレムの力自慢など、サーカスに負けないパフォーマンスをご覧に入れましょう!でもそのまえに、箸休めにローレライの歌を皆様に聞いていただきたいと思います!」




そして拍手をすると、後ろの噴水からザッパーンと人魚が現れると、ハープを奏でながらしっとりとした癒し系の歌を歌うのでした。


歌うのは一人ですが、演出のためにシャボン玉を飛ばしたり、シャボン玉を飛ばすための風を起こしているのは、また別の精霊です。


そして最後の演出に虹を出すのも、やはり精霊の役目。


そんな精霊たちがたくさん表れ演目が繰り広げられる、この満足度の高い舞台は感動そのもので、お客様の目は精霊にくぎ付けです。


そんな時に



「面白かったら、ぜひともお心遣いをー」



「チラシもどーぞ」



なんて、かわいいペンギンの精霊にうる目おねだりされて、帽子なんか持ってきた暁には、チップを入れないわけにはいきません。


わずかではありますが、皆様お心遣いをしてくださいます。



「あぁ…今日も満足度の高い舞台がができたわ…貴族追放されてよかった…。」



私は満足いくステージを作り上げることができたことに感動し、涙をほろりと流します。


それを見た狐の精霊、ムーンは、ため息交じりに私に声をかけてきました。


「ご主人、あるまじき発言をしながら泣いてる場合じゃないよ、仕事しなよ。」



「だから、今仕事してるじゃない…精霊たちの舞台を見守るという」



「そっちも大事だけど、本業もちゃんとやんないと。ほら、お客さん来てるよ。」



そういうとムーンは私の足をポンポンとたたくと、チラシを持って待機しているお客様の方に顔を向けました。



そう、私たちは「大道芸一座」でも「サーカス団」でもありません。


だって「大道芸」だけでは「お店やるより、安心できる寝床が欲しい。」という精霊たちの望みをかなえることができず、100匹もの精霊が私についてきてくれません。



それに、どんなに上等なパフォーマンスをしようとも、貴族や王族に呼ばれない限りは、大した収入にはならないのです。


私たちの収入を安定させ、精霊たちの望みをかなえることが「本業」ならできる。



精霊たちのパフォーマンスは、あくまでお客さまに「本業」の興味を持ってもらうためのフック。

さっきチップ回収に行ったペンギンたちに、この精霊レンタルのチラシも渡してもらっていて、精霊をレンタルに興味を持ってもらうのが真の狙い。



私のお店の名前は「精霊レンタルキャラバン」



つまり『精霊レンタル業』こそが本業なのです。



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