第57話


瞼を開けると、蝋燭台の近くで、最後だと知らせる為に、蝋燭の火が、怪しく揺れている。


琥珀の姿は、何処にもない。


だけど、確実に、私の中に残っている。


ゆっくり、身体を起こし、琥珀が着ていた黒いワイシャツを拾う。


そのワイシャツだけを着て、ベッドから出る。


ドアの方へと足を進めて、片方だけ開け、廊下を素足のままで歩く。


永遠も、この世から、消えた。


消したのは、琥珀。


『曼珠沙華が咲く頃に、全てが終わる』と言ったのも、琥珀。


その言葉を、いつ聞いたのか、覚えていない。



玄関フロアで、足を止め、両開きのドアの片方だけ開け、庭に出る。


庭一面に、怪しく咲いているのは、曼珠沙華。


恋しいと言う気持ちも、愛おしいと言う気持ちも、吸い込んで、曼珠沙華は、怪しく咲き誇る。



無くしたのは、記憶ではない。


無くしたのは、母親だと記憶にある女の人。



殺したのは、私。


そして、琥珀が、トドメを刺した。



後悔はしていない。


誰も知らない私と琥珀の秘密。



曖昧な気持ちのまま、生活していれば、琥珀が消える事はなかった。


何も覚えてない振りを続けていれば、琥珀と生きていけた。


でも、そんな生活は、無駄なだけ。

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