第56話


甘い声が私の口から漏れる。


それを隠す為に、右手を口へと持っていく。



「葵、濡れてる」



感情のない言葉なのに、どこか、厭らしく聞こえる。


私の中で、格闘するのは、素直な気持ちと、羞恥心。


何も考えられなくなった時、私の敏感な部分に、硬いモノを、当てる琥珀。


その瞳は、妖艶だと思えた。


ゆっくりと、私の中に入ってくるのを、確かに感じた。



「……琥珀……」



名前を呼べば、私の唇に、自分の唇を重ねた琥珀が、強引に、私の口内に、自分の舌先を捩込んできた。


先に、琥珀の舌先に、絡めたのは、私の舌先。



私は、この感覚を知っている。


これが、初めてじゃない。


それが、いつだったかを覚えていない。



「葵、そろそろ」



そう言った琥珀が、腰を律動させる。


私は、ひたすら、琥珀の名前を呼んだ。


愛していると言う言葉を求める為に、琥珀の身体に、私の両手を回す。



「琥珀、消えないで……」



そう言葉にしたのは、琥珀の身体が、少しずつ霞んでいくから……



「いや、いや、琥珀が消えたら、私は生きていけない」



快楽の中、混乱する私の気持ち。


届かない。


琥珀に私の気持ちは、届かない。



ガブッと噛み付かれた痛みの後、吸われたのは、私の血?



頭の中が、真っ白になり、絶頂に達した私は、そのまま意識を手放した。


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